テラーノベル
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静かに木の廊下を進んでいると、ふと、左の手に違和感を覚えた。
視線だけを動かして見てみれば、不格好に包帯が巻かれていた。
括り方も、巻き方も甘く、これでは一切意味も無いように思えてしまう。
もしかして、この包帯は主炎が巻いてくれたのだろうか?
いや、まさか、そんなわけ……。
あり得ないわけでは無い。だが、敵にそんな情けをかけるとは普通は思えない。
だが、どこか兄さんに似た優しさを持っているコイツなら、可能性が……?
……なわけないか。
そんな気紛らわしにさえならない思考を頭の片隅に寄せると、あるドアが気になった。
先ほどから妙な寒気がすると思っていたが、その原因らしき物があったのだ。
単なる好奇心と、恐怖心から、それが気になって、恐る恐る主炎に問いかけてみる。
「あの部屋のドア…、何があったんですか……?」
躊躇しながら指をさしたそのドアは、冷気を放つ氷に埋め尽くされ、氷柱までもができていた。
そんな俺の問いかけに、主炎は眉一つ動かさずに、足を止めた。主炎はそっと、視線だけをその原因に動かす。
ドアの隣には、机の上に、木のトレーが置かれている。その上には、湯気の冷め切ったスープとパンだけが置かれている。
到底理解できない。
あのドアには、俺に似て非なる物があるような気がした。
全てを恐れ、全てを警戒して、全てを遠ざける。しかし、俺と違って、表面的に攻撃性を持っていた。威嚇していた。
俺には到底出来ない事。俺は、その牙を折られたようなものだから。
「気にするな」
暫しの沈黙の後に、主炎はその一言だけを下手くそな笑み共に俺に向けた。
俺は、それ以上は何も聞けなかった。聞く必要も無いと思った。あれ以上は関わるなとでも言いたげだったから。
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