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これはまずい。
幽霊に悩まされて、夜眠れなくなるって、あれはマジだな。
俺があの扉を見てから、カリカリの回数が明らかに増えた。
あの下駄箱カリカリはネズミなんかじゃない、間違いなく別の何かだろう。
そこで、みんなに問うんだけど、もし自分がこの状況になったらって考えてほしい。
苛立ち、恐怖、引越し、色々考えると思うんだ。
でもね、この時の俺は全く違う感情が支配していた。
“閉じ込められて可哀想だから助けなければ”
そうして俺はある日、下駄箱を外して、お札の貼ってある扉を開いた。
そこには、無数の人形が敷き詰められていた。
日本人形、フランス人形、こけし、能面、動物、キャラクター、本当に様々な人形が敷き詰められていた。
そこで俺は正気に戻った訳だが。
今後も住もうなんて考えは起きなかった。
そうして、不動産屋に電話をして訳を聞いた。
「そうですか、見られたんですね」
明らかに知ってる口ぶりだ。
「その人形には決して触れないで下さい。退去費用はいただきませんので、どうかそのままに」
「実は貴方の前の前の住人が、首を吊って亡くなっています。丁度、電灯をつける金具に紐を引っ掛けて」
「その亡くなられた方は若い女性でして。ロリータファッションというのでしょうか。首を吊っていた時の服装だったそうです。まあ、それだけではなくて」
「人形がお好きだったんでしょう。首を吊ってる自分を中心に、その人形達がまるで死体を見つめるように配置していたそうです。」
「死亡推定時刻は23時頃。当時の第一発見者は隣に住む住人だったんですが、ギシギシと鳴り止まないものだから、管理人に連絡したそうです」
ああ。
そうか。
そういう事か。
夜中に聞こえてた、あのギシギシの音は、家鳴りなんかじゃなくて、今でもその女がギシギシと首を吊られて、揺れていた音なんだ。
全てを悟った俺が、ふと人形に目をやる。
ロリータファッションを着飾った、まん丸な黒目の人形がこっちを見て笑っていた。
終わり。