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「へぇ、上手いね。」
放課後のクラスで絵を書いていたサカモトに話しかけたのは、同じクラスのクライだった。
「大したことないよ。適当に書いてるだけ。」
サカモトは答えた。事実だった。
その絵は全体的なまとまりはあるものの、細部は鉛筆で粗雑に書かれていた。
「十分でしょ。あたしじゃこんなに上手く書けないし。あたしもこんな絵欲しいなー。」
サカモトは絵を褒められたのは初めてだった。そもそもサカモトはクラスの中では影のようで、常に周りに人が集まってくるようなクライとは正反対に位置していた。だからこそ、そんなクライからの言葉には真実味があった。
「じゃあ、なにか描いてあげようか?」
「んー…赤一色でなにか描いて!」
「えぇ…悪趣味…」
「うるさいなー。画材はあたしの使っていいからさー、ね?」
「分かったよ。でも期待はしないでね?」
「分かったー。んじゃよろしくねー。」
そう言ってクライは教室を出ていった。
その日、サカモトはひたすらに描き続けた。
「うーん、さすが。ありがとうね。
手渡された絵を眺めたクライが言った。
「赤一色だと本当に大変だったんだから。」
左腕を抑えながらサカモトは言った。
「それじゃ、また描いて。」
「またぁ?しかも赤一色でしょ?」
「もちろん!」
「はぁ…なくなっちゃうよ…」
「それじゃよろしくねー。」
同じようなことを、数日繰り返した。
「これ、今日の絵。」
左手首から二の腕にかけて包帯を巻いたサカモトが手渡した。
「ありがと!うん、よく描けてる。」
絵をじっくりと眺めたクライが言葉を続ける
「ところでさ、あの画材の箱の中、筆とパレットとアートナイフしか入ってないんだよね。
さて、次はどれだけもらおうかな?」
クライがゆっくりと口角を上げる。
呆れたような、喜んでいるような、そんな表情で
「私」は言い返した。
「ホント、悪趣味。」