2時間目の授業が終わり、号令も済んだ後。次の授業が移動教室なこともあり、廊下に出ようと一歩踏み出す……
グラリ
突如視界が歪み、世界が傾く。扉が横向きに倒れ、自分の体に鈍い痛みが走る。倒れた。瞬間そう思った。床に手を着いて起き上がろうとする。
みく「う”ぅ…」
酷い吐き気と頭痛。あぁ、やっぱり相当悪かったんだ。ずっと頭は痛かったし、ずっと黒板の文字を読むのが辛かった。どう考えても体調が悪いのに、周りに心配をかけたくない一心で、自分でも気づいていないふりをしていた。でもそれは所詮『フリ』。体調が悪いのに変わりはない。
女子「またぁ?w」
女子「もういいって、めんどくさいww」
女子「みくちゃん大丈夫ー?って言って欲しいだけでしょw」
女子1「かまちょキツ〜。ね、瀬戸くんw」
ぐっと立ち上がり、もう一度歩こうとする。でもまた足元がフラッと揺らぐ。
せと「っ、ちょ、山野!!!」
女子1「相手するだけ無駄だって〜」
また倒れそうになった私を、今度は瀬戸くんが受け止める。周りの声なんて全く聞こえていないようで、瀬戸くんはそのまま立ち上がる。
せと「こいつ保健室連れてくから、先生に言っといて」
まだ後ろで声が聞こえたが、瀬戸くんにはもしかしたら聞こえてないのかもしれない。てか待って、なんかサラッと抱っこされてない?!
みく「ちょ、せとく、」
せと「安静にして」
ぐいっ、と抱き直され、ゆっくりとした足取りで保健室に向かう途中で、私の意識は途切れた。
【せと視点】
朝、軽く山野に挨拶をすると、ふわっとした笑顔で返された。俺には興味無いだろうと思ってたし、この噂が俺のせいなのは何となく察してるはずだし、なんなら嫌われているまであると思っていた。長いため息のような息を漏らしながら机に伏すと、山野が話しかけてきた。
みく「えーっと……」
せと「うん、うん、待って、落ち着かせてお願い」
みく「?」
席替えで隣の席になった時点で、心臓が持つなんて思ってたわけじゃないけど、他の人と話すだけじゃなくて、俺に向けられることってあるんだ……。山野の方を向くと、さっきとは打って変わって少し暗い表情だった。もしかして、体調不良とか、なんか隠すために笑ってたんかな。
多分、俺の予想は当たってた。移動教室に向かおうとする山野が思いっきり倒れた。足元から崩れ落ちる、というより、倒れたという表現が正しいくらい思いっきり。周りはまた仮病だなんだと騒ぎ立てているが、演技でここまでやるか普通。てか演技だとして、こんな勢いよく倒れたらワンチャン怪我してんだろが。周りの奴らが引き止めるように話しかけてくる。無視しようにも、袖を掴まれているので無理やり進むことが出来ない。
らん「せーとっ!」
女子1「ちょっ」
みさとらんが俺と俺を掴んでた女子の間に割って入ってきた。それに驚いてそっちを向くと、山野の方を指さして、行ってこい、と口パクで伝えられる。
山野の方を向けば、立ち上がって、また歩き出して、そしてフラッと倒れそうになる。
せと「っ、ちょっ、山野!!!」
咄嗟に支えれば、虚ろな目でこちらを向いてくる。顔は真っ青で、唇は少し震えていた。そのまま抱き抱えて立ち上がり、先生に言っておくよう伝え、教室を出る。そういえばこの前も運んだな。でもこの前と違うのは、山野に意識があるということ。
みく「ちょ、せとく、」
せと「安静にして」
いわゆるお姫様抱っこという状態である、と気づいたのか、身をよじるようにして話しかけてきたので、もう一度しっかり抱き直して、揺れると良くないので、ゆっくりと保健室に向かった。途中から、山野のすーすーという寝息が聞こえてきた。
山野を保健室のベッドに寝かし、その横に椅子を持ってくる。
みく「ん……。せ、と、くん?」
せと「お、起きた?熱計って」
机の上に置いてあった体温計を山野に手渡し、持ってきた椅子に腰掛ける。熱を測り終えた山野は、こちらを向くと申し訳なさそうな顔をした。
みく「ごめんね、瀬戸くん。」
せと「なにが?」
みく「迷惑、心配?かけちゃって。」
迷惑?心配かけちゃってごめん?一瞬、山野が何を言っているのか理解できなかった。山野のことを迷惑なんて思ったことは無いし、勝手に心配してるのは俺だから、謝られる覚えもない。
目の前の山野には、なにかに怯えるような、それでいて、全部自分で何とかしようというような意志を感じた。はてなもみさとらんも、俺だって山野の味方でいるのに。誰にも迷惑をかけずに、何とかしようと模索している。
気がつけば、俺は山野を抱きしめていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!