こっちでは初めてかな。投稿期間大分
空きましたねぇ( ・∇・)。
……投稿するんで、許してください。
さて、tkrvにハマってはいましたが、最近
はですね。あの青監に沼りまして。
ですので、推しである0108君の右小説
という訳ですが。
……不完全燃焼やと思います。
オチは誰かが持っていきました
過去捏造注意。
___それはまだ幼少で、記憶があやふやな頃。
布みたいな白が若草色に隔てられた髪。
細いけれど睨む訳ではなく観察するような瞳。
すらりとした長い手足で施される繊細なプレイは俺の目を惹いた。
軽やかにリフティングをして、シュートをする姿はとても美しく…冷めきっていて、寂しそうだった……だから、話しかけた。
「おもろいプレイやん」
「……なに」
「おまえ、おれとサッカーせぇ」
「は?」
反抗的でこそあったが、そのセンスは確かに本物で初心者相手に俺が全力を出してしまう程没頭した。
楽しくて、面白くて。
お互いが笑顔になるほど。
「はぁ、おまえ、おもろいなぁ」
「…はぁ、はっ、べつに…」
「おれ、からすたびと。おまえは?」
「…えいた。よろしく、たびと」
「おう、よろしくな。えいた」
この時から俺達は友達になって、学校が終わってからすぐに公園に寄って”えいた”と遊ぶようになった。
えいたは毎日ボールを持ってブランコに座っていて何処か悲しそうな眼でゆらりと揺れていた。
「きたで」「たびと!…やろっか、サッカー」
所々汚れたその顔や服装など気にせず俺達はただひたすらにボールを蹴りあった。
時間はあっという間に過ぎていき気づけば夕暮れになるまで走り続けた。
1on1しかできる事がないのにそれを永久に続けられる程、お互いがお互いを面白くさせた。
「ふぅ…ほな、おれかえるな」
「そっか……またね、たびと」
一瞬、暗い顔をしたけれどすぐに首を振って笑顔を見せた。
「おう、またあした」「…うん」
次の日も、そのまた次の日も、俺達はサッカーを続けた。
しかし、えいたは何処か苦しそうになっていく日々だった。
休憩を挟む回数を増やし、時々おかしな呼吸をするようになった。
そして今日はとうとう地面に膝を着いて口元を抑える素振りを見せた。
「どうしたんや?えいた」
「……なんでもない。たびと、つづきしよ?」
「できるわけないやん。おれらともだちやろ?」
「…ともだち?」
蹲っていたえいたは胸元を抑えながら、酷く沈んだような顔からいつもの笑顔を見せた。
「………ごめん、たびと。ともだちって、なに?」
純粋に、ただわからないことを聞くかのようなキラキラした目はとても気の毒に思えた。
「まぁ、つまりはいっしょにあそんだりするやつってことやで」
「たびとみたいな?」
「せやな」
「…ともだちってなにすればいいの?」
「……は?」
ただ冷酷にそう言うえいたは出会った時のような、沈んだ、冷めて濁った目をしていた。
「…わかんない。おれ、たびととともだちになったの?」
コテンと首を傾げるえいたの仕草に苦笑いをしながら顔の泥を拭ってやる。
「…おん。おまえは、ずっとおれとともだちや」
「ともだち…ともだち……ふふ、おれ、たびととともだち!」
今までのなかで一番輝かしい笑顔を見せるえいたに、思わず面食らって一歩だけ後ずさる。クラスで可愛いと言われる女子よりも、丸みを帯びた頬に夕暮れの色で頬が付けられ余計に艶かしく見える。マリサ、すまんな。
それは何と言っても可愛いという分類に振り分けられる程であり烏の頭を煩悩で支配させた。
「ほな、つづきやろか」「うん」
「たてるか?」「へーき」
何事も無かったかのようにボールを蹴り始め先ほどよりも活発的なプレイが目立った。
俺はえいたの動きが読めるようになってきたし、えいたはコントロールが非常に効くようになっていた。
えいたは、天才になるかもしれなかった。
「おまえ、やっぱすごいな」
「そんなことない、たびとのほうがすごい。だって、おれのわるいところすぐおしえてくれるし、サッカーをたのしくしてくれてるのは、たびとだもん」
