「せんせ〜!まーた沙奈ちゃんが変な事言ってまーす!」
「階段の上に黒髪の女が居たってさ!」
「今日なんて廊下を死に物狂いで走り回ってたぜ?笑」
「幽霊なんか居る訳ないじゃん。」
「あの子、絶対おかしいよ…。」
「いつも一人でブツブツ言ってさぁ…ほんと気味悪いよねぇ…。」
「幻覚見えてんじゃない?」
「薬やってる?笑」
「いつも死んだ魚みたいな目してるんだよねー。」
「感じ悪ー。そんなんだから友達出来ないんだよ。」
「何よその目?なんか文句あんの?」
「1人じゃ何も出来ない癖に調子乗ってんじゃないわよ!」
「なんであんたなんかが日下部君に好かれんのよ!!」
「こんな気持ち悪い目した奴のどこがいいのよ!!」
「あんたなんか居なけりゃいいのに。」
「……………さようなら。」
いいかい?沙奈。どんなに馬鹿にしてくる輩が居たとしても、気にする事はない。
私の祖父はよくこう言った。私の一族は皆、周りから貶されて来たと。私の母も、祖父も、曾祖父も皆。ずっと、ずーっと一人ぼっちだったって。
我等の御先祖様は悪霊を退治していた。きっと沙奈も悪いものから守ってくれるよ。
私の遠い御先祖様は素性が全く分からない剣豪だったらしい。母や祖父ですら全く分からない得体の知れない人物だった。ただ分かるのは変わった目をしていた事。普通の人が見たら気味悪がるだろう死んだ人間の様な目。実際、他の子から恐いと泣かれた事がある。
私の家系は皆この変わった目をしてる。そのせいなのかは知らないけどいつも変なものが見える。でも、誰にも分かってもらえない。いつも皆とは違う私たちを普通の子達は気持ちが悪いと除け者にする。あるいはイジメられる。化け物とも呼ばれた。
どうして?
生まれつきのこの体質は私の人生に付きまとう。
どうして普通とは少しだけ違うだけでこんなに差別をされないといけないのだろうか。
どうして私たちの一族はこんな運命を辿っているのか。
この時、私は自分の始まり……先祖である”穂泉 隆二郎”を怨んだ。大嫌いだった。
こんな身体でなんかで産まれたくなかった。そう思った。
私の肉親だった父は会社のフロントで首吊り自殺。母は私の誕生日に交通事故で死んだ。祖父も祖母も皆死んだ。穂泉家はもう”私”だけ。
私にはもう何もない。
唯一の家族も。
友達だってできた事がない。
小学校から中学、高校とずっといじめられて来た。
何度、人生をやり直したいと思った事か。
だから私は、
2019年 4月4日━━━━ ○○私立○○高校の屋上から”飛び降りた”。
でも、”死ねなかった”。
ジジジジ…
「…………。」
目覚まし時計の音で沙奈は目を覚ます。時計を見れば、8:30を回っている。
「バイト行かないと……。」
沙奈は重い足取りで着替え、身支度を済ませるとアパートを出た。近くのコンビニに行き、制服に着替える。
品出し。レジ。いつもと変わらない事をする。たまに頭のおかしい客も来る。目付きが気に食わないとか、気味の悪い目だとか。そんな事を言われても困る。なりたくてなった訳じゃないのだから。そんな愚痴を心の中で呟きながら、一日が過ぎて行く。そして夜10:00になる前。
「…さん。穂泉さん。」
名前を呼ばれた沙奈はハッと我に返る。
「え、あ、はい。」
「シフト交代ですよ。帰って大丈夫です。」
「はい、分かりました。お疲れ様です。」
「お疲れ様。大丈夫ですか?最近、ぼーっとしてる事多いですよ。」
「いえ、すみません。大丈夫です。」
そう言ってそそくさと帰って行く。外は暗い。沙奈は暗い所はあまり好きではない。いつも誰かに見られている様な気がするからだ。ここ最近はいつも視線感じる様になった。何故かは分からない。沙奈は足早にアパートへ向かう。
その時だった。
カランッ
「………ッ、!?」
暗闇を照らす外灯の下に一つのお面が落ちる。その瞬間、沙奈の心拍数が更に上がった。
