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「ところで、さっきのあれ、何か凄かったでござるな、『ショット』とか言っていたでござるが」
善悪が食器を自分の前に重ねながらコユキに話し掛けた。
「うん、モラクス君に考えてもらった技よ! 結構えげつ無かったでしょ?」
「うむ、エクス・ダブル越しでも分かったでござるが、同時に数十の拳撃を感じたでござるよ、一体どうやっているのでござる?」
コユキの返答に、善悪は首を傾げて重ねて聞いた。
「ふっふ~ん♪ それはね――――」
コユキが説明した『散弾(ショット)』の原理は、
①…… アヴォイダンスの応用で左右のラッシュパンチを超高速で繰り出す。
②…… その時の肩、胸、背中の動きを覚える。
③…… 今度はアヴォイダンスを使って肩、胸、背中を小刻みに動かす事でパンチを自動化、最速化させる。
④…… 超高速のパンチを出したまま、膝を使って円を描くように、アヴォイダンスで腹の肉を動かす。
⑤…… 腹が動いた範囲と同じ広さを超高速の拳で埋め尽くす。
という、普通なら実現不可能、選ばれた肥満女子だけに許された、如何にも臭って来そうな内容であった。
聞いていた善悪は感心したように唸った。
「む~、聞いているだけだと馬鹿みたいでござるが、直接受けた感じは、なんか、必殺技っぽい迫力があったでござるよ」
「むふふ、でそ? カッコいいわよね!」
「うん、カッコいいでござるよ、ん? あれ? これ使ってかぎ棒で刺し捲くれば本当に必殺技なんじゃ?」
「あーそれがねー、ね、モラクス君」
「はい、この技は自動で高速の連撃を繰り出すものです。 その特性上、拳を強く握っての直線的な動きしか出来ません。 故に握りの形は正拳、又は崩拳(ほうけん)でしか発動出来ないのです。 勿論、中立一指拳(なかだていっしけん)の様に指の間に突き立てる事も考えたのです。 ですが、何と言っても掛け替えの無い神器『スプラタ・マンユ』を不安定な状態に晒す(さらす)訳にもいきません。 それに、何より私達兄弟にとっては二つと無い、謂(い)わば故郷な訳ですから…… と言う事でコユキ様にお願いしまして、かぎ棒は使わない方向で決定させて頂きました」
「ふむ、そうでござるか、それにしても、モラクス君って本当に流暢(りゅうちょう)に話すのでござる! また、落語、出来れば新作にもチャレンジして欲しいのでござる」
「これはっ! お望みとあれば努力させて頂きます…… 兎に角、仰っておられた、引き出しが又一つ増えたと言う訳でございます」
皆、其々(それぞれ)に御満悦(?)な時間を過ごす中、一人オルクスは何やら心に翳(かげ)を射されたようにコユキに吐露(とろ)するのだった。
「ネ、ネェ、サンセンチ…… オルクス………… モウ、イ、イラナイノ?」
コユキはキョトンとした顔で答えた。
「いるよ! 居て貰わなきゃ困るに決まってんじゃん! オルクス君?」
「デ、デモ…… モラクスノ、ホウガ、……イインデショ?」
俯き(うつむき)加減に、いつも以上にワタワタしながら言うオルクスは、何やら覚悟を決めた態(てい)でコユキを真直ぐに見つめている。
コユキもその瞳を受け止めて、珍しく真摯(しんし)な顔つきを浮かべて答えた。
「モラクス君は確かに凄いよ、それはオルクス君に比べてじゃなくて、私達三人『聖女と愉快な仲間たち』にとってね♪ でも、そのモラクス君を仲間として迎え入れたのは、オルクス君と善悪と、まぁアタシもそれなりに頑張った結果だよね? だから、優れたメンバーが来てくれた時に喜び捲くっているってのは、自分達を陰に褒めてるってのかな? やったぜ! 凄い子GETしたぜ! やったぜ私達!! って喜びを表してるんだよ! 分かるかな? オルクス君にとってモラクス君ってどんな存在なの? ん? んん?」
オルクスは暫く(しばらく)コユキの言葉を反芻(はんすう)するように考え込んでいたが、やがて、満面の笑みを浮かべて言ったのである。
「ジマンノ…… オトウト、ダヨ…… ワレ、ハ…… モラクス、ダイスキ!」
コユキは即座に返した。
「でしょうっ?」
そんな感じで兄弟、特に兄サイドの一方的な蟠(わだかま)りはクリア出来た様であった、良かった、良かった。