今日のランチメニューは夏場の定番、『冷やし中華』であった。
両手を合わして、
パンッ!!
「「いただきますっ!!」」
目の前の座卓に置かれた、古伊万里(こいまり)の大皿に盛られた茹で中華麺を中心にして、周囲に配置された、錦糸卵、細切りハム、ツナ、トメイト、茹で上げた刻み木耳(きくらげ)、塩に揉まれてシオシオノパーになっているヤワヤワ胡瓜、紅生姜に刻み海苔、たっぷりの和芥子(わからし)と、甘辛酸っぱい中華ダレが脇役を彩った夏の御馳走であった。
コユキはウマウマと思いつつ、五人前平らげた後、いつもの様に善悪へと告げた。
「善悪! 今日も美味しーいよー! お代わりっ!!」
|然《しか》し、善悪は信じられない言葉を口にしたのである。
「ごめんでござる、冷やし中華はこれで終わりでござるよ…… ごめんね! コユキちゃん…… (ニヤリ)」
「えっ? 嘘でしょ? 善悪…… ま、だ…… 半分も、食べて、無い、の、 に?」
絶望をその顔に浮かべるコユキの声に答える事も無く、無表情のまま台所に姿を消した善悪が、再び姿を現したとき……
我等がツルギ、王国の誇る、真紅の簒奪者(さんだつしゃ)がその両手に提げていたものは、
「ジャ――――ン!! ホットケイク祭りでござるよーん♪」
色目も鮮やかなホットケイク、所謂(いわゆる)ホットケーキの山が盛られた超大皿古伊万里皿であった。
つるつるで、結構肉体パンパンなくせに、何てステキなサプライズ……
小憎らしいな、こんちくしょう! である。
「オゥ、リアリィ?」
コユキも思わずその色目に捕らわれてしまった、見目美しい王女様ぶりに答えて言った。
「貴方は何てステキな驚きを与えてくれるのでしょうか? ワタクシの心はこのカスタードクリームの輝きに捕らえられ、もう離れられません!」
毎年互いのゲーム内キャラクターによって行われてきた、誕生日の度に繰り広げられる、下らない寸劇であったが、初めて目にした、オルモラの二人には、コユキと善悪が狂ってしまったとしか思えなかった。
「エ? ツルギ、サンセンチ? エ? ダイジョブ? ナノ?」
「兄者、こ、これは? 我が主様達は…… 一体……」
オルモラの心配を一切気にする事も無く、コユキは満面の笑顔で言った。
「うほぉ! 善悪のカスタードクリームじゃん! なに? アンタ? 空気読んじゃってんの~? こりゃ頑張るしかないねぇ!」
メインのカスタードに加えて、味変用のアイテム、メープルシロップ、蜂蜜、ジャム、バター、様々な季節のフルーツもササッと座卓に並べられていく。
コユキの眼はすっかりハートマークになり、目の前のホットケイク(善悪曰く)しか映して居らず、折角いいムードになりかけた二人の関係は、これ以上進展しそうには見えなかった。
『ツンデブ』効果の検証は、次回以降に持ち越されたのであった、残念至極。
山の様に積み上げられた筈の手作りスイーツは、コユキの化け物じみた食欲の前に見る見る減って行った。
満足そうにそれを見守りつつ、自分も食べ始めた善悪の頬にも、カスタードが付いたままだ。
夢中でハグハグ食べているコユキに刺激されたのか、本来飲み食いの必要が無いオルモラまで、
「ムホー!」
「むうぅ、これは……」
と唸りながら、恐らく初めてであろうクリームの甘みを堪能していた。
オルモラが心奪われるのも無理の無い話しであった。
善悪の作る食べ物は、基本的にめちゃくちゃ美味しいのだ。
その証拠に、この十日余りのお呼ばれのお蔭で、コユキの体重はいい感じで増え、当初二十二貫だった体重は二十四貫、およそ九十キロに迄達している。
この調子であれば、夢の三桁もそう遠く無い未来には到達出来る事だろう、良かった、良かった。
「ゲェープッ! 御馳走様でした~! もう、お腹パンパンよぉ」
四人揃って食べ終えて、大満足の中、恒例の食後のトークタイムに入って行く。
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