へへと笑うえいたに照れくさくなり、頭を掻くがえいたは欠伸を溢し、砂だらけ石だらけの地面で眠りこけようとしていた。
「おーい、えいた。ねんなよ?」
「んー、むり…ねむ、い。さいきん、ねてない………おなか、すいたし」
そういうえいたは、仰向けに転がり、ふるふると瞼を振るわせるとその長く細い目は閉じられた。
よく見ると瞼の下には濃い黒で染められた隈ができていた。
肩を揺らして起こそうとするがもう眠りについたらしく静かな寝息を立てていた。
流石に地面に友達を転がしっぱなしにはできないので立たせようと肩の下に腕を通して持ち上げる。
「……は?」
こいつは簡単に持ち上がってしまった。
普通、少しは苦労しながら持ち上げれるかいないかのどちらかだがこいつはそんな負荷すら考えられない程軽かった。
「…めしもくっとらんっていっとったな、えいた」
顎元を少し掻いてやれば少し声を零して嬉しそうに口元を引き上げる。
「ねこみたいやな」
頭を撫でてやって背中に背負いながらランドセルを引きずって家へと向かう。
途中重くて何回か休憩しようとしたけれどえいたは俺の背中に手を置いていたがその手を震わせていた。
時折ぐすりという音が聞こえて振り向こうとしたが、えいたは寝言なのかわからないが『にげ、ないと』と言うのだ。
何から逃げるかはわからないが怖がっているという印象を受けた俺は足を止めるわけにはいかなかった。
ようやく辿り着いた自宅に溜息をつきながら扉を足で蹴り開けた。
「ただいまー、ねえちゃーん。ちょっとてつだってくれへん?」
「どーしたんや?旅人。ってその子友達か?」
「せやねんけど、ちょ、ランドセルとって」
えいたをそのままに、靴を脱がせて俺の部屋のベッドに寝かせておいて、急遽家族会議が始まった。
「で?どうしたんや?あの子は」
「…おれの、ともだち。かわいそうやから、つれてきた」
「なんでなん?」
「だって!ねてないゆうて…!おなかすいたって………にげなあかんいうて」
容量の悪い説明やったとは思ってたけど、姉は俺の頭を撫でて普段見せないような顔で笑ってくれた。
「偉いなぁ、旅人。その子、お名前なんて言うん?」
「え、えいた…えいたゆうねん!むっちゃキックエロいねん!」
「ん?……あぁ、サッカーの方なんよな。びっくりしたわ…そんなら、ちゃんとえいた君と仲良くするんやで?」
「おん!わかっとる!あいつはおれのともだちやから!」
家族全員がえいたを受け入れてくれて、えいたもまた家族に慣れてきた。
姉ちゃんはえいたとよく話していて朝早くから夜遅くまで一緒にいるのが目立っている。
残念ながら、俺はその会話に混じったことがない。辛うじて聞けた会話は
「ーーどうなの?」
「ち、ちがっ…!おれはーーじゃ…!」
「えぇ?でもーーやとーーーやんか!」
「ちがう!」
……すごい楽しそうやな。
羨ましいな、姉ちゃん。
なんて思いながら学校から帰ってきたことを叫べばえいたは部屋から飛び出てくる。
えいたの事情は深くは聞いたことがないが、重いものだと把握した烏家は深入りしないことにした。
勉強とかは俺が偶に教えてやったりしてある程度の教養は仕込んだ。
途中で机で寝落ちしてたのを何回か叩き起こしたことがあるのは目を瞑っといてやる。
それでも、一緒にいるのは何処か楽しくて家族の一員みたいに過ごしてた。
飯も食って勉強したり、遊んだり、風呂も入ったり。
一人の弟ができた気分だった。
だから、気づかんかった。
えいたは時々不安そうな顔してサッカーしてることに。
金曜日の読書の時間。
学校の本で逃げてる姫とそれを偶々救う王子の物語があった。
それを何処となく俺とえいたと重ねた。
俺は王子なんかじゃないと思ってたけれども、姫はとてもえいたと同じ様な立場やと思った。
その物語の最後は恨みを持った魔女によって姫は変な怪物へと姿を変えられるっていうオチやった。
結局王子は姫を助けられへんくて一生探し続けるっていう終着点がない物語になった。
俺は怖くなった。
今までこんなこと、考えたことがなかったから。
