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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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翌朝まだ身体が辛かったけど、平気だと嘘をついてリアムに先に進むように頼んだ。

どうやらリアムは、まだ僕と一緒に旅を続けてくれる気があるらしい。優しいリアムは、男だとわかったからといって、怪我をしている僕を突き放すことが出来ないんだろう。だから僕は自分から離れようと決めた。

一日かけて魔物がいる森を抜け、小さな街の宿に入った。

夕餉ゆうげを食べて身体を洗うと、早々に僕は疲れたからとベッドにもぐる。

リアムが何か言いたそうに口を開きかけたけど、僕が頭から布団を被ってしまったからか、何も言わなかった。

しばらくは荷物を片付けるような音が聞こえていた。でもそのうちに灯りが消えて穏やかな寝息が聞こえ始めた。

僕は布団からそっと顔を出すと、リアムの方を見てドキリとした。

リアムがベッドに寝転びながら僕を見ていたからだ。

僕は激しく鳴る胸を押さえながら口を開く。

「…寝たんじゃなかったの?」

「それはこっちのセリフだ。おまえこそ寝てたんじゃないのか」

「…寝てたけど起きた」

「ふーん…。まだ体力が戻ってないだろ?早く休めよ」

「うん…あの…」

「なに?」

「ありがとう」

「なにが?」

「二度も僕を助けてくれて」

「別に礼を言われるほどのことじゃない」

「そっか。でも言いたかったから…本当にありがとう。おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

僕は心から感謝の気持ちを込めて笑うと、リアムに背中を向けた。眠るつもりはなかったのに疲れていたせいか少しだけ眠ってしまった。

そして夜も明けきらぬ暗いうちにベッドを降りて身支度を済ませ、部屋を出た。扉を閉める前にリアムの顔を見る。

離れたくない。

そう思って胸が苦しくなったけど、どうしようもない。

僕が女だったらリアムは本当に妻にするつもりだったのかな。でも女だったら、そもそも城を追い出されたりはしなかった。命を狙われはしなかった。僕が男だったから城を出てリアムに出会ったんだ。

僕は溢れそうになる涙を目をまたたかせてやり過ごすと、静かに扉を閉めた。



「ロロ、どこに行こうか?」

ようやく空が白み始めた中を、 あてもなくゆっくりと進む。

リアムから離れたものの、僕はどこにも行けない。国境を越えるにも通行証を持っていない。

結局僕の居場所なんてどこにもないんだ。

そう思ったけど全ての国境に関所があるわけじゃない。もし関所を通らずに国境を越えられるなら、他の国も見てみたい。どうせこの世界に居場所はないんだ。流されるままに進んでみよう。

僕はロロの脇腹を軽く蹴ると、昇り始めた太陽に向かって進み始めた。

あてもない旅を始めることになったけど、幸いお金は持っている。城を出る時に、ラズールと二人で暮らすのに必要かもと荷物の中に入れていたのだ。でもラズールが現れることはなく、結局は必要無くなったと思っていた。だけど一人きりになった今はとても助かる。

僕のいたイヴァル帝国の西にバイロン国、更に西に行くとトルーキル国がある。リアムはトルーキル国に行くと話していた。だから僕は北に向かおうと思う。イヴァルとバイロンの両国の北に位置するデネス大国。彼国には一年中雪に覆われた山があると聞く。ぜひその山をこの目で見てみたい。自由になったのだから一つくらいはやりたかったことをしてみたい。

目的ができたことで、苦しかった胸が少し軽くなった気がした。

僕は手綱を握り直すと、ロロの脇腹を蹴って、固く踏みならされた道を走り抜けた。

その日は二三回の休憩を挟んだだけで一日走り続けた。おかげでかなりの距離を進めた気がする。

途中何度も振り返りリアムの姿を確認したが、彼が追いかけてくる様子はなかった。

僕は安堵か不安かわからない息を何度も吐いた。

そして疲れ果てた頃に小さな街を見つけた。

僕はロロから降りて手綱を引きながら宿を探すが、中々見つからない。宿というものは何処にでもあるものと思っていたけど、無い街もあるのかと知った。ずっと城にこもっていた僕には知らないことが多すぎる。この先一人で大丈夫だろうか項垂れかけたけど、首を振って顔を上げる。

目に入る家々は、まだ陽が暮れ始めたばかりだというのに、どの家も窓が閉まっている。通りに人の姿も見かけない。

僕は街を通り抜け、途方に暮れてとぼとぼと歩き続けた。

「仕方ない…野宿するか」

「おい」

「えっ?」

いきなり声をかけられて驚いた。思わず肩が跳ねてしまった。そして激しく鳴る胸を押さえながら振り向く。大きな籠を背負い斧を持った少年が、いぶかしげに僕を見ている。

「…なにか?」

「おまえ、この辺の奴じゃねぇだろ」

「あ…うん。旅をしてるんだ」

「ふーん。今夜どこに泊まるんだ?この辺りに宿屋はないぞ」

「そうみたいだね。まあ…仕方ないから野宿かな」

「バカかっ。おまえみたいなのすぐ狙われるぞ!泊まる所がないなら俺ん家に来い」

「えっ、いいの?」

「いい。姉ちゃんと二人暮らしだから遠慮するな」

「ありがとう」

僕がお礼を言うと、少年は複雑な表情で頷き歩き出した。

僕は少年の隣に並んで歩きながら話しかける。

「僕はフィルと言います。君は?」

「ノアだ。姉ちゃんはリコ」

「ノアくん。さっきどうして変な顔をしたの?僕が怪しい?」

「…怪しくはないけど、おまえ…フィルみたいな子供がなんで一人で旅してるのかなって思った。それに…」

「子供…。僕は十六歳だよ」

「えっ、俺と同じ歳かよ!」

「同じなんだ?よろしくね。それで?」

「おま…フィルはさ、男だろ。でも綺麗な顔をしてるからもしかして女なのかもって一瞬迷った」

「え……」

僕は驚いた直後に嬉しくなった。なぜだかすごく嬉しくなって、足を止めてノアを見つめた。

ノアも足を止めて訝しげに見てくる。

「なんだよ」

「ノア、ありがとう」

「なにが?訳わかんねぇ。礼なら明日の朝、出てく時に言えよ」

「うん」

ノアが変な奴と呟きながら吹き出した。

ノアの笑顔につられて僕も微笑みながら、涙が零れそうになって困った。

僕は嬉しかったんだ。迷うことなく本当の僕をわかってくれたような気がして嬉しかったんだ。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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