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バスの中は、夜明けまでが何倍にも長く感じられるほど静かだった。
毛布の中で目を閉じても、さっきの扉の音と、あの声が頭から離れない。
💜の足音が消えてから、もう一時間は経っただろうか。
時計なんてないから、ただ心臓の鼓動だけを数えて時間を測るしかなかった。
ときどき、外で何かが崩れるような小さな音がする。
風かもしれない。でも、違うかもしれない。
そのたびに、毛布の中で全員が固まった。
――そして。
コン……コン……
また扉を叩く音。
僕の心臓が一気に跳ね上がった。
さっきの“それ”が戻ってきたんじゃないか。
毛布越しに、隣の子の手がぎゅっと僕の袖をつかむ。
「……俺だ、💜だ。開けてくれ」
その声は、確かに💜の声だった。
低くて、落ち着いていて、昼間と同じ声。
扉の外からは、もう一つの声も聞こえた。
「……大丈夫なん、?」
震えているけど、聞き覚えのある声。
――🩵だ。
扉を開けると、冷たい空気と一緒に、二つの影が滑り込んできた。
💜の肩には、薄い毛布をかけられた🩵。
顔はすすで黒くなっていて、髪は灰をかぶったみたいに白くなっていた。
でも、間違いなく、本物の🩵だった。
「……大丈夫か?」
僕がそう聞くと、🩵はかすかに笑ってうなずいた。
その目には疲れと安心が入り混じっていた。
💜はバスの奥に🩵を座らせ、水筒を手渡す。
「道は安全じゃなかった。でも……こいつ、まだ生きてた」
そう言って、ほんの少しだけ口元を緩めた。
それは、今まで見たことがないほど安堵した笑顔だった。
毛布の中で、子どもたちが小さな声で「よかった」とつぶやき合う。
夜の冷たさはまだ残っているのに、バスの中はほんの少しだけあたたかくなった。
外では、相変わらず風がガラスの破片を転がしていた。
でもその音は、もうさっきほど怖くはなかった。