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――友達のままで、いられると思ってた。
夏の始まり。ふたりで約束した、たった一度の「お祭り」。
だけど、浴衣に袖を通したあいつを見た瞬間。
もう、胸が苦しくて仕方なかった。
「……なに? そんなに見んの、変?」
「……いや。似合いすぎて、ビビってる」
「は? 何それ」
気まずく笑い合いながら、でもどこか照れくさくて、視線が泳ぐ。
たった数時間の、ふたりきりの夜。
――だけど、それだけで十分だった。
提灯の灯りが、赤く揺れる。
ふたりで並んで歩く境内の参道。
浴衣の裾が風に揺れ、すれ違う浴衣姿の男女の笑い声が遠くで響く。
「お前さ……なんでそんな浴衣、似合うんだよ」
「なにそれ、文句?」
「褒めてんの。ちょっと……可愛すぎんだろ」
「……っ、バカじゃね?」
顔をそむけるその横顔に、赤みが差していた。
襟元がわずかに緩んでいて、前屈みになるたびに、すべすべした鎖骨がちらりとのぞく。
(やば……何、あれ。反則)
無意識に視線が吸い寄せられた。
そして次の瞬間、射的の屋台で、あいつが構えた銃を持つ腕に目を奪われる。
「はい、集中ー……って、お前、何ジッと見てんの?」
「……いや、なんか……腕、いいなって思って」
「どこ見てんだよ……」
苦笑しながらも、あいつの耳が少しだけ赤く染まっていた。
そして、金魚すくい。
りんご飴。
並んで歩くたび、浴衣の袖が重なるたび――
抑えきれない何かが、じわじわと膨らんでいった。
「ちょっと……人混み疲れたな」
「こっち来いよ。裏のほう、誰もいなかったから」
夜風が、汗ばんだ肌をやさしくなでる。
提灯の明かりが届かない静かな石段にふたりきり。
無言で座り、肩が触れそうな距離。
そのとき、ふと彼が前かがみになった瞬間――
開いた浴衣の胸元から、さらりとした肌がのぞいた。
(……やば)
我慢してた理性が、限界を告げた。
「……なあ、ちょっとだけ……目、閉じてくんない?」
「は? なんで……っ」
その言葉を遮るように、唇を重ねた。
ほんの一瞬。けれど、確かに触れた。
「……っ、お前、なにして――」
「ごめん。……我慢できなかった」
「……バカ」
声は怒っているようで、けれど逃げなかった。
ふたりの距離は、もう戻れないほど近づいていた。
誰もいない、木陰の奥。
遠くから聞こえる太鼓の音と、風鈴のような浴衣のすれ合う音。
「……ほんとに、いいの?」
伊織(いおり)が小さく問いかけると、
さっきキスされたばかりの唇を指でそっとなぞりながら、湊(みなと)が頷いた。
「いいとか、悪いとかじゃなくて……
お前に触れられるの、止められねぇの、もう……」
「……そっちが先に仕掛けてきたくせに」
湊が、伊織の胸元に手を滑り込ませた。
「うわ、え、ちょ……っ」
ひらりと、浴衣の合わせがほどける。
中からのぞいたのは、白くて滑らかな肌――
首筋から鎖骨にかけて、やや火照ったそのラインに、思わず喉が鳴る。
「お前さ……今日一日、俺に喧嘩売ってた?」
「は?」
「こんなに可愛い浴衣着て、前かがみになったときにだけ胸元見せたり、
腕とか、鎖骨とか、全部俺の“好き”突いてきたよな」
「……知らねーよ……」
湊が押し倒されるように、後ろに倒れた。
石段の奥、草むらの影。
誰にも見られない――でも、**“外”**だという背徳感が、ふたりの息をさらに熱くさせる。
「じゃあ、もう言い訳すんなよ」
伊織が首筋に唇を這わせ、じっとりと肌を舐めた。
「んっ……ちょ、お前……舐めるとか……っ」
「ダメ? ……感じてるくせに」
湊の体がビクッと跳ねる。
さっきまで緊張していたくせに、触れられるたび、肌は素直に反応していく。
胸元の肌を指先でなぞられるたび、
甘い吐息が漏れ、細い指が草を掴んでいる。
「や、やばい……こんなとこで……っ」
「俺も……やばいくらい、我慢してた。
浴衣の下、ずっと……お前のことで、勃ってた」
耳元で囁かれたその言葉に、湊の瞳が潤んだ。
「伊織、やば……ほんと、えっち……」
「お前が悪いんだよ。かわいすぎんだって……」
そのまま、手が浴衣の下に潜り込む。
ふくらはぎを撫で、太ももをくすぐるように指が這って――
「っ……あ……っ!」
押し殺した声が漏れる。
湊の浴衣がはだけ、滑らかな肌が夜風にさらされる。
「……声、我慢しなくていいよ。
この感じ……夏の夜風と、お前の体温、ヤバすぎて……もっと聞きたい」
「バカ……」
ふたりの手が、浴衣の中で絡み合い、
くちづけはさらに深く、熱く、濡れていった。
夜の神社。
灯りの届かない裏手で、
まだ付き合っていないふたりの、
ひと夏の“はじまり”が、甘くとろけるように重なっていった――
「っ、あ……伊織……!」
湊の身体がぴくんと跳ねる。
草むらの中、はだけた浴衣。
露になった太ももを伊織の指が這い、奥まで触れられて、湊は必死に声を押し殺す。
「や、だ……誰か、来たら……っ」
「来ても、絶対バレないようにしてやるから。
ほら、もう……お前、こんなに感じてんのに?」
「っ……ば、か……!」
甘く湿った吐息が、夜の空気に溶けていく。
と、そこに――
「えー!? 屋台もう閉まってる!? まじ最悪ー!」
「あはは、じゃあ神社の裏回って戻ろ!」
ザクッ、ザクッと、砂利を踏む足音が近づいてくる。
「っ!?」
湊の顔が凍りつく。
聞き覚えのある声――同じクラスの女子たちだ。
(やばい、こっち来たら……!)
