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スライムに取り込まれた俺は、どんなに力を振るっても意味はなく、スライムの中で二人が拳銃を突き付けられているのを、何も出来ずに見遣っていた。
(クソッ……こんなベトベト野郎の中じゃ力も上手く入れられないし……声も発せねぇ……!! アイツらは……山田さんは何を考えてんだ……!!)
「さあ……動いてもらっちゃ困るよ、お二人さん……」
「何してるんですか……? その拳銃……赤城門の中でも、重鎮にしか持つことの許されない、『人体を細胞レベルで破壊する拳銃』ですよね……。それを僕たちに向けるってどういうことか……分かってるんですか……」
赤城門、それは、宇宙人たちとの交易や、UT技術などの最先端技術の場から、直径数百メートルまでに伸びる、赤い建物群を指す。
そこに住める者は、UT技術開発に勤しむ者や、山田さんのような、商会長を勤める重鎮だらけの、所謂、富裕層だけが住める住宅街だった。
そして、中でも、UT変異体の暴走や、テロリスト、そして、目の前の化け物から身を守る為、全国民に給付されている防護フィルターとは別に、”始末” と言う形で持つことを許されているのが、その拳銃だった。
つまり、
「僕たちに向けるなんて、違法じゃないですか……!」
「あぁ、そうだ。ただな、法律よりも大事にしなけりゃならんモンがある。あのスライムは、水に付けなきゃ小さな害のない生命体だ。だが、出生は、湿地帯しかない惑星の王でもある。皇子は、『その惑星にいなければ無害』と考え連れてきたようだが、以前にも、似たような事故は何回か起きてるんだ……」
そんな説明もゆっくりとされながら、俺の意識はぼんやりと掠れていく。
「彼には悪いけど、『UT変異体でも死に追いやる』ということを理解させないといけない。これ以上、皇子の我儘で地球に変なものを連れ込まれたくないからな……」
「その犠牲が……優さんってことですか!? 受け入れられないです……そんなの!!」
「地球に住むお前たちの為でもあるんだ。俺だって心が痛まない訳じゃない。でも、UT技術自体、何十人と言う犠牲の下で生み出されている。未来へ進む、技術が発達するってことは、誰かが犠牲になってるってことだ。今俺たちがすべきは、その犠牲を受け止め、感謝の心で敬意を示すことだとは思わないか?」
その言葉に、恐らくは少なからず犠牲者を見てきたであろう学は、泣きそうになりながらも、反論できずに歯を食いしばらせた。
しかし、そんな緊迫感の中で口を開いたのは、未だ冷静に杖を構えるルリだった。
「そんな問題じゃないよ」
その一言に、学も山田さんも訝し気な顔を浮かべる。
俺の意識は……もう消えかかっていた。
「優をあのままにしておけば、あのスライムがもたらす被害以上の被害……いや……地球なんてこんな小さな惑星、途端に滅亡するかも知れない」
「おいおい、お嬢さん。君はUT変異体実験のショックで記憶を無くしていると聞いた。今は、君のそんな妄想話に現を抜かしている暇は……」
ボゥッ!!
山田さんが半笑いでルリを見つめた途端、スライムの中から、蒼い炎が燃え広がる。
「始まった……」
「な、なんなんですか!? あれ……!! 優さんのUT技術の能力……? でも……あんな……」
「あれは、私たち異世界……あなたたちが侵略者と呼んでいる世界の魔王のみが使える力……。優の意識が飛んだことで、生命の危機から覚醒を始めた……」
「な、何を言って……」
ダン!!
