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ラズールが腕を引いて僕の手を離そうとする。
僕は更に強く掴んで、ラズールを睨みつけた。
「落ち着いて。勝手な行動は許さない」
「申し訳ございません」
謝りながらラズールは渋々元の位置に戻った。
しかし相変わらずリアムを鋭く睨んでいる。いくらリアムが他国の王子で、この国の双子の秘密を知ってるからとはいえ、あまりにも失礼な態度だ。
僕はリアムに申し訳なくて、謝罪の言葉を口にした。
「私の側近が失礼をしました。しかしなぜそのように寄られるのか?あなたの部下が立っている場所が、他国の者と会う時の正しい距離です」
「フィル…フィルだろ?なぜよそよそしくする」
「先ほどラズールが答えましたけど…フィルとは誰ですか?」
「おまえだ」
「私は…フェリです。フィルではない…」
「フィー」
いきなりリアムしか口にしない愛称で呼ばれた。その名で呼ばれたらもうダメだ。一瞬で僕の中のリアムへの想いが溢れ出る。
僕は目を大きく見開いた。四肢が震えて扇子が落ちる。四肢だけでなく唇も震えて、リアムの名前を呼びたいのに言葉が出せない。
僕は震える手をリアムに向けて伸ばしながら立ち上がり、足を踏み出そうとした。しかし右足に力を入れた途端に、足首がズキンと痛んで倒れかけた。
「フィー!」
リアムが僕を受け止めようと両手を出すよりも早く、ラズールが僕を支えて抱き上げる。
「フェリ様、怪我のことをお忘れですか?無理はダメですよ」
「あ…」
「それに前王のことでかなりの心労が溜まっております。そろそろ部屋に戻って休みましょう。隣国の王子、本日はありがとうございました。女王はこれにて失礼致します。早く国にお戻りになり、我が国の騎士を返していただきますよう」
「ま…っ」
僕が喋れないでいると、ラズールが控え室の方へ歩き出した。
僕とラズールの背中に向かって、リアムが叫ぶ。
「待て!どんなに誤魔化そうとも無駄だ。俺はこの国の双子の秘密を知っている。この城で虐げられてきた双子の片割れの王子を知っている。そこにいるのは王子のフィーだ!」
「夢でも見たのではありませんか?」
ラズールが振り返り、冷たく言い放つ。
リアムは僕とラズールの前に来ると、上着のポケットから袋を取り出した。
「夢であるものか!俺は確かにフィーがいたという証を持っている。フィー、俺はこれを見て心が騒いでしかたがなかった。なぜこれを置いていった。もしや形見のつもりか?死ぬつもりだったのか?」
「それは…」
「フェリ様」
口を開こうとした僕は、ラズールの厳しい声に口を噤んだ。顔を上げるとラズールが怖い顔でリアムを見ている。
ラズールは「それはなんですか?」と言って手を伸ばす。
リアムはこちらへと伸ばしていた手を、ラズールの手が触れる寸前でヒョイとよけた。
「触るな。これは俺の大切な物だ」
「だからそれは何ですかと聞いています」
「これは、そこにいるフィーの銀髪だ」
リアムが袋の中からひと房の銀髪を摘んで出した。
僕は思わず自分の髪の毛に触れる。
そうだ。バイロン国を出る時に、もう二度と会うことはないと思って、僕のことを忘れて欲しくなくて、少量の髪を切って袋に入れ、眠るリアムの傍に置いてきたんだ。
ラズールはリアムの指に挟まる銀髪を見て、一瞬だけ驚いた顔をした。だけどすぐに平常に戻る。
「…確かにそのように美しい銀髪は、我が国の王族以外におりません。しかしフェリ様はずっと城の中におられました」
「だから双子の王子の銀髪だと言ってるだろう」
ラズールがちらりと大宰相に目を向ける。
大宰相は一度目を閉じて息を吐いた。そして小さく頷くと、リアムに向かって口を開いた。
「隣国の王子、あなたにこれ以上隠すのは無理のようです。そうです、あなたがお会いになられたのは我が国の王子フィル様です。こちらにおられるフェリ様の弟です」
「ふん、やっとフィーの存在を認めたな。だがまだ嘘をついている。そこにいるのはフィーだ。なぜフィーは、姉の代わりをしている?やっと解放されて俺の傍で幸せに笑っていたのに、なぜ国に戻り再びそのようなひどい事をさせられているのだ」
僕はラズールの上着を握りしめて、涙が零れないように唇を噛んだ。
リアムが僕の心配をしてくれている。嬉しい。本当は今すぐ僕はここにいると叫んでリアムの胸に飛び込みたい。だけど僕は、女王になると決めたんだ。覚悟したからには気持ちを強く持て。
リアムは、銀髪を袋に戻して上着の内ポケットに大切にしまうと、ラズール、大宰相、トラビスと順番に睨んだ。
トラビスは目を伏せた。大宰相は口を閉じ、代わりにラズールがまた話し始める。
「何を仰られているのかわかりません。誰も代わりなどしておりません。我が国は代々続く女王が治める国。ですから王女であるフェリ様が、前王が亡き後に後を継がれました。それをそのような言いがかりをつけられて…。ひどいのはどちらでしょうか」
「ではフィーはどこにいる!そこにいるのが王女だと言うなら、双子の王子はどこにいる!彼を、フィーを連れてこい!」
「連れてきたとして…フィル様をどうなさるおつもりですか」
「俺の国に連れて帰る」
リアムの言葉に反応して揺れた僕の身体を、ラズールが強く抱きしめた。