休憩がてらミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)の様子を見に行こうかな。
俺は服作りを中断すると、寝室に向かった。
例の『影使い』はその場で未完成の服をじーっと見つめている。
シャドウのやつ「服なんてただの布だ」とかなんとか言ってたくせに興味津々じゃないか。
まあ、いい。早くミサキの様子を見に行こう。
「ミサキー、起きてるかー?」
ミサキは布団の上で寝ている。
寝ているのだから返事をすることはない。
たまに寝言を言っているらしいが、今は静かに眠っている。
俺は彼女のとなりに向かうと静かに横になった。
「お前と出会ってなかったら俺たちは馬車で移動してたのかな。まあ、普通はそうだろうな。だとすると夜は積荷と一緒に寝ることになるのかな? うーん、結構狭そうだなー。毎日宿に泊まれる保証もないし。そう考えると、お前の存在って結構大きいんだよなー。いつもありがとな、ミサキ。お前と出会えて本当に良かったよ」
「……それは僕もだよ、ご主人」
「あー、すまない。起こしちゃったか?」
「結構前から起きてたから、別にご主人のせいじゃないよ。それより、もっとこっちに来なよ」
もっと? 今よりもっとそっちに行くとお互いの吐息が顔とか首に当たるようになるのだが。
うーん、まあ、いいか。別に減るもんじゃないし。
俺がミサキに近づくと、ミサキは体を横に向けてから俺の両頬に手を添えた。
「み、ミサキ?」
「ご主人はかわいいなー。ねえ、食べてもいい?」
「た、食べるってどこをだ?」
「さぁ? どこだろうね」
「ちょ、からかうなよ」
ミサキはクスクス笑う。
彼女は普段、というかみんなの前でかわいいなどという言葉をあまり使わない。
女の子ではなく男の娘の仮面を被ってしゃべっている。
別にそれがダメというわけではないが、俺の前ではその仮面を付けていないためギャップというか素の彼女にからかわれるとついドキドキしてしまう。
いい加減、意識しないようにしないといけないと思ってはいるのだが、意識しないようにしようとすると逆に意識してしまう。
理性と本能がどうとかいう問題ではない。
自分にはないものについ反応してしまうのだ。
そう、もちもちスベスベな肌とか細い指とか小さな手とか美声とか美脚とか美顔とか……とにかくそういうものに俺はつい反応してしまうのだ。
「ねえ、ご主人」
「な、なんだ?」
「心臓の音、すごいね」
「え? あー! いや、これはその……なんというか、少し走ってきたから」
「ご主人、嘘はいけないよー。本当のことを教えてほしいなー」
「い、嫌だと言ったら?」
「うーん、そうだなー。ご主人の初めてをもらおうかなー」
意地悪。
本当は気づいてるくせに。
「なーんてね、嘘だよ。ご主人が言いたくないなら、それでいいよ」
「お、おう」
ミサキはニコニコ笑っている。
いったい何がおかしいんだ?
俺、なんかしたか?
「ねえ、ご主人」
「な、なんだ?」
「大好きだよ」
「は、はぁ?」
「何度でも言うよ。大好き、大好き、大好き、大好き」
彼女はわざと俺の耳元で囁《ささや》く。
ま、まさか洗脳しようとしているのか?
「や、やめろ! 頭がおかしくなる!」
「ん? 別にいいじゃないか、おかしくなっても。ほらほら、おかしくなっちゃえー」
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
うるさい、うるさい、うるさい。
俺は耳を塞いだ。無意味だということは分かっている。が、しないよりかはマシだと思ったから耳を塞いだ。
「ごめん、ごめん。ちょっとやりすぎちゃった。ご主人の反応がかわいすぎるから、ついからかいたくなっちゃうんだよ」
「そ、そうなのか?」
「うん、そうだよ」
「そ、そうか」
そんな感じで俺は数時間もの間、ミサキに弄《いじ》られていた。