「ちょっと……山田さん……!!」
山田さんは、咄嗟に拳銃を発砲した。
「あの力がなんなのかは知らないが、スライムの命はもう二の次だ……! 俺たちが必要なのは、『このような被害でUT変異体すら死なせてしまった』という事実さえあればいい! 彼には悪いが、スライムごと死んでもらう!」
「ダメ……! それ以上刺激したら……」
蒼い炎は更に燃え広がり、スライムを遺伝子ごとポコポコと破壊を続けていた弾丸と、中から放出されているウイルスすら、炎に焼き消された。
「なんだと……!?」
そして、俺の目は、蒼く輝く。
「まずい……目を開いた……。急いで封印魔法を施す! どれくらいで目を覚ますかは分からないけど、このままじゃ優はこの世界を滅ぼしちゃう……!!」
ルリが杖を振り翳し、詠唱を始めたその時。
その杖をガシッと掴み、詠唱を止めた学。
「あの蒼炎……見ていると、スライムやウイルスすらをも燃やし尽くすのに、優さんの身体には何人の傷も付けてはいないですよね……」
「そりゃあ……自分から発している力に燃やされるなんてことは……ないけど……」
「僕に……任せてください……!!」
そう言うと、学は鞄の中をガサゴソと漁り、大きな大砲のような筒を取り出した。
「待って……! これ以上、優を刺激したら、覚醒はもっと早まる……!」
「大丈夫です……! いつも言ってますよね……僕は、優さんのファンなんですよ……!! こんな新たな力を見せられたのに、放っておける程、僕の技術者魂は脆いものじゃないです!!」
ボンッ!!
そして、大きな音を出し、大砲からは大きな弾が飛び出した。
その弾は空中上で形を変え、俺の身体を包み込む。
「成功だ……!」
「凄い……蒼炎が燃え広がってない……! でもどうなっているの……?」
「僕は、優さんの血液や、皮膚から開発する武器が多くあるんです! だから、あの優さんを包んだ中には、優さんの筋肉質で出来た防壁が優さんを包んでいる。つまり、優さんに危害を加えられない蒼炎なら、優さんの筋肉質で包んでしまえば、中だけで終わるってことです!」
その内、山田さんの発砲した拳銃により、スライムは徐々に分解され、ゴトッ、と音を立て、俺の入れられた弾のみが地面に落下した。
湖だった場所は、スライムに全て吸われ、広い荒野と成り果てていた。
「これ……中開けたら外に蒼炎が広がる……なんてことになったら、僕らおしまいですね……」
「たぶん大丈夫だと思う。燃える対象がなければ、あの蒼炎が永遠と燃え続けることはない。特に、今の優は魔王の力を存分に使える体力もないから、中に封じてしまえたのなら、優も無事に気絶してると思う……」
学がスッと手を伸ばし、何かの液体をバシャッとかけると、中から服だけが燃えて消えた俺が現れた。
「よかった……。炎もないし、優さんも無事だ……」
ホッとした学は、その場に腰を落とした。
その時、ルリは山田さんに杖を翳す。
「ねえ、あなた」
山田さんは、ただ呆然と、その光景を眺めていた。
「私たちにあんなことして、優を犠牲にまでしようとして……どう落とし前付けるつもり……?」
「はは……あははは……」
山田さんは、愕然と膝から崩れ落ちた。
「何……?」
「いやぁ……君たち……格好いいね。なんだか、自分が情けなく思えてきちゃってさ……」
そのまま姿勢を変え、山田さんは土下座した。
「この度は本当に申し訳なかった。俺は……この仕事を辞職することにするよ。俺も本当は、もう嫌だったんだ。正義を盾に、様々な犠牲を目の前に、自分のことを言い聞かせていないと、どうにかなってしまいそうだった……」
「分かりますよ……山田さん……。僕も、いざ念願のUT技術班に入れられて、でも、日々犠牲を前に、それでも前に突き進まなければいけない恐怖が……」
ガシッと、学の頭は掴まれる。
「えっ……」
「あぁ。だから、恥じることはねぇと思う。人の為にやっていた事実、その誇りは、無くさなくていいんだ。助けてくれてありがとな、二人とも。山田さんも、自分の正義を貫いてくれよ、これからもさ」
「あっ、優さん! あなたが一番危険なことになってたのに、一丁前に!!」
「だってお前らに任せてたら、情に絆されて、真の目的忘れそうじゃん」
「真の目的……?」
その後、俺の口座には、キッチリと三十万円が振り込まれ、俺は半年間のバイト無しを許された。