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────ねえ、こんな噂知ってる?
学園七不思議の零番目。十三時の扉のお話。
それは、旧校舎一階の何も無い廊下の壁、十三時になるとそこにステンドグラスの扉が現れるんだって。その扉を開いたら最期。魂を取られてしまうの。そしてその魂は永遠に支配されてしまう…
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「────ってことが噂で流れてるのよ」
八尋寧々はいつも通りトイレ掃除をしながら本日流れていた噂話を花子に語った。最近、生徒が失踪していると聞いている。原因はこれではないかと寧々は珍しく考えていた。しかし、興味があるのかないのか知らないが、適当に相槌を打たれた。
「でも!おかしいと思わない?」
「何が?」
「だって、学園七不思議に“零”なんてないでしょ?一から七までしかないわけで…」
「いや、零番目はいるよ」
「へえー…って、えええ!!??い、いるのっ?!」
まるでギャグ漫画のように驚く寧々を面白そうに眺めた後“零番目”について話をした。
「うん。最近は…というかだいぶ前から会ってないからね。まあ、昔とほぼ変わりは無いと思うけど」
「ほ、ホントかしら……」
「てことで、会いに行ってみよー!…明日」
疑う寧々を横目に明日、旧校舎の一階何も無い廊下に行くことになってしまった……
「というか、なんで明日なのよ?」
「だって明日休日でしょ?ほら、授業ある日はのんびり零番に会えないからさ」
「んー……確かに…」
***
しょうがなく休日を迎え、昼食を取った寧々は十三時前に女子トイレに向かった。
「お、来たね。遅れてくるかと思ったよ」
それはそうだ。もし来なければ、「そんなにエラ呼吸が恋しかったんだ〜?」とでも言われ、魚にされかねない。さすがの寧々もそれは回避したかったため、渋々学校に来たのだ。
「だって、遅れてきたあと何されるか分かんないし…それに、その扉が現れるのって十三時ピッタリじゃないといけないから遅れたまた、次の日になるのよ?」
「ま、確かにね…それじゃ、行こっか」
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「も、もうそろそろよね…」
二人は旧校舎一階の何も無い廊下に来ていた。時刻は十二時五十八分。現れるまであと二分である。
「俺が扉を開ける。ヤシロは後ろにいて」
その説明を受けた寧々は早速花子の後ろに移動した。そうこうしているうちに、残り三十秒となっていた。
「さ、行くよ……」
ステンドグラスの扉が現れた。
バンッ!と、軽快な音を立て、扉の中へ入った。同時に花子はいつも常備している包丁を構え、いつなにがきても良いように備えていた。寧々は花子にお呪いをかけられているのはつゆ知らず怯えている。
すると、ステンドグラスの大扉から人が現れた。
「どちら様……あら。七番様でしたか」
薄水色の髪に胸あたりにある大きな十字架、床を引きずるほどの長いドレス。そして、周りにいる薄水色の杖代。
「やあ、零番。初めて会った時以来…かな?」
「そうですね。ここにはどう言ったご要件で?」
ニコリと一つ。朗らかな笑みで聞いた。
「最近、学園の生徒が失踪しているようでね。魂を管理できるキミならそれが可能じゃないかとね」
「……さあ?存じませんね。その前に、そちらの少女をどうにかしないと行けませんね」
そう言うなや否や零番は寧々の近くまで瞬間移動して攻撃をしようとした。が、花子によってかけられたお呪いにより弾かれた。
「あれ、これって…お呪い?!花子くん、いつかけたの?!」
「まーまーそんな事より。零番、やっぱキミなんでしょ?」
寧々の前に立ち、刃先を零番に向ける。
「…俺の話ー聞いてくんないのー?」
「どこぞの娘と一緒にくるなど私、許可してませんが?いくら七番様でもこればかりは聞く気になれませんね。それに、“噂”通り動いてるだけですし」
「この子はさー俺の助手なんだよー?勝手に手出されちゃ困るんだよね〜」
今度は寧々に抱きつきながらそう言った。その言葉を聞いた零番は短剣をしまった。
「…判りましたよ。七番様。迷惑をかけました。そちらのお嬢様」
「お嬢様だなんて大袈裟なー」と、寧々は言うが満更でもないようで。
「さて。紹介が遅れましたね。私は学園七不思議が零番目、“十三時の扉”の管理人。零です」
“零”と聞いた花子は顔つきが変わったがすぐに元に戻った。そして、寧々も自己紹介をした。