えいたは俺とずっと過ごしてて何処から共なく別れることなんて無いって、ずっと一緒にサッカーしながらいつかプロになって優勝トロフィーを二人で持ち上げたいとか思ってたりはする。
そんなえいたがいなくなるなんて、寂しいことは。
ふと目の前にボールが飛んでくる。
慌てて足で受け止めるが少しよろける。
「どーした?たびと。なにかあった?」
「…なんも無い」
そのまま足元に蹴り返してやる。首を傾げて顎に指をトンと置いた。
「……ともだちだろ?」
リフティングを始めるえいたは話し続ける。
「なにかあったらたすける。おれもたびとにたすけてもらったから」
ボールを蹴り出すえいたに全力でシュートを返すとその勢いを殺す足取りでキャッチする。
「…ナイスシュート。いいね、こういうバチバチしたのも」
「ほんならもっと激しいのやったるわ」
右足を全力で振り上げてえいた目掛けてシュートを打つと、えいたは足首で器用にトラップする。
そしてえいたもそれを左足で強めのボールで返してくる。
「ええやん」
言葉を無くして全力で蹴りあったボールを何回かシュートを繰り返していると。
「どうしたの?おれじゃあたよりにならない?」
「ちゃう」
「ならなんでおれにははなしてくれないの?」
「…関係ないし」
「じゃあおれたちはいっしょにいないほうがいい?」
「そんなこと言うとらんやろ!」
「だって…たびととおれはさいきょうになるんだろ?」
それはいつしか俺が零した言葉だった。
『俺とえいたなら、最強のコンビになれる!
世界一のストライカーにだってなれるんや!』
『すと…?…わかんないけど、おれたちなら、つよいってこと?』
『せや!!』
『なら、なる。おれは、たびととするサッカーがすき。おれとたびとは、さいきょう?になる』
そんな、前のこと。
不確かな台詞を覚えていたのか?
「……そうか…せやな!」
俺は何うじうじ悩んでたんやろか。
前向きなえいたをほったらかしにして俺だけが下向いてたら嫌でも足引っ張られるわな。
「ならなるか!世界一に!」
「…うん。なろ、ふたりで」
左拳を合わせてグータッチする。
「ちょーアガるな」
「……世界一って一人しかなられへんかったっけそういや」
「あ、たしかに、いちじゃない」
「……俺は一位譲らん主義やからな」
「なにいってんの、おれもだよ。ぜったいゆずんない」
あの時と同じような夕暮れ。
俺達はリフティングをしながら道を歩いていた。
「ほい、っと。んまぁ世界一目指すんや。お互い頑張ろな」
「うん、あたりまえ」
すると強風が俺達の前で吹いた。
腕で顔を覆いながら風を過ぎ去るまで待っていると、首に冷たい何かが触れていた。
「……ねえ、ちゃん?」
えいたの声が掠れながら聞こえる。
目を開けてみると鉛色の物体…金属物が俺の喉仏の寸で止まっていた。
「は、?」
恐怖と焦り、何とも言い表せない感情が嫌な汗を染み出させる。
呼吸がままならなくて、何度もしゃくりあげるような息を吸う。
「影汰、何してたの?帰るよ。
……帰んないって言うなら…わかるよね?」
その台詞の後、金属の刃先が俺の喉元へと標準を定めた。
「っ…ねえちゃん!たびとは…!こいつは!」
「知ってる。一般人でしょ?本来私達の敵でも標的でもない…でもね?前々から言ってたでしょ?私達は本来、人に知られちゃ駄目だって」
「だから!いってない!たびとにもいったことない!」
目の前で広げられる姉弟喧嘩を見せつけられ、俺はある程度正気を取り戻してきた。
「え、いた…」
謎の緊迫感あふれる状況、えいたに嘘をつかれていたという絶望感は舌に鉛をかけていた。
「……わかった。かえる。おれの…いえに」
その台詞の後、えいたは俺の方に来て姉ちゃんと呼ぶ人の手を掴んだ。
「……かえろ、ねえちゃん」
そう呼ぶ声は酷く震えていて、どこか悲しそうな鳥の鳴き声みたいだった。
首元の金属は俺の元を離れ、腰元へと仕舞われた。
「…影汰、私も帰ったらどうなるかわからない。だから、後悔のないように…ね?」
「…うん」
息を目一杯吸うえいたは、俺の顔を一点として見つめていた。
