テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「ただいまぁ~」
「あ、お兄ちゃんおかえり~」
今日は早めに帰るよーって連絡を受けていたので、ゲームにはログインせず。
会議と顔合わせが終わったら、真っすぐリアルに戻って来た。
……この表現は合っているのだろうか?
ちょっと分からないけど、パタパタとスリッパを鳴らしながら玄関までお出迎え。
兄の通勤鞄を受け取ってから。
「お仕事お疲れ様、お兄ちゃん。ご飯出来てるけど、先にお風呂の方が良い?」
もしもサッパリするのが先だと言うのなら、大黒柱様の望むままに~程度のつもりだったのだが。
何故か玄関で「クッ!」と瞼を押さえながら天を仰いだお兄ちゃん。
はて、何をしているんだろう。
思わず首を傾げてしまったのだが、やがて。
「俺、結婚してたっけ……」
「うんと? まだ独身……だね? え、あっ! もしかして、良い人出来たとか!? そ、そしたら私がココに居たら邪魔になっちゃうね……ど、どうしよ……」
それは困った、いや嬉しい事なんだけど。
けど兄に恋人が出来たり、奥さんになる人が来たら……私、出て行った方が良いよね?
そしたら、えっと……別のアパートへ、とか?
あれ? でも未成年だけでも貸してくれるのかな?
実家に戻るのは、ちょっと……とかなんとか、慌ててしまったのだが。
「いつまでも居て良いんだよ夢月。うん、問題ない。お前がここに居てくれるのなら、お兄ちゃん結婚とか別に興味無いから」
「いや、そこは興味持とうよ……お兄ちゃん格好良いんだから、勿体ないよ」
どうやら私が想像した内容とは違ったらしく、ものっ凄くニコニコした兄が私の頭を撫でて来た。
う、うーんと? やはり良く分からないけど、上機嫌になったのなら良かった。
「色々と相談と報告もあるし、何より夢月が作ってくれたご飯を後回しにする筈がない。まずはご飯にしよう、お前はもう食べたのか?」
「ううん、今日は早いって聞いたから、一緒に食べようと思って」
「……嫁か?」
「妹だよ?」
これまたよく分からない会話を挟んでから、兄と一緒に食卓へ。
何やらワクワクした感じで席に着く姿にちょっとだけ笑ってしまったが、とりあえず用意してあった晩御飯をテーブルの上に並べていくと。
「ぶりの照り焼き! しかもそこらの定食屋じゃ絶対出てこない程に豪華!」
「大袈裟だよ、お兄ちゃん。私の作れるのなんて、家で出来る物ばっかりだし。お店で食べた方がずっと美味しいでしょ?」
「何言ってるんだ夢月! 今度安い定食屋に連れて行って……いや、せっかくなら美味いもん食わせたいな。けど、これは凄く豪華なのは間違いない。野菜もいっぱいあるし、魚だって普通何枚も無いからな」
「安く売ってたから、学校帰りに買って来ただけだよ?」
一緒にご飯にすると未だに褒め殺しに合うので、ここだけは慣れなくて恥ずかしくなってしまうが。
でも実家では“出来て当たり前”、というか私ではまだまだ出来ない事ばかりだと言われ続けたのだ。
こうして何でも褒めてくれるのは、やっぱり嬉しくなってしまうもので。
此方としても、出来る事だけは気合いが入ってしまうというものだ。
ゲームに夢中になると、作り置きばっかりになってしまう事もあるので……そこだけは反省だが。
「いやホント……俺は良い妹を持ったよ。んじゃ早速、いただきます!」
「はい、召し上がれ~」
物凄い笑顔の兄を微笑ましく思いつつ、お茶とお酒を準備してから私も席へ。
小さく「いただきます」と声にしてから、食べ始めてみるのだが……まぁうん、いつも通り。
けどお兄ちゃんは、何を作っても美味しい美味しいと食べてくれるので、此方の頬も緩むというもので。
「あ、そうそう。9Kの方も多少進展があったんだが……まぁ後で良いか。今日直接顔合わせたんだろ? どうだった? 変な事されなかったか?」
「へ、変な事って……全然無かったよ? むしろ凄く馴染みやすい人だった。フォーさんとまた違うタイプで大人って言うか、凄く落ち着いた感じの人だったよ?」
「ならまぁ……良いんだけど。でも、気をつけるんだぞ? 夢月は女の子なんだから」
何やら少々悩ましい表情を浮かべる兄だったが、早くもお茶碗が空っぽになったらしく。
はい、とだけ言って此方から兄に向かって両掌を伸ばしてみると。
「ん、サンキュ。夢月の作るご飯はやっぱ旨いな、あっと言う間に食っちまうよ」
「だから大袈裟だってば、おかわり盛って来るね。出来立てだから美味しいんじゃない?」
とか何とか言いつつ、炊飯器の所へGO。
お仕事が終わった後のお兄ちゃんは結構食べるので、ご飯も山盛りに。
そして再びテーブルへ戻ってみれば、ニコニコしながらお礼を言ってくれる。