伊織は湊の身体をぐっと抱き寄せ、草陰のさらに奥へ押し込む。
耳元で、くすっと笑う声。
「……動かないで。声出したら、バレるよ?」
「~~っ、や、でも……! 動かして……っ」
「お前の中、熱くて……ぬるぬるしてて……やば、ほんと我慢できない」
指先がまた、奥をかき回す。
「っ……あ……く……♡」
声を漏らさないよう、湊は自分の指で口を塞いだ。
目の前を、同級生の足が通り過ぎていく。
ほんの数メートル先。
だけど、彼女たちはふたりの存在に気づかない。
「……ねえ、今誰かいた?」
「え、うそ怖っ……猫とかじゃない?」
「やだ〜、戻ろ戻ろ!」
笑い声とともに、足音が遠ざかる。
(……よかった……!)
と安堵したのも束の間――
伊織の指が、もっと激しく、奥をえぐった。
「ん、んんっ……やば、イっちゃう……っ♡」
「ダメ。出すなら、俺の指の中で」
伊織の瞳は、暗闇の中で熱く光っている。
「さっきまで、“付き合ってない”とか思ってたけど……
もう、無理だわ。
お前の全部、俺のにする」
そう囁いた瞬間――
湊の身体が、びくびくと震えながら、限界を迎えた。
「……お前、ほんと鬼だろ……」
「我慢させたのは、そっちだし」
「せめて、同級生が近くにいるときくらい……!」
「それ、興奮してた顔で言われてもな」
湊は真っ赤になって俯く。
はだけた浴衣を整えながら、伊織の肩に小突いた。
「……責任、取れよな」
「もちろん。……付き合おう、湊」
「……うん」
夜風が通り抜ける。
ふたりの想いは、もう止まらなかった。
湊は歩きながら、ちらりと伊織を睨んだ。
「……お前のせいで、浴衣……びしょびしょなんだけど」
「俺のせいだけじゃなくね? お前も感じすぎてたじゃん」
「……っ、お前ほんと……最低……!」
湊はぷいっと顔を背けたが、真っ赤になった耳は伊織の視界にバッチリ入っている。
「まあ……仕方ねえな。こんな格好で家帰れねーし」
「じゃあどうすんだよ」
「今夜、どっか泊まろう。俺と」
「……えっ、マジで……?」
「最後まで、したくて限界なんだけど。お前も……そうだろ?」
「…………っ」
湊は小さく頷いた。
祭りのあと、空いていた駅前のホテルに転がり込んだふたり。
シャワーを浴びて、湊は用意された部屋着のTシャツ姿。下は短パン。
ベッドの上にちょこんと座っている姿に、伊織の理性はまたも崩壊しかける。
「お前さぁ……部屋着なのに、なんでそんなにエロいの……」
「どこ見てんだよっ!」
「脚。……出すぎ。あと、さっきから下着のライン見えてんの、わざと?」
「わざとじゃねーし! お前が勝手に見て……!」
「じゃあ、見ないようにしてやるから」
「えっ、なに――っ」
伊織がそのまま湊を押し倒す。
ベッドの上。
湊のTシャツが、ゆっくりとめくられていく。
「っ……や、また……触るの……?」
「触るだけで済むと思ってんの?」
「……バカ」
伊織の唇が、胸元の先端に触れる。
ちゅっ、ちゅっ……と音を立てて吸いながら、反対の手は下へ滑り込む。
「ん……っ、も、やば……っ」
シャワーのあとでほんのり熱のこもった肌が、またすぐに火照っていく。
やがて、Tシャツも脱がされ、下も脱がされて――
シーツの上には、すべすべとした白い肌があらわになる。
「お前の全部、見えてる」
「っ、見んな……っ」
「何回見ても、見飽きない。もっと奥まで、全部、俺のにしたい」
伊織が湊の脚をゆっくり開かせ、指でやさしく撫でていく。
「やっ、やだ……っ、そこ……!」
「大丈夫。ちゃんと準備する。焦らないで、俺に任せろ」
オイルを塗りながら、やさしく奥まで慣らして――
何度も繰り返し、深くまで入ったそのとき、
「んっ……っ、あ……♡ き、きて……!」
「イくまで、離さねえ」
ゆっくり、でもしっかりと押し込まれる熱。
最初はくすぐったくて、苦しくて、でも――
「い、いおり、もっと……っ、奥……!」
「かわいすぎる、お前……やば……」
ベッドがきしむ音。
甘く濡れた声。
何度も絶頂を繰り返すうちに、ふたりの肌は汗で絡まり合い、
最後には、ふたり一緒に――深く、深く、イった。
湊がシーツに包まりながら、ぽそっと呟く。
「……腰、動かないんだけど」
「愛が重すぎた?」
「うっさい……でも、嬉しかった」
伊織は湊の頬にキスを落とし、指を絡める。
「これからも、ずっと一緒にいような」
「……うん」
日焼け止めの匂いと、昨夜の残り香がまだベッドに残る朝。
ふたりの“恋人としての最初の夜”は、こうして幕を閉じた。