「…お前、おらんく、なるんか?」
「……うん」
「二人で、ストライカーなろって話したばっかやん」
「…うん」
「………サッカー、やめるんか?」
「それは…わかんない」
口をどもらせるえいたに苛立って、舌打ちをしてから胸倉を掴み上げてやった。
「お前っ!そこは違うって!はっきりせぇや!!…俺との約束破んのやったら承知しやんぞ!!俺騙したことも、夢諦めんのもチャラでええわ!!そのかわりええか!えいた!!」
地面に足を付かせてやってから両肩を抑えて目元を見ながら叫ぶ。
「俺達二人で、最強なんやぞ!!!!」
顔元が涙でぐちゃぐちゃになりながら言う俺の姿が滑稽だったからかへにゃりと笑い、えいたは俺に抱きついてきた。
「うん!たびと、だいすき!!おれたち、さいきょー!!」
不器用な言葉使いに苦笑いをしたろか思ったけど、それより声色に対してぐすりと鼻を啜る音が聞こえた俺はえいたの背中をこれでもかって程強く、強く抱きしめた。
「…いやだよ、たびととはなれたくない……また、あえるかな」
「…会える。いや、会う。絶対や」
「いつか、たびとにおれとちがうやつがでてきたら、そいつとコンビになっちゃう?ふたりで、さいきょーになれない?」
「…俺は、お前を絶対に忘れへん」
「たびと、たびと。おれ、ずっと、ずーっと、おまえのこと、わすれないよ」
「……当然、やろ」
本当に、別れてしまう。
そんな事実が重く突き刺さるこころはボロボロと涙腺を脆くし、涙が阿呆みたいに流れてくる。
最近、泣いたことなかったのに。
人生史上初ちゃうかって、ぐらい、泣く。
「俺は絶対お前とプレイしたい…プレイだけやない、俺はお前とおって、楽しいんや…ワクワクする。だから、その…ほ、他の、男作んなよ」
最後に、俺の願望を伝えてやるとえいたは俺から離れ右手から丸みのある小指を差し出してきた。
「じゃあ、やくそく。たびともおれいがいとさいきょーにならないでね」
腫れた目元をお互い晒しながら小指を差し出し、歌無しで小指を上下に振り合う。
少し震えていた手を離すと自然にえいたは姉の方へと歩いて行く。
その背中は小さいながらにしてしっかりと拒絶が見えていた。
自分に出来ることができなくて悔しさで見ることしか選択肢がないと言う事実に唇を噛む。
えいたが姉の手と触れるとまた強風が吹いてきた。
その勢いの強さに目を瞑るとそこには何事も無かったかのように人のいた形も、何もなく、ボールだけが転がって、街灯に上から俺を見下ろしてくる烏に腹が立つ。
ただ、それ以上に胸の中に漂う喪失感と絶望は俺を容赦なく襲った。
「くっ、そっ!」
家にフラついた足取りで家路に帰ると、姉ちゃんが玄関まで迎えに来てくれてリビングの机に置き手紙があったと教えられた。
綺麗な習字で漢字が使われているその手紙を開くとえいたの家族から俺達一家に宛の手紙のようだった。
『烏家御一行様、この度は息子の影汰がお世話になりました。
どうか今回の出来事を御内密にお願いしたいのです。
我々一家は本来他人には知られてはならず日々隠れ潜みながら過ごしているのです。
ので、影汰の件はお忘れになってください。』
と、洗脳のように忘れろと言う内容に舌打ちをして俺は自室に戻る。
ベッドに篭れば何回も一緒に寝た気配と温かみを感じてそこに、影汰はいたのだと、信じてしまいたい。
「……影汰」
漢字はそう書くのかとかお前家族にどう思われてんのかとかどうでもいいような日常感ありふれた感想が掬いきれないほど沸く。
「…くっそ、出てくんなよ、涙」
止めどなく出てくる、緩み切った涙腺から流れ溢れる雫を拭っても拭ってもその分また出てきて、繰り返していた。
何年か経った後、大阪のユースチームにスカウトされ、興味惹かれるMF…じゃなかった。
FWは氷織羊と出会った。
彼も彼なりの事情があるらしく、サッカーが好きやないとか言ってシュートを他人任せにしてまう癖があった。
非凡やけど欲が無い…影汰と比べたら、凡や。
俺はあの日から凡か非凡かで人を見比べるようになった。
影汰は、俺の中で非凡だった。