「───…へえ、カンナギの…では、お嬢様で大丈夫そうですね……ところで七番様。私の依代、壊しますか?」
「…いや、いい。キミにはまだやってもらうことがあるんだ」
「あら……そうですか。分かりました……あなた方ならいつでもこの境界に来て構いません。十三時以外でも、解放しておきますので」
「じゃ、ヤシロ。先帰ってていいよ。俺はまだ零番と話があるからね」
「あ、そうなのね。じゃ、花子くんまた月曜日ね!」
そう言うと寧々は境界から出て帰宅した。
***
「さて零番、本題に入るけど。依代を壊さなかった意味。分かるよね?」
「ええ。どうせ、学園の見張りと害をなす怪異の魂の管理…」
「そうそう!さすが零番ー話分かるー」
「それは前置きに過ぎないでしょ」
「……零番、なんで本当の名前を言わなかったの」
「立花家など今はあまり知られていませんし……それに、現代の祓い屋は源家でしょう?今回、この境界には源の子は来なかったものの、たまたまでしょうから……祓い屋であった私が今や席番をもらうほどの怪異だなんて、言えないこと」
「なるほどね……ま、いつかは明かさなきゃいけなくなるよ」
「知ってますよ。それくらい。姉のことも…母のことだって」
「覚悟はしておくべきだよ」
「はい。それより…良いのですか?もうすぐ夜が訪れますが」
蝋燭に火を灯しながら零はそう言った。時の流れというものは早く、零と話しているうちに夜を迎えようとしていたのだ。
「ん?……ああ、そうだね。今日はこれくらいにしておくよ」
また明日。そう言うとフッと境界から姿を消した。そして零は椅子に腰を落ち着かせて五番の土籠から借りたであろうある 本を読んでいた。
────────────
(……今日も見回りという名の月光浴に行きますか…)
一度女子トイレに戻った花子だったが、月が顔を出したため包丁を片手に旧校舎から出た。
外に来てみれば、月明かりで辺りがよく見える。今回の見回りはすぐに終わっちゃうなー…と考えているところにある人物のシルエットが見えた。
「白杖代」
静かに一声かけ、花子は白杖代を纏った。夜にふらつく者など大体は怪しい者。理由としては、夜になるとほとんどの怪異は屋内にいるからだ。
様子を見ていると相手側から動きが見られた。
「紫杖代、照らして」
(紫杖代…?つかさなわけないし、誰だ?)
「…壁に隠れているあなた。一体何をしているのかしら」
うっすらと光に照らされて見える姿は零とそっくりだった。黒色の艶のある髪に胸あたりにある大きな十字架…など、まるで零と対の存在かのようになっていた。
「どうも何も。怪しい者がいるなら隠れて見張るのが当たり前でしょ?」
相手と距離を取りつつ包丁を構え直す。その様子に溜息をつきながら、「それもそうね」と言った。
「さて、姿を見られ…「影神」
声のする方へ目線を向ければ蝋燭を持っている零がいた。
「……珍しいわね。貴女から来るなんて。いつもは私からなのに」
「影神の気配がしたから来たまでよ。どうせ、ろくなことしてないんだから」
「……最低」
顔色ひとつ変えずに一言放った影神と呼ばれる人物に零は負けじと反論を言った。
「あーら。最低はどっちかしらね?我らがリーダー七番様を問い詰めて消そうとでも考えたんでしょ?やめてちょうだいよね。消したらこの学園がどうなるか」
「そこまで。零、彼女は?」
「そうでしたね。この人は澪。私の一つ上の姉です」
…零と澪なんだ……被ってるジャン……と思ってしまった彼だが、仕様のないこと。
「……本名は立花影神です。妹の光神に先程言われていたので分かるとは思いますが」
「ふーん…キミ、七不思議じゃないよね?この学園にはいるようだけど」
「ええ。私は放送部ですから。これだけ言えば分かるでしょう」
「……ああ。そういうこと。ま、存在は消さないでおくよ」
じゃねーと言い姿を消した後、二人はこんな話をした。
「影神。どうする気なの」
「さあ。どうもしないわよ彼には適当に言っておくわ」
「……どうなっても知らないわよ…?」
「あら。貴女に心配される義理はないわ。それじゃ私もう行くから。貴女も境界に戻る事ね」
「はいはい…分かってますよ影神お姉様」
皮肉な言葉を残し二人はそれぞれの境界へ戻って行った。
***
いつもの屋上で空を眺めていた。もしかしたら……なんて妄想を繰り返しながら時をすごしていた。一体いつまで続けられるか。自分もいつまで保っていられるか。
そして、いつまで騙していられるか。運命は変えられなくても未来など容易く変わる。どうなるだろうか───
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