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他生徒視点(女子生徒)
教室の空気がぬるく淀んでいる。
昼休み、誰もそれを指摘しない。カーテンの奥から、ときどきくすくすと笑うような声が漏れてくるけれど、それももう、日常だ。
私はプリントを配るふりをして、そのカーテンの方を見た。
少し開いた隙間から、制服の背中が見えた。──遥。
押し込まれて、黙って何かされている。たぶん。
でも、それ以上は見ない。
見たら、こっちが「見てた側」にされる。
見てない、聞いてない、知ってない──そういう“立ち位置”が一番安全だと、みんなわかってる。
でも、正直、嫌いだった。
遥は喋らないくせに目だけが強い。
怖がってるくせに、なんでそんなに睨んでるの?
やられてるくせに、“自分は違う”って顔して、ほんと、うざい。
でも、たまに思い出す。
前に一度だけ、保健室に運ばれた遥の背中を、私は見たことがある。
傷? 痣? いや、何だったかはよく見えなかった。ただ、背中が、歪んでた。骨が、浮き出てた。痩せすぎてるのか、それとも──。
「ねえ、手伝って」
誰かが声をかけてきた。私は「いいよ」と答えて、配るはずだったプリントを机に置く。
──また見なかったことにする。
あれは私には関係ない。
そう、関係ない。
でも──なんであんなに、声が出ないのかな。
泣きもしないで、怒りもせず、ただあんな顔して、ずっと。
──なんで、“終わりにして”って言わないんだろう。