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宮廷のいつもの研究室に到着するが――ステファンの姿は無かった。
「あれ? ステファン様は……居ないわね?」
『この時間は、いらっしゃる筈ですので探して参ります』
そう言うと、リュカからシュヴァリエに戻って姿を消した。
(……どうやって、姿を消すのかしら? いつも不思議に思うのよねぇ)
「それにしても、サオリ嬢の魔道具と研究室が直接繋がっていたとは……。あの魔道具は、兄上が作られたのですか?」
「そうなのよ。お義父様にお願いしたら、ステファン様が作ってくださったの。ただ、あの魔道具はその場に残ってしまうから、いつもは寮の自分の部屋から転移してるのです」
「え……!?」
アレクサンドルは表情を強張らせ、沙織を見る。
「で、では……! あの場に、貴重な魔道具がそのままなのですか!?」
「いえ、まさか! 侍女のステラに頼んで回収してもらっている筈です。帰りの時間もステラと決めて来ましたので。その時間に合わせて転移するつもりです。いくらアレクサンドル殿下とはいえ……女子寮内に勝手に入ったら、変態扱いされてしまいますもの」
「た、確かに……入れば、厳重注意はされるでしょうが。なぜ変態に……?」
アレクサンドルは腑に落ちないものを感じた。
〈女子寮に忍びこむ=変態〉沙織の頭の中ではそうなっていた。
そんな、どうでもいい話をしていると、ステファンが何かを持ってやって来た。
「アレクサンドル、サオリ様。そろそろいらっしゃる頃だと思っていました。オリヴァーの件ですよね?」
「「どうしてそれをっ!!」」
思わず同時に言ってしまった。
ステファンは、ドサッとテーブルに積み重なった服らしき物を置く。
「シモンズ領が、色々と大変な事になっている様ですね。少し前に……隣国レイジーナで水害が起こり、飢えに苦しんだ民が暴動を起こしたそうです。その暴徒の一部と、隣国の兵が国境門に流れていると報告が入りました」
「……暴動? 学生であるオリヴァーを呼び戻す程、大変なのですか? シモンズ辺境伯なら……そのくらい、対処出来るのでは?」
アレクサンドルの言葉に、ステファンは首を横に振った。
「それだけではなく――森に異変が起こり、魔物が溢れ出しているそうです。同時に対処するには、人手が足りなさ過ぎるのです。今、軍を向かわせるかどうかを、アーレンハイム公爵が、陛下や領に騎士を持つ貴族達、各機関に掛け合っています」
「……え!? 直ぐ助けに行けないのですか?」
「公爵は、そうしたいのですが……。自分達の領地から兵を出すのを、渋っている者もいるようです」
(何だそれっ! いつも、大変な役目をしてくれているオリヴァーの家を助けないなんてっ。貴族って……)
怒りでプルプルと拳が震えてくる。
「それなら、私が助けに行きます!! 絶対に、行くので止めても無駄です!」
アレクサンドルは目を見開き、ステファンはハァと溜息をついた。
「……でしょうね。サオリ様なら、そう来ると思ってました」
「「え?」」
沙織とアレクサンドルはポカンとする。
さっきの積み重なった服の上に、ステファンはポン!と、手を置き言った。
「これは、国から支給される耐久性に優れた軍服です。シモンズ領へ行かれるなら、こちらを着て行ってください。これを着ていれば、シモンズ領の者が国からの援護だと理解し、間違えて攻撃する事も無いでしょう」
「流石だわ、ステファン様! 早速、着替えて向かいます!」
「こちらに、三着用意してあります。一着はサオリ様の女性用。一着はサオリ様の護衛で、シュヴァリエに。もう一着は……アレクサンドルはどうしますか?」
「勿論、行きます。国の為も有りますが、オリヴァーは大切な友です」
アレクサンドルは、迷いなく軍服を受け取った。
このまま直ぐに向かえるように、学園や寮に居る従者や侍女――沙織達の帰りを待っているステラにも、ステファンが連絡をしてくれた。
「ねえ、ステファン様……」
「何でしょうか?」
「強化とかの魔法って、物にも付与って出来るのかしら?」
沙織は首を傾げながら質問した。
「かなりの魔力を使いますが……出来ますね。例えば、剣の強度を増すとか、速度を上げるとか……なぜですか?」
ステファンは嫌な予感がした。
「その軍服貸してください」と、男性用の二着を受け取ると、床に並べて両手をつく。
沙織は、目を閉じ集中する。魔力を流し出すと、軍服が一瞬光り輝き――元に戻った。
ステファンと、アレクサンドルは瞠目した。
「はい、出来上がりです!」
「……サオリ様。貴女はいったい、何をされたのでしょうか?」
「え? 結界コーティングと、重力操作機能?」
「「はいぃ――??」」
今度は、ステファンとアレクサンドルが同時に叫ぶ。
「えっと、着る結界って感じです。前から、魔力障壁に結界を組み合わせてみたくて。色々とイメージしてたのを、試してみました。空は飛べませんが、かかる重力が多少なりとも減ってくれたら、跳躍力が上がる筈です。逆に、重力が掛かれば打撃のパワーがあがるので、着る人がしたい方にイメージすれば良いのです」
「貴女と言う方は……、どれ程の魔力があるのですか。これは、もう服ではありませんよ?」
ステファンの顔が引き攣る。
「うーん、時間が有ればもっと凄いの考えたいのですけど、今回はこれで我慢してください」
「「もう、十分ですっ!」」
(……え? そうなの?)