テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
セオドアも、状況は詳しく分からないそうだ。
「学園に入ってから、こんな事態は初めてで……」と、オリヴァーをとても心配していた。
地理の授業が終わり、休み時間にアレクサンドルと一緒に、職員室のデーヴィドを訪ねた。当然、オリヴァーの事を詳しく訊くためだ。
「オリヴァー君ですね……。学園への連絡は、シモンズ辺境伯から、暫く休ませてほしいと来ていますが。詳しい内容までは、聞かされていないのですよ」
「「そうですか……」」
全くと言っていい程に情報が手に入らず、ガッカリと肩を落とす。まあ、予想はしていたのだが。
アレクサンドルと沙織は、目配せして次の手を考える。
「アレクサンドル様……。放課後、宮廷のステファン様の所へ向かいませんか?」
こっそりとアレクサンドルを誘ってみた。
アレクサンドルは目を見開き、驚きの表情だ。
「その時間からの馬車での移動だと、着くのは夜になってしまうのでは?」
(あ、そうか。転移の魔道具のことは知らないのね。うーん……。教えちゃっても……ま、いいわよね)
「大丈夫だと思います。放課後、中庭に集合しましょう。必ず! お一人で来てください。リュカも連れて行きますので」
リュカがシュヴァリエだと知っているアレクサンドルは、言いたい事が何となく分かったようだ。馬車以外に移動方法があるのだと。
放課後の約束をして、二人は教室に戻った。
廊下の片隅で、デーヴィドは二人の話を聞いていた。
殆ど面識が無かった筈のアレクサンドルと沙織が、あまりにも親しくなっているのが不思議だったからだ。
「放課後……中庭か」
そう呟くと、デーヴィドは職員室へ戻って行った。
◇◇◇
放課後――。
デーヴィドは、沙織の跡をつけていた。
沙織は先に中庭についたが、アレクサンドルはまだ来ていなかった。リバーツェを抱っこしたままベンチに座って、アレクサンドルを待つ。
暫くすると、アレクサンドルが急ぎ足でやって来て、二人で女子寮近くの人気の無い場所まで移動して行く。
二人の仲の良さそうな様子に、デーヴィドは胸が苦しくなったが……それでも、跡をつけるのを止められない。
辺りをキョロキョロと確認してから、沙織はポケットからコンパクトのような物を取り出す。
(何をするつもりだ?)
目を凝らして見ていると、コンパクトが光り出す。
(なっ! あれは、魔道具か!? なぜ、そんな物を?)
沙織が発動させた魔道具から、転移陣が現れた。
一瞬で、沙織とアレクサンドル、リバーツェがの姿が消え――魔道具がポトリッと落ちた。
デーヴィドが、その場で動けずに立ちつくしていると、いつの間にか現れたメイド服の女性が、それを拾って振り向いた。
アーレンハイム公爵家のベテラン侍女のステラは、隠れていた二人を視線で捕らえ、主人であるガブリエルに負けない程の迫力で静かに言った。
「ミシェル坊ちゃん、デーヴィド先生、今見た事は他言無用ですよ」
(…………なっ!?)
「はぁ……わかってるよ。全く、ステラには敵わないな。でも、どうしてここに居るんだ?」
木の陰からミシェルが出て来て、ベテラン侍女に返事をしながら尋ねた。
「お嬢様にこちらの回収を仰せつかっておりまして」
そう言ったステラは、さっき拾った物――コンパクト型の魔道具を見せた。
「なるほど、ね。父上とサオリ姉様には言わないでくれよ」
「それは、ミシェル坊ちゃん次第でございますよ。デーヴィド先生も、おわかりですよね?」
ステラはニッコリと笑みを浮かべた。
「な、なぜ……」
どうして、この場にミシェルが居て、ベテラン侍女に自分が隠れて見ていた事がバレたのか……デーヴィドは訳が分からずにいた。
ミシェルがデーヴィドの前にやって来る。
「どうやら……先生にはちゃんと説明しておかないと、色々やらかしそうですね。デーヴィド先生は、サオリ姉様が好きなのですよね? アレクサンドル殿下との関係が気になりますか?」
デーヴィドはミシェルのストレートな質問に、グッと詰まりながらも「その通りです」と頷いた。
「では、お教えします。その代わり、絶対にサオリ姉様の邪魔だけはしないでください。僕だって……我慢しているのですから」
「分かりました。それが、彼女の為なら……」
「サオリ姉様は、本物の光の乙女です。そして、王命により動いています。勿論、内容は……僕も知りません。今、アレクサンドル殿下と向かったのは、きっと宮廷のステファン様の所です。多分ですが、脳筋……いえ、オリヴァー様の件を調べに行ったのでしょう」
(彼女が……本物の光の乙女だと!?)
デーヴィドは息を呑む。
「なぜ、ステファン君の所へ?」
「それは、ステファン様が、光の乙女であるサオリ姉様をこの国に呼び――全てのサポートを、彼がしているからです」
「まさか……ステファン君も?」
「いいえ。ステファン様は、カリーヌ姉様一筋ですから。僕的には看過できませんけどね」
(やはり、ミシェル君は噂通り筋金入りの……)
「アレクサンドル殿下は、今は恋愛よりも国の為に必死ですし。サオリ姉様は――驚くほど恋愛に疎い。そんな二人ですから、先生がしている心配は無用です。まあ、他にライバルは多そうですけどね。僕らに出来る事は、サオリ姉様が無事に王命を成し遂げる為の、邪魔をしないことです。ですから――。先生も、今は見守るだけにしてください」
「わかりました。今は僕なりに彼女を見守ります」
そして、デーヴィドは力無く、学園へ戻って行った。
◇◇◇
「ミシェル坊ちゃんも、サオリお嬢様を見守るだけになさってはいかがですか?」
「何のことかな? ステラ」
白々しくミシェルは答えた。
「お嬢様に迫るのは……程々になさいませ」
(バレてたか……やはりステラには敵わないな)
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!