静けさの中──しばらく黙って寄り添っていた。
「……イブは、どう過ごしますか?」
彼からふと尋ねられて、
「……先生は、どんなイブを過ごされていたんですか?」
ちょっとした興味本位で聞き返した。
「私は……ケーキを食べたぐらいで、」
彼がそう話して、
「……クリスマスの頃は、父も母も仕事で忙しくしていたので、買い置かれたケーキを一人で食べたぐらいしかなくて」
幼かった頃を思い出してか、にわかに目を伏せた。
「それなら、今日は二人でケーキを手作りしませんか?」
「手作りのケーキですか、いいですね」
私の提案に笑みを返した彼が、
「では、これから材料を買いに行きましょうか」
先に立ち上がると、つと手を差し伸べた──。
車を出して、着いたお店の中を二人で歩きながら、
「先生は、どんなケーキがいいですか?」
と、問いかけた。
「そうですね…」
考えあぐねるように呟いて、身近に並んでいたオレンジを手に取った彼が、
「フルーツのケーキはどうです?」
と、私を振り向いた。
「うん、果物をたくさん挟んで、それから生クリームで飾り付けをして……」
一つのオレンジから、頭の中に次々と華やかで美味しそうなケーキが浮かぶ。
「あと、ピーチやパインの缶詰めも盛って……」
イメージの湧くままに、フルーツを選んでいると、
「リンゴも入れますか?」
彼がリンゴを手にして、その姿がまるで童話の中の王子様のようにも見えて、クスッと笑いが漏れる。
「何を、笑って……?」
「あっ、ごめんなさい。だってリンゴがあんまり似合うから……」
笑って言うと、
「これがですか…?」
手にした真っ赤なリンゴを訝しげにじっと見つめる様子に、ついまた笑いがこぼれた。
フルーツの他に小麦粉やバターなどのケーキの材料を買い揃えると、
その場で思いついたことがあって、おしまいにキャンドルを買った。
「キャンドルは、ケーキに立てるんですか?」
訊く彼に、「ううん」と首を振って、
「あとで…内緒」
そう耳打ちをすると、
「では、楽しみにしていますね…」
と、頭を優しげに撫でられた。
──別荘に戻って、ケーキ作りを始める。
料理上手な彼は手際もよくて、あっという間にフルーツがカットされて、下ごしらえが出来上がっていく。
「どうしてそんなに、なんでも手早くこなせるんですか?」
横で、その作業の早さに見とれて口にすると、
「ああ…空き時間を作りたくはないので。だから、これを仕掛けている間にあれをと、常に頭の中で考えながら作っているんです」
彼は、生クリームをボールで泡立てる手を止めないままで話した。
コメント
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男の人って同時に何かをするのって苦手な人が多いのに、先生は時間の無駄を省く為に、いろいろ考えて行動できるんだね。 素敵なひとだな。