昔、祖父の敷地にあった蔵の中にこのお面が落ちていた。そのすぐ近くには綺麗に祀られた先祖”穂泉 隆二郎”の甲冑もあった。その頃、まだ幼かった沙奈が落ちていたお面を拾い上げたのだが、何故かお面は砂のように消えてなくなったのだ。まるで沙奈の中に入るかのように。そしてその頃から今に至るまで、このお面が落ちていると、近くに必ず幽霊が湧く。そのため、沙奈はこのお面が嫌いだった。ましてや、自分が怨んでやまない先祖の遺品なのだから尚更だ。
「……ッ、いつまでも、私が逃げてばかりだなんて思わないでよ…!!」
しかし、沙奈は鉛の様に重たい足を動かし、お面の方へ足早に近付く。そして沙奈がお面を通過した時、
地を這うような薄気味悪い声と共に、沙奈の腕を掴み上げる青白い腕。体長は2mを越える程の白い着物を着た女。髪が地に着く程長く、顔が見えない。
そして、この女と会うのもこれが初めてでは無かった。
「ぁ、ああ、いやっ、いやぁああッ!!!!」
沙奈は掴まれた手を振りほどき、必死に暗闇を逃げ惑う。あの悪霊は何度も沙奈に付きまとった。初めてこの怪異と出会ったのは小学5年の時だ。学校の帰り道、一人で帰っている途中で見つかり、追いかけ回された。あの時は祖父が軽くお祓いをしてくれたおかげで難を逃れたが、今はもう誰も沙奈を助けてはくれない。
「はあっ、はあっ!!」
沙奈は無我夢中で走り続け、公園にある小さな物置小屋に入った。朽ちた鍵を急いで閉めて小屋の奥に蹲る。
「お願いお願いお願いお願いお願い……。」
ガタガタとドアを開けようとする怪異。時折「開けて…開けて…」と呟きながら、乱暴にドアを叩く。すると、程なくしてその音は治まった。
「………?」
「……ッ?!!」
すると今度は小屋の中から物音が聞こえた。まさか隙間から入って来たのでは、と沙奈が息を荒くする。しかし、姿を現したのは怪異ではなく…
「にゃあ。」
三毛猫だった。猫は無邪気にも沙奈に頭を擦り付けて喉を鳴らす。その愛らしい仕草に沙奈も少しだけ安堵した。
「………はぁ、猫、か……。」
その時、
「童。」
「えッ!?」
突然が声が聞こえた。何処から聞こえてきたのかと沙奈が急いで辺りを見渡す、が小さな小屋なのであまり意味は無い。
「何処を見ておる。ここじゃ。」
声のする方に視線を向け、沙奈は唖然とした。何故なら、沙奈に声を掛けたのは今しがた小屋に入って来た三毛猫だからだ。
「先程の悪霊は追い払ってやったぞ。もうここには居らん。安心せぇ。」
三毛猫は比較的穏やかな声で、まだ息の荒い沙奈を落ち着かせる。
「…………貴方、誰。」
「なんじゃ?わしも彼奴等の様に悪霊じゃと思うか?」
そんな訳が無いだろ、とでも言うかの様に前足を上げ下げする。
「わしは”猫又”と言う妖じゃ。この近くの本殿に祀られておる神じゃよ。」
「……え、神様なの…?」
「そうじゃ。じゃがのぉ、今はその力が無いんじゃ。」
「どうして、力がないの?」
徐々に警戒を解いていく沙奈を見て、猫又は軽く笑った。
「大昔にある妖によってこの力を奪われた。わしはその妖を何百年と探して居るが、一向に見つからんのじゃ……これではこの土地も民も守れぬ。」
「……それじゃ…今までどうやってここを守って来たの?」
そう聞くと、猫又は前足で沙奈を指さした。
「お主の御先祖が守っておったんじゃ。」
「………え、えぇええッ?!!!」
「…………ちょっと。」
沙奈が猫又を呼び止める。
「ん?なんじゃ?」
「だからって大学まで着いて来なくてもいいんじゃ?!!」
「なんじゃ。守ってやっておるのじゃから文句を言うでない。」
「否、それは嬉しいんだけど…他の人に見られたらどうするの?!ましてや大学の中で猫とか…。」
「安心せい。わしは普通の童には見えぬようにしておる。」
「…ほんと?」
「お主が反応せぬ限りは大事無い。」
「ならいいんだけど…。」