もう慣れて来ても良い頃合いの筈なんだけど……こういう何でもない事にお礼を言ってもらえるのは、やっぱり嬉しい。
などと思いつつ、再び二人で食事を続けていると。
「あ、そうそう! 今は賞金首とかどうでも良くてだな!」
「運営側なのに、その発言はよろしいのでしょうか……」
思わず呆れてしまったが、随分と嬉しそうな表情の兄は一旦食事の手を止め。
近くに置いてあった通勤鞄を漁り始めれば。
何やら書類……というか、検査結果みたいなモノが書かれている紙をテーブルに広げてみせた。
そこに書かれているのは。
「あー、うん? あぁ、健康診断! 社会人は毎年やるんだもんね、大変だぁ~」
「学生でも似たような事するだろうに……いや、そこじゃなくて、結果だよ結果。夢月のお陰で、今年は滅茶苦茶良いってさ。ホント、ありがとな。美味くて身体にも良いとか……マジで良い嫁だよ……」
ですから、私は妹です。
というかコレがあったから、今日は妙に機嫌が良かったのか。
でも良かった、お兄ちゃんが健康なのは私も嬉しいので。
なんて思って、「なら安心だねぇ~」とか返してみたのだが。
「あぁ……夢月が嫁に行くとか言い出したら、俺は多分号泣する……あと、一人になった瞬間この検査結果が真っ赤に染まる」
「その予定は全く無いけど……というか無理だけど。真っ赤、というのは?」
「ぜーんぶ悪い評価で、再検査か精密検査確定。ウチの部署、健康診断のデッドラインだから」
「健康診断にデッドラインとかあるんだ……」
なんか、凄く怖い事言ってるけど。
早乙女さんとか、大丈夫なのかな……。
あんまり酷い食生活なら、お兄ちゃんが許してくれるのならあの人の分まで一緒に作るけど……お世話になってるし。
◆
「現太~? 現太ー、おーい。今日は何かオツマミ無いのかー? 昨日みたいに、件の女の子から新しいオツマミレシピとか聞いたりしてないのー?」
昨日のアレが旨かったので、今日も何か作ってくれんかなぁって思って声を掛けてみたのだが。
部屋を覗いてみると、弟がベッドに突っ伏して死んでいた。
一瞬ゲーム中かとも思ったのだが、うつ伏せではやらんよな。
というのと、今日はVRゴーグルも放り出してあるし。
「……どした、なんか暗いけど」
「別に、何でもない……デス」
「いや、何でもない事は無いだろう。ご機嫌ナナメか?」
ちょっとだけ心配になって、勝手に部屋に入らせてもらい。
弟の頭をポスポスと叩いてみると。
「…………しばらく、一緒にゲーム出来ないかもって言われた」
「うん?」
なんか枕に顔を突っ伏したまま、弟が絶望した様な声を上げ始めたではないか。
あ、あぁ~これは……もしかして。
「白川さん、少しの間ログインを控えるって……やっぱこっちの友達と無理矢理会わせたのが不味かったのかも……俺、やっぱり余計な事しちゃったかも……」
ヤバイ、コレは色々と面倒臭い事になってしまった様だ。
というか、思春期、オイ思春期。
妄想力豊かなのは構わないが、少しの間好きな子がログインしないからって、そんなに落ち込むんじゃないよ。
ゲームなんてそんなもんだろうに、遊びなら余計に。
というのと……すまん、弟。
お兄ちゃんは、その子と一緒にしばらくゲームやる事になるわ。
主にチームでの練習、それが多分……本番まで続く。
コイツの話を聞いていたり、ゲーム内での雰囲気を見ていると忘れそうになるけど。
あの子、白川妹。
“シックス”なんだよなぁ……。
「べ、別にゲーム出来ない事くらいよくあるだろ!? ホラ、リアルが忙しいとかさ!」
「でも白川さん、普段から遊び行ったりしないって言ってたし。どこかのお店でアルバイトしてたりってのも、経験無いみたいだし……」
そりゃまぁあの対人能力だと、学生バイトらしい仕事は無理かもなぁ……俺も他人の事言えないけど、違う意味で。
不愛想なのは昔からだし、うん。
とはいえコレは、また勘違いが拗れに拗れてるな。
だぁぁもう、こんな事に悩むくらいなら初めから二人だけでゲームしてりゃ良かったのに。
なんて言ったところで、高校生じゃ友達からの誘いも無下には出来ないだろうしな。
こればっかりは、“経験の差”ってヤツになるんだろうが……。
ここまで落ち込んでいる弟に内緒で、白川妹の本アカと一緒にプレイする予定になっている此方としては、ものっ凄く気まずいんだが。
「そ、そこまで気にする事じゃねぇって、な? 学校で普通に雑談でもして、相手からその手の話題が出た時とかに“また一緒にやろう”って言ってやれば良いじゃんか。それまでは、ホラ。本当~に、忙しいだけかもしれんし」
「でも俺、学校ではあんまり白川さんと話してないっていうか……リアルでもグイグイ行ったら、あっちも困りそうで……」
うがぁぁ、もうっ! 面倒クセェ! 思春期!
