テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……ん、真尋、ここ、どういう意味?」
深夜二時。真尋の部屋のローテーブルには、何冊もの分厚い参考書と、ノートパソコンが広げられている。明日は前期の山場となる、難関科目のテスト。二人は「テスト勉強のお泊まり会」という名目で、この部屋に籠っていた。
「あ、そこはね……」
真尋は沙織の背後から覗き込むようにして、シャープペンシルを持つ沙織の手を上から包み込んだ。沙織の細い指に、真尋の指が重なる。真尋はそのまま手を動かし、ノートに数式を書き込んでいく。「……こう。分かった?」
「うん。真尋の教え方、すごく分かりやすい」
沙織はノートを見つめたまま、コクンと頷く。
けれど、その視線は数式ではなく、自分の手を包む真尋の体温に向けられていた。勉強は、ただの「言い訳」だ。二人の成績が優秀でなければ、親も、大学の友人も、このお泊まり会を「ただのサボり」だと疑うかもしれない。だから二人は、絶対に手を抜かない。完璧な成績を取り続けることで、二人きりで夜を過ごす正当な権利を、社会から勝ち取っているのだ。
「もう二時だね。少し休憩しようか」
真尋が手を離すと、沙織は目に見えて寂しそうな顔をした。その手を引き戻すように、沙織は真尋のシャツの袖をぎゅっと 握りしめる。
「休憩、するなら……チャージして?」
沙織の瞳が、部屋の薄暗い明かりを反射して濡れたように光る。昼間の「しっかり者の大学生」の顔は、もうどこにもない。夜が更けるにつれて、沙織はどんどん真尋なしでは形を保てない、ただの「依存の塊」へと溶けていく。
「いいよ。おいで」
真尋が両腕を広げると、沙織は待ってましたと言わんばかりに、その胸に飛び込んできた。ベッドの上に二人で倒れ込み、シーツの海に沈んでいく。真尋は沙織を細い腕で強く、強く抱きしめた。肋骨がきしむほどの強さ。けれど、沙織はその苦しさに、うっとりと目を細めて真尋の首筋に顔を埋める。
「あぁ……落ち着く。真尋の匂い、真尋の体温……これが無いと、私、明日テストなんて受けられない」
「私もだよ。沙織をこうして閉じ込めてないと、私の頭、おかしくなっちゃう」
真尋は沙織の髪に指を絡め、少し強めに引っ張って自分の方を向かせる。
「ねえ、沙織。明日のテスト、もし私が全部付きっきりで教えてあげなきゃ、沙織は一人で単位取れないよね?」
「うん、取れない。私、真尋がいないと何もできない、無能なままでいいよ……」
「そう。沙織は私の言うことだけ聞いて、私の用意した答えだけを書いていればいいの。一生、私の庇護の中にいてね」
真尋の重く、独占欲に満ちた言葉が、沙織の耳に、脳に、深く染み込んでいく。沙織は真尋の首に腕を回し、縋り付くように唇を重ねた。何度も、何度も、お互いの唾液を交換し、お互いの存在を脳に焼き付ける。夜通し、二人はお互いを貪り合った。抱きしめ合い、呪いのような愛の言葉を囁き合い、お互いがいないと明日を迎えることすらできないのだと、何度も確認し合う。けれど、午前五時。東の空が白み始める頃、二人は示し合わせたように、ふっと腕を解いた。
「……そろそろ、最後の確認しよっか」
「うん。間違えたところ、もう一回解き直すね」
何事もなかったかのように、二人はベッドから起き上がり、机に向かう。少し乱れた髪を櫛で整え、冷たい水で顔を洗う。そこにはもう、夜の狂気の中にいた二人はいない。数時間後、二人はいつも通り、大学の講義室に並んで座っていた。周りの友人たちが
「うわ、二人とも寝不足? テスト勉強頑張りすぎでしょー!」
と笑いかけてくる。
「うん、ちょっと難しくて、夜通し二人で頑張っちゃった」
真尋は爽やかに微笑み、沙織も
「真尋のおかげでバッチリだよ」
と可愛らしく笑う。周りは二人のことを「切磋琢磨し合う、理想的な親友」として、また一段と信頼を深める。その公認という名の檻の中で、二人は机の下で、また静かに、深く、お互いの存在を縛り合うのだった。
コメント
2件
共依存ってより狂依存感あってめためたに好きです...
うわあああ待って待ってこの密度…!!😭💕 「成績=言い訳」って設定がもうずるすぎん?外では完璧な優等生、夜は依存し合うだけの獣……このギャップがまたエモすぎて頭おかしくなる!! しかも朝になったら何事もなかったかのように整えるの、マジで背筋ゾクゾクした… 机の下で繋がり直すラスト、永遠に続く檻の中って感じがして切なくて好きすぎる。 次、絶対読みたい…!
#百合
トド村
322