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「次は何か食べる?」
「はい、私、あれが食べたいです」
「冷やしパイン?」
「はい、子どもの頃から大好きなんです」
「じゃあ食べよう」
2人で冷やしパインを食べながら歩く道。
たくさんの人で賑わってる中を、隣同士、くっつきながら進む。
時々、袖が触れ合う度に彩葉との距離を近く感じ、それだけで胸が高揚する。
ずっとずっと……君が好きだった。
言えなくて胸に閉じ込めた淡い想い。
そんな想いはいつしかどんどん大きくなって、気づけば、彩葉を女性として意識するようになっていた。
他の誰も目に入らないくらい、毎日毎日、君を想った。
簡単に会うことができないもどかしさに苦しみ、それでも、一堂家で君に会えた時の嬉しさは……
何ものにも変え難い喜びだった。
大好きな人が隣にいて、こんなにも心臓の鼓動が早くなって……
この気持ちは、紛れもなく今の俺の全てだ。
俺は……
この人を真剣に愛している。
それから、ゆっくりと歩いて目的の場所までやってきた。
河岸に、間隔をあけて、いくつもある石段。
その石段の1番上にハンカチを敷いた。
「ここ、座って」
「すみません、ありがとうございます」
まだ辺りはまばらで、これから人が増えてくるんだろう。
少し薄暗くなったこの空に、大輪の花火が上がったら、どんなに綺麗だろうか。
うっすらと浮かぶ月も、今か今かと美しい花が咲くのを待ち構えているようだ。
俺は、今、彩葉に伝えておこうと思った。
「彩葉」
「はい」
「花火、楽しみだな」
「すごくワクワクしてます」
「雪都も見てるんだよな?」
「はい、違う場所でおじいちゃんと。最近はもうおじいちゃんが大好きで」
「良いことだ。一堂社長の喜ぶ顔が目に浮かぶよ」
「父は雪都にメロメロですから」
「時々、一堂社長の自宅を訪ねていた頃が懐かしい」
「そうでしたね。お仕事のことで、たまに来て下さって。父も、九条社長と慶都さんが来られる日をとても楽しみにしてましたから」
楽しみにしてたのは……
きっと、一堂社長より、僕の方だったに違いない。
「一堂社長から学ぶことがとても多くて、毎回、勉強させてもらってた。有意義な時間だったよ。それに……」
「それに?」
首を傾げながら俺を見る彩葉。
その純真で可憐な瞳に吸い込まれそうになる。
「君に会えると思うと心が弾んだ」
「えっ……」
「一堂家に行くと、いつも自然に君を探してる自分がいた」
彩葉を見つけると、本当に嬉しくなった。
「そんな……慶都さんは、麗華とばかり話してましたから。私はあまり会話した記憶がありません。もちろん、姉妹ですから、麗華が慶都さんと話していても、私は2人を微笑ましく見ていましたけど……」