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車は高速に乗ったのか、徐々にスピードをあげて走っていく。
暫く目を閉じたままだった樹奈がふと目を開くと、サイドミラーからピッタリとくっついて来る車がいる事を知る。
「……恭輔さん……あの車……」
「ああ、尾けられてる。奴らは敵対してる組織の傘下連中なんだが、ある事から俺を追ってるらしい。まあ流石に今ここで何か仕掛けてくる事はねぇと思うが、万が一という事もあるから、横に付かれるのは危険だ。怖い思いさせて悪いが、もう少しスピード上げるぞ」
「……は、はい……」
話の流れからあまり良い状況では無い事が窺えた樹奈は、それと同時に、
(もしかして私、足でまといになってる?)
今ここに自分がいる事で恭輔が不利な状況に立たされているのでは無いかと気づいてしまった。
(どうしよう、何か、私に出来る事は……ない、よね……)
自分が足でまといだと気付いたところでどうする事も出来ず、ただただ申し訳ない気持ちになる。
暫くの間、付かず離れずの状態で走り続けた相手の車は、急にスピードを上げて恭輔たちの乗る車の助手席側にピッタリと横付けして来た。
「樹奈、なるべく頭を下げててくれ」
「は、はいっ」
顔が見えないよう、言われた通り懸命に頭を下げた樹奈の身体は、恐怖で震えていた。
恭輔は何度か車を撒こうとしたものの樹奈が乗っている事もあって無理は出来ず、適度な距離を保ち続けていたのだが、その状況に痺れを切らせた相手は横付けして来ると、車を止めようとしているのか、どんどん右に寄って来る。
「アイツら、ぶつける気か? 樹奈、顔を上げてどこかにしっかり掴まってろ」
「は、はい!」
相手の車が不審な動きをして来た事でぶつけられる事を想定した恭輔は樹奈にしっかり掴まるよう指示すると、助手席側にぶつかって来そうになった瞬間、どうにかそれを回避する事には成功したものの、後部座席のドアに相手の車が当たってしまう。
「きゃあ!!」
そこそこスピードが出ていた事で、擦った程度ではあるもののそれなりの衝撃だったせいか樹奈は驚き、悲鳴に近い叫び声を上げた。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
「とりあえず今はしっかり掴まってろ。もう少しで応援が来るはずだから、それまでの辛抱だ」
これ以上は危険だと判断した恭輔は今一度相手から逃れる為にスピードを上げた。
それから暫くカーチェイスのような状態が続いていると、後方からバイクの集団が近付いてきて、相手の車を囲むように陣取っていく。
(な、何? もしかして、あれも相手の仲間?)
何が何だか分からない樹奈が再び恐怖を感じていると、一台の大型バイクが恭輔たちの車に近付いて来る。
それを確認した恭輔は左車線に移り、運転席側の窓を開けた。
「お待たせしてすみません」
「それで、例のモノは?」
「『椿』の地下駐車場に用意してあります」
「そうか、分かった。後の事は頼む、槇」
「はい」
互いに少しスピードを落として走りながら、短く会話を交わした二人。
用が済むと、恭輔は再びスピードを上げてそのまま高速を降りて行く。
追ってきていた相手の車はバイクの集団に阻まれたままだった事もあって、恭輔たちの後を追っては来れず、何とか逃れる事が出来たのだった。
高速を降りても暫く車を走らせる恭輔に樹奈は何度か話し掛けようとしては、やっぱり黙っていようと口を噤んでしまう。
そんな彼女の挙動に気付いていた恭輔は険しい表情を緩めると、
「どうした? 言いたい事があるなら遠慮しなくていいから言ってみろ」
前を向いたまま、樹奈に問い掛けた。
「あ、いえ……その……さっきの人たちは、もう、追い掛けては来ないんでしょうか?」
「そうだな、槇たちがマークしてる間は問題無い。ただ、念には念を、カモフラージュの為に車を変える」
「車を?」
「ああ、今は乗り換える車を取りに向かってるんだ」
恭輔のその言葉と、先程バイクに乗っていた槇との会話の中に『例のモノ』『椿の地下駐車場』というフレーズが出ていた事を思い出した樹奈は納得する。
そして、それから二十分程で、ある街の高級住宅街へ入ると、『椿』と書いてある建物の前に辿り着いた。