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屋敷を出て母上と馬車で王都の市井を移動する。
『今日のご飯は何にしたい?』
『この商品、もう少し安くならない?』
『今日彼がプレゼントくれたの?!』
もう慣れたのだが、街中では常に人の会話が聞こえる。
だが、慣れたもので耳が痛くなることはない。
耳の感度に慣れてきたんだ。
付き合ってくれたウェルには感謝しないとな。
「アレン、これから行くところは私とキアンがよく行っていたお店なのよ」
「それは楽しみです」
王都に着いた時なんて、こんなに会話をする余裕すらなかった。
今では母上と会話をしながら外の声も聞くことも可能。
大きな成長である。
母上と今後の流れを確認しながら馬車で進む。
それから10分ほど移動した後、母上が言っていた店に着いた。
店の名前は「イゼリア」というお店。
店内に入ると少し落ち着いた雰囲気だった。
焦茶色のフローリングに壁はクリーム色。灯も付いているものの、少し薄暗い感じはする。
「予約していたユベールです」
「これはユリアン様、お久しぶりです。お待ちしておりました。お席はご用意させていただいております」
母上が店員さんに声をかけると案内してくれた。
店員さんとは顔見知りらしく慣れたような流れで案内された。
案内された席にはフォークとナイフ、ナプキンが置かれていた。
……もっと気軽に食べに行くと思ったけど、テーブルマナーが必要な店か。
そう思いつつも、僕は母上が座る椅子を引く。
「あら、ありがとう」
「いえ」
母上が座った後、僕は座る。
座った後はテーブルの上に置かれていたナプキンを膝の上に敷く。
このような雰囲気の店で食べるのは初めてだ。
屋敷の食事はナイフとフォークを使って食べるけど、コース料理は食べない。
少し……緊張する。
「そんなに気負わなくていいわよ。今は私とアレンだけだから。勉強したことをそのまますればいいのよ」
「……わかりました」
母上には全てお見通しのようだ。
母上はこう言ってくれたことだ。美味しく頂くとしよう。
コース料理は、前菜、スープ、魚料理、ソルベ、肉料理、デザート、カフェの順番で運ばれる。
フォークとナイフは外にあるものから順に使っていく。
それぞれの料理にタブーがあるが、覚えてしまえばそんなに難しいことはない。
例えば、魚料理はひっくり返してはいけない。肉料理は先に全てを切り分けてはいけないなど。
僕は前世のファミリーレストランのハンバーグ料理を頼んだとき、先に全て切ってからお箸で食べていた。その方が食べやすいし、楽だからだ。
知り合いの結婚式に出席したこともあったけど、そこまでマナーを求められなかった。
コース料理は楽と食べやすさとは程遠いもの、それが今世で思ったこと。
食事はマナーを気を付けつつ、美味しく頂いた。
「アレン、マナーは完璧だったわ。流石ね」
「はい、ありがとうございます」
食事を終えた時、母上は賞賛してくれた。
少し自信になった。
それからレストランを出て再び馬車に乗った。行き先は装飾品や小物が売ってるお店をいくつか回る予定。
母上と話したのだが、アレイシアへの贈り物はアクセサリーでなく、花束はどうかと言われた。
僕はその考えに賛成した。
母上曰く、気持ちがこもっていれば大丈夫と言われた。
その考えを聞いてもう一つ候補ができた。
アレイシアの緊張を少しでもほぐせるもの……リラックスできるものがいいかな。
無難なものはアロマキャンドルとかいいかもしれないしれない。僕も前世で使っていた物だし。
「もうすぐ着くわよ」
アレイシアへの贈り物の候補を考えていたら、いつの間にか時間が経っていたようだ。
次の目的地に到着した。