そうして授業が始まり、あっという間に終わる。授業の間も他の生徒の元に言っては教科書やノートを興味深そうに覗き込む猫又は気になり、沙奈は授業に集中出来ないでいた。
そして昼休み。食堂にて、
「はあ…。」
「どうした童。」
「……私の先祖の知り合いなの?貴方。」
「そうじゃなぁ。知り合いと言っても、わしが知っておるのは穂泉隆二郎だけじゃ。他の者は見守るだけに留まっておった。」
「………。」
その名前に怪訝な表情を見せる沙奈を見て、猫又はハテナを浮かべた。
「何故、そうも不快そうな顔をするんじゃ。」
「あんまり……その人の名前は聞きたくない。」
「何故じゃ?お主の御先祖様じゃぞ。穂泉家の最初の人間じゃ。」
「でも、その人のせいで私やお母さん、お爺ちゃんも不幸な目にあってる……だから嫌いなの。」
「むぅ………。」
猫又は沙奈から貰ったラーメンのチャーシューを食べる。
「お爺ちゃんに何度かお祓いを頼んだ事があるの。でも、中に何か居るのは分かるんだけど、取り払う事が出来ないって……。」
「ふむ、そりゃあそうじゃろうな。隆二郎はお主の守護霊の様なものになっておる。お主に張り付いて離れぬわ。」
「はぁあ?!!ど、どう言う事?!!」
「これ、声を荒らげるでない。変な目で見られるのはお主じゃよ。」
「……ぅ、ん…。」
「まあ……彼奴は不器用な奴じゃ。じゃが、悪い奴ではない。そう嫌ってやるな。」
「…………。」
「それに…彼奴も好きでああなった訳では無い。奴も産まれ付きじゃ。お主らと同じ様に。」
「………うん。」
そんな沙奈を見詰める人物が2人居た。1人は背の高い赤髪の男性。もう1人はメガネを掛けた可愛らしい女性だ。
「……ブツブツ言ってるぞ…。」
「……やっぱりそうだ、行こう!!」
そうして、2人が食堂でラーメンを啜る沙奈に走り寄った。
「ん、んん??」
急に人間が近寄って来た事に訳が分からず、沙奈はハテナを飛ばす。2人はどこか神妙な面持ちだ。
「あ、あのっ!!」
「…え、あ、はい。」
「あんた!”幽霊”が視えるのかっ?!!」
「ブウッッ!!!」
その大きな声に食堂内がザワつき、視線が一気に沙奈たちに向けられた。
「ちょ、ちょっとたんま!!!待って!!!」
「なんじゃ?この童はお主の友か?」
「んな訳ないでしょ!!初対面!!知らない!赤の他人!!」
沙奈は急いで2人を連れて食堂を後にした。中庭まで来ると、人気がない事を確認に2人に向き直る。
「……何の用?嫌がらせ?」
「えっと、ごめんなさい。流石に急過ぎたね…。」
メガネの女性が深々と頭を下げる。
「悪ぃ。あんたが霊感あるんじゃないかって…居てもたっても居られなくてよ。」
「だからってあんな……はぁ…もういい。それで?何か聞きたい事でもあるの?」
沙奈の問いに2人が目を輝かせた。良く似てるなと猫又はベンチに寝転がりながら考える。
「まず、自己紹介させて!!私は川嶋深月。こっちは私の幼馴染みの。」
「宮上健人っす。」
「あ、あのね!貴方に私たちのサークルに入って欲しくって来たの!!」
「俺たち、ずっと前から幽霊とか心霊スポット、妖怪関係の事を調べててよ!ずっと霊を見てみたいって思ってたんだ!!」
説明をしながら、心霊系の雑誌やら記事を取り出し、沙奈に見せつける。
「…………。」
沙奈は猫又に視線を向けた。猫又は呑気にも毛ずくろいをしている。
「貴方、さっき何と話してたの?私、すっっごく気になってたの!!」
「この大学で幽霊が視える学生が居るって噂が結構前からあったんだ。ずっと探しててやっと見つけたんだ!!」
「良いではないか。」
すると、漸く猫又が話に入って来た。
「良いではないかって他人事だからってね!!」
「そこに誰か居るの?!!」
ますます興味を持つ2人。沙奈は頭を抱えた。
「ああもう……あの、一応言っておくけど。」