ウジウジ言ってないでアピールすりゃ良いだろうが!
お前は白川妹と“ゲームがしたい”んじゃなくて、あの子と“一緒に居たい”だけだろうが!
なんて、ピュアボーイにドストレートに言い放つ訳にもいかず。
「と、とにかくアレだ。焦るな? 相手がしばらくやらないって言ったなら、そこには事情があるんだよ。気分的な問題だったり、現実的な問題だったり。そこを詮索しても、相手を困らせるだけだ。そこを無駄に突っついても、良い結果にはならん」
賞金首の仕事が忙しくて、サブキャラやってる時間がありませんとは言えんからな。
ここだけはセーフラインを作っておかないと、シックスの方がパニックになりそうだし。
「けどさぁ……」
「実際相手は、一緒にゲームしてた時は楽しそうにしてたんだろ? な? だったらまた、少し落ち着いてから声掛けて、それとな~く話題を出してみれば良いさ。それこそ、アレだ。ガンサバの次のイベントが“終わった後”とかに。向こうだって、復帰していきなりイベントじゃ戸惑うだろ?」
「まぁ、そうだけど。白川さん、あんまりイベント参加は乗り気じゃないみたいだし……」
でしょうね、だって俺等餌役だもん。
むしろガンサバは「ふざけんなよ?」って言いたくなる程の無茶を言って来るので、俺もハッキリ言うと乗り気じゃねぇわ。
無理だよ、普通、あんな条件。
前回のイベントで一回も死ななかった賞金首は、全員全国大会にでも出て賞金貰って来い。
俺だってヒーヒー言いながら、マジで運良く生き残っただけだわ。
というかシックスの後を追っかけて、向こうにヘイトが向かってるのを利用させてもらっただけだわ。
正面から一人で戦って生き残ってるプレイヤーとか、マジで化け物だよ。
「でも夜限定で忙しいとか、俺等の歳だったら何やってるんだろうって……危ないバイトとか、それこそ配信者とかじゃない限り……やっぱ“一緒にやりたくない”って事なんじゃ……だってお兄さんがあんなに厳しかったくらいだよ? 俺には他の理由とか思いつかなくて……」
ぐわぁぁぁぁ! 青少年の思考回路面倒くせぇぇぇ!
今時ネットでいくらでも仕事なんぞあるだろうが! むしろ家の事情とかだってあるかもしれんだろうが!
いやシックスの場合は思いっ切りゲームしてんだけどさぁぁ!?
「もう、アレだ! ゲームから切り離して考えろ! 相手は“夜”、忙しんだろ? だったら放課後誘え! ネットじゃなくて、リアルで遊んで来い!」
「俺が女の子をデートに誘うとか出来るとか思ってんの!?」
「誘えって言ってんだよ! 日が昇ってる内ならOKしてくれるかもしれんだろうが! 色っぽい雰囲気出すと恥ずかしいってんなら、デートだと思わせるな! お前も思うな! 相手はあんなガチガチのガンゲーに興味持った女の子だろうが! エアガンショップでも連れてってやれ! 多分興味あんだろ! 知らんけど!」
とか何とか、弟と叫び合ってしまったのであった。
いやもう、女は裏表あって当然ってのは理解してるけど。
シックスの場合は極端過ぎるんだよ……なんだアイツ。
裏では渋いおっさんの癖に、表では箱入りお嬢様か何かかよ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#魔界