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二つの声に思い止まったレイブはギレスラのアドヴァイスに従ってヴノに問い掛ける、顎の下に潜ったまんまで、である。
「ヴノ…… 僕、今の所さ、三回チャレンジして五滴、ううん、四滴位しか抜いて無いんだけどね…… ほらこうね、やり方とかさ、上手くやるにはどうすれば良いとかさ…… なんかさ、そう言うのって有るの? 有ったら教えて欲しいんだけどさ…… グスッ……」
『ふうむ、やり方のぅ、コツみたいなヤツじゃろう? じゃったらワシに聞くよりもやはりバストロじゃろうて! レイブ、バストロに教えを請うのじゃ』
「なるほどそりゃそうだね、師匠か、どこにいるか判る?」
『少し前に崖の方に歩いて行ったぞぃ、まだ居るじゃろうて、ワシも一緒に行くぞぃ』
「うん」
元気な返事と同時に、大瓶を持って駆け出すレイブとその背を追いかけるギレスラとペトラ。
巨大なヴノは小さなスリーマンセルの姿を見守るようにゆっくりと足を踏み出すのであった。
鍾乳窟の入り口から山の奥に向かって暫(しばら)く歩いた先に、谷底へ繋がる崖があった。
ゴツゴツとした岩が所狭しと並んでいて、一見しただけで危険極まりなく見える。
ところがこの崖、バストロやレイブのスリーマンセルにとっては、この辺りで最も昇り降りし易いイージーコースとして重宝されていたのである。
何故か? 答えは簡単である。
パッと見、無秩序な落石跡に見える巨石の数々であったが、実の所、人工物、と言うか、人為的に配置されたなんちゃって難所だったからである。
十年とちょっと前、我等がバストロが偶然この鍾乳窟を発見して以来、ヴノやジグエラと力を合わせて作り上げてきたのがこの峻険(しゅんけん)そのものに見える『安全な登山道』なのであった。
順番どおりに巨石に縋(すが)っていればノープロブレム、ノンストレスでスキップしながら登り下り出来たのである。
この仕掛けを初めて教えられてから三年目のレイブやギレスラであっても鼻歌交じりで踏破出来ていたし、賢いペトラもこの春、単独での昇降を成功させているのだ。
とは言え、無論だが他の生き物にとっては命を失うリスク塗(まみ)れの崖なのである。
理由は用心深いバストロとレイブ、その理解者であるそれぞれのスリーマンセルが、フェイクの岩石等を増やし続けて魔改造をし続け、この地で過ごす毎夜毎夜、満足感に溢れた、ニタァ、とした気持ち悪い笑みを交し合ってきていたからに他ならなかった。
この時代、孤独を旨とする魔術師ならば用心深い事は当然、とは言え、この師弟のそれは他の群を抜いていると言えるだろう。
なにしろ、彼らが気安い感じで登り下りする姿を目撃し模倣を試みた者は、漏れなく滑落し死に至る、そうなる様に作り上げているのだ、恐ろしい。
因みにバストロのスリーマンセルであるジグエラは空を飛び、ヴノはどこの崖、なんだったら断崖絶壁からでも身一つで飛び降りて、登る時には強靭な下顎で土や岩ごと斜面を削り取って喰らい尽し、緩やかな道を作って行き来しているのでこちらも余裕だったのである。