テラーノベル
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都庁の崩落から一夜明け、新宿の空気はどこか刺すように冷たかった。
街の機能は麻痺したままだが
生き残った住人たちは瓦礫を退け、炊き出しの煙が路地裏から立ち上っている。
それは、組織が予言した「死の静寂」とは真逆の、泥臭い生の光景だった。
「兄貴、志摩さんが呼んでます。…例の『計画書』、さらにヤバいもんが見つかったって」
山城が、包帯を巻いた腕で俺を手招きする。
地下の臨時司令部。モニターの前に座る志摩の顔は、昨夜よりも数段やつれ、瞳には焦燥の色が濃くにじみ出ていた。
「和貴、見てくれ。これが影山の端末から復元した、組織の真の相関図だ」
画面に映し出されたのは、政界、財界、そしてメディア。
それらが一つの巨大な「百合の紋章」に収束している。
だが、その頂点に記されていたのは個人名ではなく、一つのコードネームだった。
「……『麒麟』?」
「ああ。神崎や影山を駒として動かしていた真の黒幕。そいつが現在、政府が推進している『デジタル特別行政区計画』の責任者だ」
志摩がキーを叩くと、一人の男のプロフィールが表示された。
久我山
かつて親父が所属していた組織の創設メンバーであり、現在は政府の諮問委員を務める「情報の怪物」。
「久我山は、新宿の陥没を『テロによる悲劇』として利用し、憲法を改正して全国をデジタル管理下に置くための『緊急事態条項』を発動させるつもりだ。……その期限が、あと78日」
「……つまり、新宿の戦いはまだ『予選』だったってことか」
俺は脇差を磨きながら、低く呟いた。
「それだけじゃない。久我山は、和貴……お前の存在を『テロの主犯』に仕立て上げようとしている。今、地上の警察組織には、お前の抹殺許可が下りた」
その時、地下道の入り口から激しい爆発音が響いた。
モニターが、漆黒の戦闘服に身を包んだ「正規軍」の姿を捉える。
影山の私兵とは違う。法に守られ、国家の正義を掲げる「警察庁特殊部隊」だ。
「……追い出されるのが先か、乗り込むのが先か。決まりだな」
俺は上着を羽織り、山城と源蔵に向かって不敵に笑ってみせた。
「新宿の野良犬を追い詰めたら、どうなるか……国の中枢に教えてやろうぜ」
残された時間は、あと78日。
戦場は新宿の路地裏から、永田町の深淵へと移り変わる。
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