ご本人様には関係ありません❌
BL・腐向け作品です
次の日、俺は初めて現場での撮影に同行した。
猗流舞は相変わらず無口で、必要最低限しか言葉を交わさない。
それでも、カメラの前に立った瞬間、空気が変わる。
さっきまで不機嫌そうにスマホをいじっていた人間とは思えないほど、まっすぐで、強くて、眩しかった。
「……すごいな。」
思わず小さく漏れた声は、自分でも聞こえないほどだった。
――けれど、その瞬間。
隣にいた女性スタッフが、ふと俺の方を見て言った。
「ねぇ、貴方、猗流舞くんの新人マネージャー?……あの子にはあまり期待しない方がいいわ。」
「えっ……?」
「前のマネさん、あの子に泣かされたって有名よ。口答えされたとかで。
……まぁ、あの態度じゃ、誰も味方してくれないわね。」
その言葉に、胸の奥がひやりと冷たくなる。
嘘だろ……? 彼が、そんなことを。
確かに態度は無愛想だけど……。
さっき見たあの真っすぐな目は、演技だったのか。
――いや、そんな風には見えなかった。
出来事を思い返しながら、運転席からバックミラーを覗き込むと、 猗流舞は窓の外を静かに見つめていた。
その横顔は、どこか寂しげで、儚くて、思わず息を詰めた。
⸻
「おはようございます。」
扉を開けると、静かな楽屋にかすかに音楽が漏れていた。
奥の席には、いつも通り猗流舞がいる。
ヘッドフォン越しに微かにリズムをとりながら、手帳に何かを書き込んでいた。
眉間に寄った皺と、止まらないペンの動き。
その集中ぶりに、声をかけるのが一瞬躊躇われる。
俺が知る限り、彼は誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰る。
舞台の上で放たれる輝きは、天性の才能なんかじゃない。
努力を積み上げ、削ぎ落として、ようやく手にした光だ。
……たぶん、本人はそんなこと意識もしていない。
ただ前を向き、立ち止まらないだけ。
「…スケジュール確認するから、こっち来い。」
低く通る声が、音楽の隙間から響いた。
思考の糸が切れ、慌てて返事をする。
「はい!」
立ち上がった瞬間、視線の端に何かが映った。
猗流舞の鞄。
その持ち手には、小さなクマのぬいぐるみのキーホルダーが揺れていた。
一瞬、見間違いかと思った。
この人に、こういう可愛いもののイメージはなかった。
けど——不思議と、胸の奥が少しだけ温かくなった。
「意外だな…」
そう呟いた声は、自分でも聞こえないくらい小さかった。







