「後で持ってきます」
「本当にいつになったら一人暮らしするんだろうね。26にもなって居候だなんて」
「お母さん、それは言わない約束でしょ? 双葉ちゃんと私は姉妹みたいなものなんだし、私は双葉ちゃんがいてくれなきゃ困るの」
「……すみません。私も早く……って思ってるんです」
「嫌だよ。双葉ちゃんがいなくなるなんて寂しいから。今は、詐欺にあってお金にすごく困ってるし、借金もあるんだしね。まだ出ていけないよね」
もみじちゃんの気持ちは嬉しいけど……
「……なるべく早くお金を貯めます。本当にご迷惑おかけしてすみません」
「本当、あなたの母親と同じね。人に迷惑ばかりかけて」
今まで何度も言われてきた言葉。
どんなことも我慢してきたつもりだけど、いつだって、胸を針で刺すようなこの言葉だけは許せなかった。
「いったい母がどんな迷惑をかけたんですか?」
「いたこと自体が迷惑なのよ。子どもの頃からずっと上手く立ち回って、自分だけが可愛がられて。いつも私はあの人の影にいた。両親だけじゃない、みんながあなたの母親を大事にした。その仕打ち、私はずっと忘れないわ」
憎しみに満ちた目がすごく恐ろしかった。
手を出されることはなかったけど、言葉の暴力の積み重ねは、私の心を蝕んだ。
「お願いです、母のことは悪く言わないでください」
「だって本当のことでしょ? さっさと死んで、私に娘の面倒を押し付けて。迷惑ったらありゃしない」
両親が事故で亡くなった時、ただ悲しくて泣いてばかりだった私を引き取り育ててくれた――
周りはそれを美談にしておばさん達を褒め称えた。
でも……
その時、多額の保険金と遺産が入ったことを私は知っている。子どもだった私に代わり、おばさん達が管理することになったけど、その時のお金を私は1円だってもらってない。
お客さんに愛される「定食屋」を営んでいた両親。経営はとても順調で、経済的に困ることはなかった。働く姿はほとんど記憶にはないけれど、きっと2人が作る料理は、愛情たっぷりで美味しかったんだろうな……
なのに、おばさん達が「定食屋」を継いですぐ、ずっと通ってくれていたお客さん達がみんな離れていき、あっという間に経営は厳しくなった。
赤字になる直前、2人は慌てて店を閉め、躊躇なく売りに出した。そして、その時に得たお金でこの「都田」の家を買った。私の両親が大切に守っていた物を簡単に売り飛ばし、お金に変えて……私のかすかな思い出を全て自分達のものにしたんだ。
そのお金がどうなったのかは、今となっては何もわからない。でも、私は大学を諦め、高校も公立で、無駄遣いはほとんどしていないし、学費や養育費を全部足したとしても、多額のお釣りが出ているのは間違いなかった。
「ここに置いてもらってることは、本当に感謝しています。すみません」
いつも嫌味を言われる度、虚しさが募り、心は閉ざされていった。私はただ、毎日、機械のように「すみません」と謝るだけ。