「……ありがとう。」
小さく呟くと、涼ちゃんは柔らかく笑った。
車内は静かに揺れながら、
スタジオへと向かって行く。
…………
side wki
レコーディングスタジオに到着すると、
いつものようにスタッフが慌ただしく動き回っている。
涼ちゃんは先に中に入っていき、
俺は少し遅れてその後を追う。
廊下を歩きながら、
胸の奥に湧き上がる不安を無理やり飲み込んだ。
よし。今日こそ、元貴に声をかけてみよう。
さっきの涼ちゃんの言葉に背中を押されて、
少しだけ勇気が湧いて来た感じがしていた。
・・・・・・・・・・・・
スタジオのドアを開けると、
元貴は既にブースに入って、
マイクの前で試しに声を出している。
彼の集中した横顔を見ると、
やっぱり今じゃないんじゃないか・・・
そんな考えが頭をよぎる。
でも、今日を逃したらまた、
話したいって、ずっと言えない気がする。
レコーディングが進む間、俺はギターを弾きながらも心がそわそわして落ち着かない。
時折、涼ちゃんが「大丈夫だよ」と
視線で伝えてくるけど、
それでも足がすくむような感覚が
一日中、抜けなかった。
レコーディングが終わり、
各々が片付けを始めるころ。
俺は意を決して元貴のもとへ向かう。
「元貴。」
名前を呼ぶと、彼は軽く首を動かして
俺の方を見た。
「どした?」
相変わらず冷静な声。
けれど、そのトーンの奥に少し疲労感が滲んでいる。
「…………。
今日、元貴の家に行ってもいいかな……?」
元貴のどこか冷めた目を前に、
声が震えないように必死だった。
「なんで?」
元貴の問いかけに、思わず言葉を詰まらせる。
理由なんてない。
ただ、少し二人だけで
時間を共有したかった。
「……なんとなく。話したいことがあって。」
何とか言葉を絞り出した俺に、
元貴は少しだけ目を伏せた。
「……そっか。
……若井、今日は、ごめん。」
「………。」
その答えは予想していたものの、
胸に鋭い痛みが走る。
「ごめん。暫くは、時間がなさそう。」
元貴の言葉は決して
突き放すような言い方では、無い。
けれど、どこか距離を
感じさせる言い方だった。
「……そっか。」
「若井、また今度――」
元貴が何か言っているのが聞こえるが、
俺は、胸が嫌な鼓動を立て、
息も苦しくなり、何も聞こえない。
俺は、気づいた時には、涙が溢れそうだった。
やばい。
泣くな。泣くな。泣くな。泣くな。
止まれ・・・っ。
「……っ。」
元貴は唇を強く噛んで、涙を堪えている俺を見て、
一瞬だけ戸惑った表情を浮かべる。
でも、すぐに顔を逸らして、静かに言った。
「……若井、ごめん。」
同じ言葉を繰り返す元貴に
俺の胸の中で何かが崩れ落ちた。
….
コメント
48件
目がぁ、目がぁぁぁ!
まっじで感動しました……!!少し前のお話でもう大号泣しちゃいました……!こんなに見入れるノベル初めてです😭😭更新待ってます、!
とっっても好きです… 更新を楽しみにしていますー!