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他生徒視点(男子生徒)
誰かが笑った。
冗談みたいな声だったけど、それは本気で、そして残酷な“合図”だった。
俺は席から目を逸らした。
机の隅、遥の制服のボタンがひとつ、開いているのが見えた。誰かが無理に引きちぎったんだろう。教室のカーテンが不自然に閉じられていて、その向こうからくぐもった声が聞こえる。
──また、やってる。
声をかけようとは思わなかった。
怖いから? 違う。きっと、ほんの少しだけ──関わってしまうのが「面倒」だった。
最初の頃は、誰だって気づいてた。
明らかにおかしかった。授業中に消えて、戻ってきた時には顔が引きつってて、制服が乱れていて、それでも遥は何も言わなかった。
それが数回、十数回と続くうちに、俺たちは学んだんだ。
「関わらなければ大丈夫」
「見なかったことにすれば、明日は自分じゃない」
「遥が特別なんだ」って。──教室って、そういう風に出来てる。
でも、ときどき思う。
もしあいつがあの時、「やめてくれ」って、もっと普通に、ちゃんと泣いたり助けを求めたりしていたら、俺も何か言えたかもしれない。
でも──遥は、そういう風には、壊れない。
今だって、どんなに押し込まれても、どこか睨み返すような目をしている。
誰にも助けなんて求めてないような顔で、でも、助けてくれって言ってるように見える時もある。
「録った?」
「声、薄いな今日」
カーテンの向こうからそんな声がして、背筋が少し冷たくなる。
──“今日”も、終わらないのか。
俺は、弁当の蓋を開ける。
何も聞こえないふりをして、ひと口、米を噛んだ。
しょっぱいのは、梅干しのせいか、それとも──。