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気安い感じで笑い声を響かせたヴノとは対照的に、緊張を顔全体に浮かべたレイブはすぐ横に並びたったペトラの声で我に返る事となる。
『レイブお兄ちゃんっ! 糊ぃ、結構剥がれちゃってるじゃないのっ! ほらほらちゃんとナイフに付けないといけないんじゃないのぉ! でしょぉ?』
僅(わず)かに緊張の色を薄めたレイブも慌てて答える。
「あ、ああ、そうだね! 危ない危ないぃ! よいしょ、チャプンっと、これで良し、さあ行くよ!」
腰に付けているナイフの鞘(さや)の下にぶら下げていた、モンスターの胃袋を素材に作った『糊入れ』に、思い出の品であるゼムガレのナイフ、素材で言えばチッターン製らしい一品をしっかり差し込んだレイブは柄を握り込んで大きな声を上げるのであった。
「ええいっ! 許せっ、ヴノォッ! 喰らえぇぇっ! それ、ヤアァァッー!」
ブスリッ!
……ポタリ ……ポタリ ……ポ、タ
ヴノの顎下、豚猪(とんちょ)の一番柔らかくて、急所の一つと言っても良い場所から流れ出した血液は、見事っ! 二滴半、それだけであった……
『どうした? レイブよぉ! 早く切ってくれれば良いのだぞぉ? 遠慮は要らんぞ! さあさあ、一思いにやって良いのじゃぞぉ?』
「くうぅっ! ちきしょーう、こうなったら本気で…… 本気の本気で殺(ヤ)ってやるつもりで行っちゃうからなぁ~、喰らえ(二度目)! シーユーネクストライフッ!」
ザリィッ!
殺意を込め捲ったレイブの振るった刃は、先程の一太刀に比べても随分弱々しい物で、ヴノの分厚い皮膚を切り裂くことは出来ずに、勿論一滴の血も流す事は適わなかったのでもあった。
「んが? さっきより力を入れたのに何故、なんだ?」
賢いペトラがアドバイス、役に立つな。
『ほらぁ~、一回使う度に糊を付けないからじゃなーい…… その赤い粉、タンバーキラーを確(しっか)りと付けないと魔獣の皮なんか切れないんでしょぅ? バストロのお師匠が言っていたじゃない? ね?』
ウッカリさんのレイブは大きく頷いて返す。
「そっかそっかぁ、このナイフは所謂(いわゆる)それ専用のじゃないからね、糊を付ける事を忘れない様にしなくちゃいけなかったよぉ、こうしてこうしてっと、良しっ! 改めて、ヴノぉっ! 死ねやコラァッ!」
シュピッ!
…………ポタリ …………………………ポタッ
……………………………………
「グスッ…… ご、ごめんよヴノ…… ギレスラとペトラも…… 僕には出来ないみたいだよ…… ああ、何て情け無いんだ僕ったらぁ…… こんな役立たずっ! 生きている価値も何も有りやしないね、もう良いか…… 今までありがとうね、さような――――」
『ま、待ってぇー! レイブお兄ちゃんってば慌てんぼさんなんだからっ! えっと、そうだっ! ベテランのヴノ爺にコツとか聞いてみようよぉ! いきなりで出来ないからって世を儚むとかぁ、どんだけ自信過剰なんだって話じゃないのよぉっ! ファーストテイクは失敗、それがデフォだから! ねぇ? ギレスラお兄ちゃん? ねっ! ねぇっ!』
『デ、デフォ? エト…… ソ、ソウダヨレイブ! ヨクワカンナイケド、ヴノ、ニ、キキナヨッ!』
ペトラとギレスラは何とか思い止まらせてレイブとさよならしたくないようであった。