この作品はいかがでしたか?
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「ナメんなカス」
ゴッと明らかに人間の体からなってはいけない音が空中に木霊する。
あの後、イザナさんが戦いに加勢したことによってさらに争いの状況は悪い方へと進んでいった。空気が濁った湿気を吸いこんだように重たい。
イザナさんの蹴りをモロに食らい続けたあの金髪の少年の体はもうボロボロ。周りの人たちもイザナさんの放つ威圧感に圧倒され、手を出すことは愚か、言葉を発することすら出来ずにいた。不穏な雰囲気がどんどん充満していく。そんな空気が張りつめた、息をするのも苦しいような重い静寂にただガッゴッ、と肉を殴る不快音だけが妙に大きく響く。
体が震える。普通は怖い、と感じるのだろう。
だけどイザナさんの狂気に染まった表情が、絵に書いたように綺麗な蹴りが、仕草全てが。
『…かっこいい』
「…マジ?」
私は随分とおかしくなってしまったらしい。
引き気味な半間さんの声を横目にそう実感する。
恐怖でゾクゾクと震える体はいつの間にか、好意に変わっていた。
「オレ…負けなかったっすよ……」
突然、それまで動きを止めなかった金髪の少年がピタリと力尽きた様に動きを止め、グッと片腕を宙に突き出した。一瞬にして空気が変わり、前髪がさやさやと風に揺れる。
「総長!」
ピンク寄りの淡い金髪の少年。黒い服に赤い襷。
「ありがとう。タケミっち。」
その少年の登場を喜ぶように吹き込む風が、彼の肩の辺りに垂れかかっている髪の毛を揺らすように動かしている。小柄なその体からはイザナさんと似たあの威圧感を感じた。
『…だれ?あの人…』
突然の新たな少年到来に困惑に似た息を零し、思わず言葉を飲み込んで凝視する。
周りのみんなも驚いたような、ホッとしたような、緊張したような、そんな色々な感情をかき集めたような複雑な眼差しで彼を見ていた。
「東京卍會総長、佐野万次郎。通称無敵のマイキー。」
すっげぇ強い奴、と少年─佐野さんの登場に驚いたように視線を縫い付けたまま半間さんはそう教えてくれた。
すごく強い人。どれほどの強さなのだろう。
しっかり目を見開いて食い入るように見つめる。
そんな私の耳にまたもやバイクの激しい排気音が届く。びくりと体を震わし、音の方へゆっくりと視線を向けると、彼らと同じ黒い服を身に纏っている長身の男性と、私と同じように私服を着ている獅子色の髪の少女がバイクにまたがっているのが見える。目元には泣き腫らして出来たであろう赤い腫れものがくっきりと浮かび上がっており、涙がうすく光っていた。
「楽しめよ、祭りだぜ!?」
佐野さんのその明るく力強い掛け声を合図に、それまで唖然としていた男の人たちの表情に活気が溢れていく。負傷した者同士で肩を貸し合い、立ち上がっていく。
「計画が狂っちまったなぁ?稀咲」
その様子をつもよりずっと黒く濁った紫色の目をめんどくさそうに細め見つめるイザナさん。フワリと柔らかい白髪を夜空に揺らし、“あの時”…私の首を絞めたときと同じ、あの虚ろな雰囲気を纏ったイザナさんの耳飾りがカランと場違いなほどに綺麗な音をたてる。
『…わ』
その瞬間、砂が煙のように舞うと同時に、ダンッと地面を蹴る音が耳を貫く。
─そこにはもう、イザナさんの姿はなかった。
「どうだ?空虚になった気分は?」
素早く佐野さんとの距離を詰めたイザナさんの蹴りの炸裂音と同時に、ズザァァァと砂を引きずるような音が耳を引っかく。今までの喧嘩とは違う、“本気の殺し合い”に呼吸を忘れていたかのように大きく息を吸う。あまりにも冷たい空気に喉につかえた。
「カタつけようぜ、兄貴」
顔を守るように組んだ腕のすき間から、佐野さんの鋭く、それでいて優しい眼差しがイザナさんを捉えた。兄を想う弟の眼差しが。
佐野万次郎VS黒川イザナ .開幕
続きます♡→1000
コメント
5件
え、え、待って、 これ死んじゃう。。。?😭😭