阿部side
気になってたあの子が、耳が聞こえないことを知った。
そんなことも知らずに話しかけてた。
その子が高校2年生なことも知った。
もし、その子が俺と同じ大学に行ったら、1年間一緒にいれる。
その子も同じ大学に行きたいと思ってくれたみたいで、目指しているみたい。
しれば知るほど面白い子で。
努力家で、誰よりも辛いはずなのに頑張ってて。
夜遅くまで頑張ってて、俺が送り届けたこともあった。
この前の模試でC判定を取ったらしく、2人で喜んだり。
教えていくうちに距離が縮まったり。
俺は、あの子、千冬に惹かれていた。
ある日、また図書館に行った。
俺は、自分から話しかけるために買った筆談パットを取り出した。
”体調悪い?大丈夫?“
’大丈夫です、心配ありがとうございます‘
今日も勉強する。
それから、解散する。
立ち上がるとき、視界がぐらっと揺れた。
…俺が倒れたんじゃない。
阿「千冬っ、!」
あの子には聞こえない。
だけど叫んだ。
阿「っ、千冬っ、返事してっ、」
答えるわけがない。
聞こえないんだから。
千冬は救急車で運ばれた。
結果は、寝不足と貧血。
千冬は、’こんなことで救急車呼ばなくてよかったのに、‘
って書いてたけど、俺は複雑な気持ちだった。
千冬は夜遅くまで勉強している。
同じ大学は嬉しいけれど、
それで千冬に負担をかけるなら、やめさせたほうがいいのかもしれない。
目の前で嬉しそうに笑う千冬を見ていたら、いっそうその思いが強くなる。
千冬は大切だ。
だからこそ、守りたい。
俺は震える手で、筆談ボードに文字を書いた。
“大学、諦めよう、”
千冬side
阿部さんが変な顔をしていると思ったら、筆談パットが差し出された。
“大学、諦めよう。”
えっ、?
月日が経ち、今は九月。
あと受験まで五ヶ月ほど。
’なんで、ですか…。‘
“俺と一緒の大学に行けるのは嬉しい。けど、難しすぎるよ、“
阿部さんがこういうことを言う人だと思わなかった。
阿部さんはいつだって私のくだらない夢を応援してくれたから。
ずっと、支えてくれたから。
短い間でも、阿部さんが必要だった。
阿部さんが、好きだった。
耳が聞こえなくてもわかる。
ここは沈黙の、暗黒の世界だと。
’そんなの、わかんないじゃないですか‘
”…怖いんだよ、大切な人を失うのが__“
ちょっと思い通りじゃなかったらすみません、
あともうちょっとで完結します!
次章 10♡