沙奈の言葉に嬉しそうに相槌をうつ2人を見て、少し申し訳なさがあったが、
「ごめんだけど、貴方たちのサークルには入れない。まず…私と貴方たちは初対面だし、幽霊を信じてるとかもあんまり信用ならない。昔、似たような嘘を言っていじめて来た子たちも居たから……それに、もし貴方たちが幽霊を信じてたとしても、私はあんなのと関わりたくないし……だから、ごめん…。」
徐々に表情を暗くする2人を見て沙奈はいたたまれなくなる。
「ううん、こちらこそごめんなさい。急に変な話しちゃって、困るよね。全然気にしなくていいから!自分の夢はやっぱり自分て叶えてこそだよね!ほんと、時間取っちゃってごめんね。」
「わりぃ。悪気はねぇんだ。」
2人が申し訳なさそうに謝る。
「うん。大丈夫。それじゃあね。応援してるよ、幽霊視えるといいね。」
その言葉に2人は同時に親指を立てた。幽霊を見たいという願いは諦めない様だ。沙奈は種を返し、教室に戻る。
「………。」
しかし、猫又は少し気がかりな様で沙奈が去った後、深月と健人の後を追った。2人は部室に戻っている様だ。
「どうする?やっぱり虱潰しに心霊スポット巡る?」
「そうだなぁ………出し惜しみしてたけど……ここ行くか?」
そう言って健人が雑誌を捲り見せたページには『一度行ったら戻って来れない呪われた廃村』と書かれている。
「永谷村って集落。」
「大分まずいんじゃない?!今まで有名なYouTuberとかがそこに行って帰って来なかったって言うじゃん!!」
「でも、かなり調べ尽くしたからなぁ…。」
「うぅーむ…。」
悩み、途方に暮れる2人。雑誌に書かれた永谷村の詳細に目を通しながら、猫又は目を細めた。
その日の帰り、
「…………良かったのか?」
沙奈の横を歩く猫又がふと問い掛けた。
「何?もしかしてサークルに入らなかった事?」
「そうじゃな。」
「なんで危険な事にわざわざ自分から首突っ込まなきゃだめなのよ…。」
「良く言う。お主は二度も死のうとしておったではないか。」
「は?」
猫又の言葉に沙奈が固まる。
「なんで知ってるの?」
「お主ら”穂泉家”をずっと見守っておったからじゃな。わしは彼奴と…隆二郎と約束した。この土地を守る代わりとしてな。」
「………。」
「穂泉家の中でもお主は……誰よりも隆二郎に似ておる。」
「嬉しくない。」
「それに……お主は自分が思っておる程、彼奴が嫌いではなさそうじゃが。」
「………。」
猫又の心理を突く様な言葉に沙奈は立ち止まった。
「どうした?」
「貴方ってなんでもお見通しなの?」
「神とはそういうものじゃ。実際のところはどう思っておる?」
猫又の問い掛けに沙奈は少し考え、口を開く。
「うん……まあ、ただの八つ当たりなのは自分でも分かってるんだ。確かに自分のこの体質は受け継がれたものだから多少は嫌悪感はあるけど…私が一番嫌いなのは”私”。私自身なの。」
自分が小さい頃からいじめを受け、それに抵抗する事なく、されるがままな自分が実に無力で大嫌いだったと。
「ほんとは気になってるの。歴代の穂泉家がどんな人物たったのか。隆二郎さんはどう生きてきたのか……でも、そんな事を考えたら自分までも脳裏に浮かぶの。自分なんて大嫌いなのに、家族の事を考えるとやっぱり自分の顔が出てくる。だから無理矢理遠ざけようとしたんだ…。それにどうにかしてこの感情を誰かのせいにしたかった。そうしないと、本当に死にたくなる。生きていたくなくなるの。どうしてかは分からないけど……もう生きたくないって思っちゃって。」
変だよね、と悲しそうに笑う沙奈を見つめ、猫又はため息を吐いた。
「変では無いぞ、童。おかしいのはお主ではなく、お主の周りじゃ。」
「……?どういう事?」
