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さて……決意を改めたものの、どんな顔をして魔王さまに向き合えばいいのか。
寝室で、少し緊張しながらベッドの縁で待っている。
何の話からしようか。
人間とのやりとり?
それとも、魔王さまの過去のことを?
お気に入りのネグリジェの裾の、そのレースに指を這わせながらグルグルと思案する。
お話も何も、いきなり押し倒された場合は……いつお話したらいいんだろう。とか。
「おや、お前が先に居るとは珍しいな、サラ。イザリスとケンカでもしたか?」
魔王さまは寝室に入るなり、私が居るのを見ると、片方の口の端を上げて言った。
「け、ケンカなんてしないですよ」
ここのところ、私の方が遅いのを実は怒っていた……という風でもない。
普通に笑みを浮かべているだけだった。
その証拠に、私の側に来ると、大きくて頑強そうな体を屈めて、額にキスをしてくれた。
いつも。ではないけれど、私の頭を引き寄せてキスしてくれる時は、大体において機嫌が良い時だから。
「……何か企んでいるな? 欲しいものでも出来たか?」
珍しいな、とでも言わんばかりに、私の目をまじまじと見ている。
お話したいことが多くて、緊張し過ぎたのかもしれない。
それが顔に出ていたらしい。
「いえ、欲しいものは特に……」
考えがまとまらないまま、魔王さまが来てしまうから。
私が咄嗟に俯くと、魔王さまは私を押し倒さずに、隣に座った。
「ふむ。そう言う時の女は、何か話があるのだろう? どうだ?」
その優しい声は、話を急かすわけではなくて、私が口を開くタイミングを待ってくれているらしかった。
現に、そう言われてから沈黙が続いているのに、魔王さまは私を抱き寄せることはしても、じっと待ってくれている。
「あの……実は」
私が最初に話そうと思ったのは、鬱陶しくも一部の人間が、私や魔王さまが戦争を仕掛けるつもりではないかと疑っていることについてだった。
あまり、要領を得た話し方は出来なかったと思うけれど、魔王さまは根気よく聞いてくださった。
「そういう事なら……一度、面と向かって話をしてやろうじゃないか」
「うぇっ?」
ほんとに滅ぼしに行く気じゃないだろうか。
そう思ってしまって、ヘンな声が出てしまった。
「何を驚いている。こういうのはな、どうして欲しいのか選択を与えるのがいいんだ。今すぐ滅ぼして欲しいのか、そちらが歯向かった時に滅ぼして欲しいのかを、な」
「エッ? えっ?」
――滅ぼすしか言ってなくない?
「どうせ、本気で敵対するなら滅ぼすしかないだろう。半端に残すから禍根が残るんだからな。以前は、女神に邪魔をされたが」
今ならお前が居るから、封印されるような失敗もしないだろう、と。
「で、でも。前はその、市民は殺さなかったって」
「ああ。だが兵士の家族が必ずその中に居る。それは恨みとなって、いつか渦となる。ならば同じく屠ってやる方が、良いのかもしれん」
それは、事実だと思うけど。
家族を殺されて、「はい、でもこちらが悪かったので諦めます」とはならない。
だけど、滅ぼしてしまえば、その恨みを抱く者は一人も居なくなる。
「魔王さま。人間は……悪い人ばかりじゃありません。だから……」
戦争は、しないでほしい。
まして、滅ぼしてしまうなど――。
「そうか? サラがそう言うなら、何もしないでおいてやるが。サラに危害を加えなければの話だがな」
「え? あ、はい。ぜひその、穏便に……お願いします」
――勇者たちが私を襲った時も、人間を滅ぼしたりしなかったものね?
「ただ、言っておくが……」
「は、はい」
「また、大地を腐らせるような兵器を作れば、その時は別だ。どうせ扱えずに自滅するだろうが、あえてこちらが、再生の苦労を被る必要はないからな」
つまり、腐った大地を再生する苦労を負わされる前に、滅ぼしてしまうつもりだと。
「に、人間には、ちゃんと言っておかないとですね」
「ああ。だから俺が直接言いに行ってやろう。サラはすぐに、相手の言うことを聞いてしまうからな」
交渉が苦手なのを、見抜かれている……。
というか魔王さまのそれは、話し合いと言えるんだろうか。
「えっと……それじゃあ、人間にその旨を、伝えておきますね」
魔王さまは頷くと、少し鼻で笑ったような気がした。
やっぱり、脅迫……だよね?
でも、私としては、魔王さまが正しいと思ってしまう。
だってあいつは、あの会長は猜疑心ばかりで話にならないし。
少し脅してやるくらいの方が、話がかみ合うんじゃないかしらと。
そう思ったら、厄介なことだなと気が重かったのが、フッと軽くなった。
「そうだ。魔王さま。ちょっと、そのままでいてくださいね」
私は、もう一つのお話――魔王さまの小さかった頃の話――を、どう切り出せばいいかを思い付いた。