癒し

休憩時間に携帯をひらくと勇斗から通知が入ってた。

『会いたい』

シンプルな４文字に少し戸惑う。普段こんなこと言う奴じゃない。

「どうした？なんかあった？」

返ってこないだろうと思いながら返信をしたら返信が返ってきた。休憩中か？

『わりぃ。なんでもないや。気にすんな』

気にすんなって気になるでしょ。

思い返してみれば仕事では会っているが、プライベートでは会えてない。

「わかった。今日勇斗ん家で晩飯作って待ってるわ」

『は？いいって』

「決定事項。仕事頑張れよ」

『ごめん。ありがとう』

珍しく素直な勇斗にだいぶ限界なんだろうなって心配とともに頬が緩む。

無事仕事を予定通りこなし、20時頃に勇斗の家に着いて貰った合鍵でお邪魔する。

晩飯なにがいいかなと考えながら、リビングの扉開けてびっくり！

ソファーには服の山、机には領収書、キッチンには洗い物、部屋ん中は少し埃っぽい。

ザッ！忙しい独身男性の家って感じで笑えてくる。

「はぁ…片付けもしてやるか」

飯作って、洗いもんして、洗濯乾燥かけて畳んで、掃除機あてて、領収書もあらかた整理してそんなこんなしてたら時刻は23時半。

勇斗はまだ帰ってくる気配がないので、飯と風呂を先に済ませて仕方なく先に寝ることにした。

バタンッ　ガチャ

ドアの開閉音で意識が浮上する。勇斗帰って来たか？

枕元の時計で時間を確認すると時刻は０時半。

眠い目を擦りながら、起き上がりリビングに向かう。

「勇斗、おかえり」

「ただいま。なんか、色々サンキューな」

「あ？あぁ、また、積雪かと思いましたよ」

ははって笑う勇斗の顔には疲れが見てとれる。

「風呂にする？飯にする？」

「……それとも？」

「俺？何言わせてんだよ！」

「え～仁人が良かったけど、先風呂入ってくるわ」

「冗談言え。了解。料理あっためておくわ」

温めなおして、皿に盛りつけて並べたらタイミングよく勇斗が風呂からあがってきた。

「うっわ。旨そ。いただきます」

旨い旨い言いながら食べる勇斗。

「そういえば、佐野さん明日何時に迎え来るん？」

「あーっと…7時半」

今の時刻はもうすぐ2時半。

「は？悠長に飯食ってる場合じゃないし、なんで帰って来た？近場でホテル取ろうとか言われんかった？」

「言われたけど、仁人待ってから」

「え？」

え？

やっぱりいいって言われたのに俺もしかして無理やり押し掛けた？迷惑じゃん…

やらかしたと思い顔が上げれない。

「仁人」

勇斗に呼ばれゆっくり顔を上げる。

「迷惑じゃねぇから、俺が会いたかったから、ありがと」

「………うん…」

納得は言ってないけど勇斗の優しさに小さく頷く。

「ごちそうさん！旨かった」

「うん。俺洗い物して寝るから勇斗先寝てな」

流しに皿を運ぶ勇斗に声をかける。せめてもの罪滅ぼしで家事くらいは完璧にしておきたい。

「や、洗いもんはいいから一緒に寝よ」

「でも……」

「俺歯磨きしてくっから、仁人先ベッド行ってな」

「…ん」

そうは言われても洗い物を残しとくのは気が引けて勇斗が歯磨きしている間に食洗器に突っ込んで寝室に向かった。

｢仁人、遅せぇよ｣

先に寝室に来ていた勇斗が不貞腐れた顔で文句を垂れているが怒った様子はない。

｢ごめん。やっぱ片付け気になってさ｣

｢うん。まぁ、仁人のことだから、んなことだろーと思ったわ｣

ベッドのスペースをポンポンと叩きながら右の口角だけを上げてにやりと笑う勇斗に少しだけどぎまぎしながら布団に潜り込む。

さっきまで1人で寝ていたベッドにちょっとだけ間隔をあけて勇斗と並んで寝転ぶ。

｢じんとー｣

｢んー？｣

目を瞑りウトウトしていると勇斗に呼ばれた。

｢て、かしてくんね？｣

｢て？｣

ふわふわした口調の勇斗に手を差し出すとぎゅっと繋がれる。指と指が絡まる恋人繋ぎでびっくりする。

勇斗と手を繋ぐことはあっても恋人繋ぎは滅多にない。勇斗の珍しい行動は感情と比例する。

｢はやと、なんかあった？｣

｢んー…なんもねぇよ｣

素直にならない勇斗にぎゅっと手を握り返してみる。

｢…まじでなんもねぇのよ。ただ…じんとに会いてぇなって思って、じんとに少しでも会っていやされたいなって…｣

自分から素直になるように仕掛けたのに、素直な勇斗はくすぐったくて、愛おしくって…

｢はやと、知ってる？｣

繋いでいた手を離し勇斗を何かから守るように抱きしめる。

｢ハグのが、いやしこうかあるらしいよ｣

少しだけ固まった勇斗から抱きしめ返される。

｢へーしらねぇわ｣

なんでもない風に返ってくる返事。

でも、行動は正直で、すがりつくように抱きしめ返してくる勇斗。

｢…じんとーありがとな。…おやすみ｣

｢ん、おやすみ｣

勇斗の寝息を聞きながら思う。

俳優佐野勇斗が背負うものを肩代わりはしてやれない。でも、M!LK佐野勇斗がいつでも笑ってメンバーやみ！るきーずのもとに帰ってこれるようにリーダーとして守り続けよう。

勇斗の居場所を。

END