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放課後の昇降口。
愛梨は、自分の足音がやけに大きく響くのを感じていた。隣には、ポケットに手を突っ込んで悠然と歩く海里。その存在がなければ、今頃腰が抜けて座り込んでいただろう。
校門を出ると、夕闇の中に沈む黒いセダンのヘッドライトが、不気味に二人を照らした。
運転席のドアが開き、ゆっくりと一人の男が降りてくる。
「……愛梨。やっぱりここだったんだね」
佑真の声だ。優しく、それでいて逃げ場を許さない、真綿で首を絞めるような甘い声。彼はかつて愛梨がプレゼントしたネクタイを締め、完璧な「理解ある恋人」の顔をして微笑んでいた。
「急にいなくなるから心配したよ。さあ、帰ろう? 荷物はそれだけ? 後のことは僕が全部片付けておいたから」
佑真が愛梨の手首を掴もうと一歩踏み出した、その時。
海里が、愛梨の腰に強く腕を回し、彼女を自分の方へ引き寄せた。
「……誰っすか、あんた」
海里の声は、教室で聞くよりも低く、ドスが効いていた。
佑真の動きが止まる。その目が、海里の制服と、愛梨の腰に回された手に注がれる。完璧だったはずの微笑みが、ピキリとひび割れた。
「……愛梨、その子は? 冗談はやめなよ。生徒と遊ぶなんて、また問題になるよ」
「遊びじゃないっすよ」
海里は愛梨の肩に顎を乗せ、佑真を挑発するように目を細めた。
「愛梨はもう、あんたみたいな『古臭い男』には興味ないんだって。さっきも車の中で待ってるあんたを見て、気持ち悪いから早く帰ってって言ってたぜ?」
「愛梨……君が、そんなこと言うはずがない。こいつに言わされてるんだね?」
佑真の瞳の奥に、暗い炎が宿る。愛梨は震える身体を海里に預け、彼に教えられた通り、佑真の目を真っ直ぐに見返した。
「……ううん。私の意志よ、佑真。もう、あなたには会いたくない」