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ポオはひとり、冷たい路地に立ち尽くしていた。足元には乱歩が放り出したマフラーだけが無惨に絡みついている。それを拾い上げた彼の手が震えていた。
「……くそ。」
声を漏らさないように、ポオはその場で静かに呼吸を整える。深い怒りと冷徹な決意が、心の中で渦巻いていた。
「乱歩……必ず、見つけ出して、取り戻す。」
しかし、どこへ向かえば良いのか、何から始めれば良いのか、その答えはまだ見えなかった。だが、ポオは知っていた。時間が経つほどに、乱歩の命が危険に晒される。追い詰められた感覚が彼をさらに駆り立てる。
ふと、視界の隅に気配を感じ取る。振り返ると、街灯の陰から現れたのは、一人の男。
「ポオ、君もか。」
その声は冷静で、どこか退屈そうだった。男の姿はぼんやりとした影にしか見えない。
「君、どこに行くつもりだ?」
その問いにポオは冷徹な眼差しを向ける。
「君は、乱歩をさらった犯人に関わっているんだろう?」
男はにやりと笑った。どこか楽しげに、そして不気味に。
「やっぱり、君の反応が面白い。だが、残念だが、君もそろそろ……」
その瞬間、ポオの体が震え、力を込めようとしたが、何かが邪魔をした。無意識に身体が重く感じ、息が詰まる。
「何だ……これは?」
男はただ一言、呟いた。
「君も『試す』段階だ。」
ポオの足元から、不気味な黒い霧が広がり始める。それはまるで、生きているかのように彼を捕えようとし、強い力で引き寄せられる。
「異能を……封じた……」
ポオは必死に立ち上がろうとするが、黒い霧が足元に絡みつき、体を縛りつける。
「違う、これは……!」
その時、男がにやりと笑う。
「君はまだ知らないだろう、ポオ。君がどれほどの力を持っているか。それを引き出させてやる。」
ポオは力を振り絞り、足元を振り払おうとする。しかし、その霧が強化されるたびに、心が冷たくなり、まるで自分の体が他人のもののように感じる。
その瞬間、ポオは一度深呼吸をした。冷静に頭を働かせる。制御できるはずだ——その力を、全力で引き出さなければならない。
「……心を、殺すな。」
ポオが無意識に呟くと、霧は一瞬、動きを止めた。そして、ポオの異能が目覚める。
一瞬の閃光と共に霧が消え失せ、ポオの周りの空気が変わった。その力は、単なる「反応」ではない。意識を支配し、世界を一変させるほどの力。
「……さすがだな。」
男は驚きと共に笑った。その表情には、少しの敬意も含まれていた。
「だが、もう遅い。君の愛する者は、もうすぐ……」
その言葉が、ポオの背中に冷たいものを走らせる。乱歩が……どこかで、今も苦しんでいるのか?
暗闇の中の乱歩
一方、乱歩は目を覚ました時、全身が痛んでいた。周りは冷たい石壁に囲まれており、天井から垂れ下がる薄暗い光が、彼の意識をぼんやりと照らしている。
「ここは……?」
彼は目を開け、周囲を見回した。しかし、すぐに手首が冷たい金属に固定されているのを感じ取った。乱歩はその手首を引き裂こうと力を入れるが、何も動かない。
「……また、何かに絡まれてしまったか。」
何度目のことか分からないが、乱歩は冷静に息を吐いた。周囲には人の気配がない。ただ、床に敷かれた薄い布と、湿気の臭いだけが漂っていた。
その時、足音が聞こえた。乱歩は動きを止め、暗闇に身を潜めた。
「お目覚めか?」
その声に、乱歩は目を見開いた。声の主は、先ほどの予告状を送った人物に違いない。男の姿は見えないが、彼の冷たい声だけが響く。
「君が死ぬ理由は簡単だ。」
乱歩は無言でその声を受け止めた。
「何が理由だ?」
男は冷笑を浮かべた。
「君は知り過ぎた。僕たちのことを。」
乱歩はしばらく黙って考えた後、ゆっくりと口を開く。
「……お前が何者であろうと、俺が死ぬわけにはいかない。」
その言葉に男の笑い声が響いた。
「君がどうしようと、結果は変わらない。ただ、君が生きている間に、どれだけ君の存在が脅威になり得るのか。それを試すだけだ。」
乱歩の表情が鋭くなる。
「試すだと?」
「そう、試す。君の『死』が、僕たちにとってどれほどの価値があるか。」
その言葉が終わると、足音は遠ざかり、再び静寂が訪れた。
乱歩は手首に固定された鎖をじっと見つめ、冷静に深呼吸をした。
「ポオ君……必ず、来てくれるはずだ。」