テラーノベル
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「お互いにとって、これ以上ない『メリット』があると思うんです。……ちょっとこれを見てくださいっ!」
彼女が差し出してきたスマホの画面を見て、俺は絶句した。 インスタの画面。そこに表示されていたのは、大量の俺の隠し撮り写真だった。
アカウント名:『王子を愛でる部屋』。フォロワー数:3万人。 しかもプロフィール欄を見れば、開設から一週間も経っていない。
(……は? これ何? ホラー?)
通勤電車でうたた寝している姿、デスクでキーボードを叩く姿、さらには牛丼屋で紅生姜を山盛りにしているところまで……。
(女子、怖すぎだろ……。これ、完全に全方位からのストーカー包囲網じゃん……)
「お仕事で会社に伺ったときも、何人かの女子社員さんに付け回されてるの知ってるんですっ! だから……」
小森は画面を閉じると、これまでにない真剣な眼差しで俺を見つめた。
「私たちが『お付き合い中』だとアピールすることで、王子谷さんはストーカー被害を、私は元カレの接近を、一気に排除できると思うんですっ! これぞ、究極の安全確保ですよ!」
(……安全確保、か)
確かに、このままだと1週間後に迫った「バレンタイン」という名の年間最大級の地獄がやってくる。
例年、望んでもいない大量のチョコを押し付けられ、ホワイトデーには『返礼義務』が課される。その上、四月と六月の異動期には、新たなガチ勢が他部署から次々と補充される始末。
「期間は今から……半年くらい? お互いの生活に平穏を取り戻すまでってことでどうっすかね?」
「そのくらいあれば、さすがにあの元カレも諦めてくれます! 契約成立ですね!」
「じゃあ、さっそく既成事実をっと」
そう言うなり、小森が急に俺の懐へ飛び込んできた。
「え、ちょっ……!?」
「はいっ、王子谷さん、もっとくっついてください! 今から自撮りして、お互いのインスタにアップして『幸せアピール』の爆弾を投下しますよっ!」
ぐいと腕を引き寄せられ、彼女から漂うシャンプーの香りと、体温が一気に押し寄せる。
「はい、笑ってっ!」
カシャリ。
スマホのレンズに向けられた小森の満面の笑み。それとは対照的に、距離が近すぎるせいか心臓が爆音で鳴り響き、完全にフリーズした俺の顔。
こうして、小森との「契約恋人関係」が始まったのだ。
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