「おかしいとは思わんのか?お主もお主の母も祖父もその先祖もずっと一人じゃった。周りから除け者にされ、貶されてきた。ここまで皆が同じ境遇では些か妙じゃろ。それにお主の母の配偶者。お主の父親じゃ。あの者は過労死でこの世を去った。そして祖父の配偶者。お主の祖母。工事中の鉄骨が落ちた事で下敷きとなり、死んだ。その前の先祖の配偶者もそうじゃ。事故死。爆死。自殺……皆が不可解な死に方をしておる。」
「………。」
「分かるか?お主らは呪われておるのじゃ。」
「え?私が?私たちの家系全員が??」
「そうじゃ。始まりは確かに隆二郎じゃ。彼奴は人でありながら霊が見え、その霊を両断できた。死者をも殺せるんじゃ。妖も。悪霊も。彼奴は自分よりも遥かに巨大な悪霊を討ち取った事もある。」
穂泉隆二郎が取り敢えず凄い人物とは知っていたのだが、ここまでの実力があるとは沙奈は想像もしていなかった。
「呪われた理由って隆二郎さんが殺した幽霊にあるの?」
「ああ。彼奴は”牛鬼”と言う悪霊を退治した。牛鬼は極めて強い悪霊の一匹じゃ。わしでも中々封印できんでおった。」
「神様でも?!」
「そうじゃ。彼奴は図体がでかいわりにすばしっこくてのう。その上、ずる賢い。じゃからわしも力を奪われた。」
「え、待って……貴方は牛鬼に力を奪われたの?!」
「ああそうじゃ。彼奴は人の子を操る事も出来れば、擬態する事も出来る。その能力で多くの妖を取り込み、人間をも喰らっておった。」
「………。」
そんな強大な悪霊をなんと生身の人間である穂泉隆二郎が討ち取った、と猫又は関心していた。しかし、牛鬼はしぶとく生き残り、穂泉隆二郎を逆恨みから呪ったのだと語る。そこから穂泉家の不幸が始まったと猫又は告げた。
「そうだったんだ…。」
「安心せい。お主はそうはさせぬ。」
それで、と最初の話に戻る猫又。
「先程の話に戻るが、あの童共。わしが見た様子じゃ、彼奴等は霊感が全く無い。じゃから今後とも霊が視える事はがぎりなく無いじゃろうな。」
じゃが、と一呼吸置く猫又に沙奈は息を飲む。
「霊は関係なく襲って来るぞ。彼奴等は危険をおかそうとしておる。」
「どういう事?何かするの?あの二人。」
「永谷村と言う廃村に向かうらしいのう。今まで向かった心霊すぽっととやらは、運良く霊が人間になんの感情も抱かない者か、もしくは霊自身が居ない場所を散策しておったのじゃろう。じゃが、今回はそうもいかん。あの村は本物の悪霊が取り付いておる。」
「え…止めた方がいいんじゃない?」
「じゃが、凄まじい霊気を浴びる事で霊感が付くと言う。」
そこでニヤリと笑った猫又が沙奈の肩に飛び乗った。
「え?」
「じゃからお主も行けと言うておろうが。」
「は、はぁああッ?!!!ななな、なんで私まで行かなきゃだめなのよ?!!矛盾してない?!さっき言った事と!!」
「にゃはは。霊感の無い者でも、きっかけがあれば霊が視える様になる事もある。強い霊気に当てられると、霊感に目覚める事が稀にあるんじゃ。」
「稀って信用ないじゃん。」
「それは霊に興味を持つ者が少ないからじゃな。じゃが、彼奴等は霊に興味を持って居る。もしかしたら、いつか霊が視える様になるかも知れん………と、言う訳じゃ。手伝ってやれ。護衛も兼ねて。仲良くもなれるぞ。」
「別に仲良くとか……。」
「では、お主が手伝ってくれると言うのであれば、お主の御先祖様について教えてやろう。」
「グッ…!!そ、それは魅力的だけど……!!」
「にゃははー。まあ安心せい。何かあってもわしと隆二郎が居るではないか。」
「でも、今の貴方は弱いじゃない。」
グサリと沙奈の言葉が猫又に突き刺さる。
「沙奈よ。神にも傷付く心はあるぞ。」
「あ、ごめん。」
「まあよい。詳しい事は改めて後日、彼奴等に聞けば良いのだからな。」
「行く事に変わりはないのね……。」
沙奈は大きなため息を吐きながらアパートへとぼとぼ歩いていった。
続く
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