あいつのようなプレイをする奴もちらほらいたけど影汰のような画期的な完璧と言える行動をとれるような奴は現れへんかった。
やはり、俺のコンビの相手は影汰しかいないのだと理解させられた。
「旅人、手紙きてるで」
「あ?手紙?」
そして、手紙というワードに少しイラつきながら姉から紙を奪い取るように授かった。
あの時の衝撃であるトラウマを未だに引きずっていたから。
「…強化指定選手、しかもJFUからか」
ピロン。
携帯の通知が鳴る。
「烏、お前招待きた?」「おん」
氷織からのメッセージに速攻で返事したら今準備してると返信が来た。
確かに、収集日は試合が混み合った二日後のことだ。
まともに準備できるのは今日の夜ぐらいやろうか。
「………お前とはここでなら」
手紙を握りしめて、汗まみれのジャージをすぐに脱ぎ捨てワックスが落ちた髪をかきあげてから昔に撮った影汰とのツーショットの写真立てを掴む。
「…会えるかもな」
笑い合った俺らは、もういない。握り込んだ写真を覆うフィルムに皺が寄った。
謎のマッシュ眼鏡の男が演説をしている最中、俺は影汰の存在を確認した。
白髪に若草のセンターカラーは一眼でわかるはずだ。
キョロキョロと見渡して観察してみるも暗転された室内で300と集められた人数を押し込んでいるため発見は難だろう。
「……烏、早よ行くで」
氷織に肩を引かれ、探すことを強制的に諦めさせられた俺は大人しくバスに連れ込まれた。
ガタガタと揺れる車体を肘置きにしながら流れ行く景色を片目に、うつらうつらと影汰の姿を思い出していた。
あの時の試合、もし影汰がおったら別のところにパス出せたのになとか今回の動きはどう出るべきだったかとか。
考えたらキリがない。
到着場所からボディスーツを渡され、部屋への移動を言い渡される。
氷織とは離れてしまったけれどまぁ大丈夫だろう。
チームVと書かれたスーツと謎の3桁の数字を睨んで部屋へと入る。
自動ドアを開けた先にはゴツい奴もおればガリガリとした体型の奴もおる。
意外とジャンルバラバラなメンバーやな。
「…は、」
手元のビニール袋を落としてしまった。
だが、目の前の部屋の隅に、いたのだ。
急いでそこにいたやつの元に駆け込んだ。
「お前…影汰か?」
「え、こわ……名前はそうだけど……誰?」
緊張など全て捨てて話しかけ、両肩を掴むとあの時とは何トーンか下がった綺麗な声が返ってきた。
「…烏、旅人や。覚えないか?」
「………ごめん、誰?まじで覚えてない」
申し訳なさそうに眉を下げ、そう告げる影汰は俺の心を抉った。
なんやこいつ、約束守らせといて自分だけそそくさ忘れとんのか。
「…なら、…覚えとけ。俺は烏旅人や」
「ん、りょーかい。
俺、乙夜影汰。よろしくー」
乙夜か。そんな苗字やったんやな、お前。
入り口に落としたスーツを回収して、それに袖を通す。
再び影汰に話しかけようとすると奥に掲げられているモニターに男が映る。
しかし蓋を開けてみればどうであろう。
敗北すれば日本代表としてのチーム入りの権利を失うやら鬼ごっこをしろなどと訳のわからないことを言い出すと天井からボールが降ってきた。
ハンドが禁止であるということと、最後まで鬼だと即刻退場であることを伝えると画面には全く知らない奴が鬼と表示され残り時間であろう二分十数秒の数値がどんどん減っていく。
摩訶不思議な状況に動揺を見せながらも、鬼である本人はボールを踏みしめながらドリブルで密集した所へ突っ込み蹴り出す。
間抜けな軌道だが衝突したらしい奴は驚きと焦りで駆けて行く。
「しょうもな」
こんなん冷静に見てみればボール持ってる奴が一番有利やのになんでそんなにも焦る必要があるんやろうか。
隣で座ったままの影汰を見ると眠いらしいのか首を何度も揺らし、その目は何年か前のように濁りきっていたがその瞳は瞼によって隠された。
おいおいこいつマジか。
何人生賭けたとこで眠りこけようとしとんねん!
すると突然後方からスピンのかかったボールが飛んで来た。
やばいと思って影汰の後頭部を持って床に共に倒れ込む。
何本か髪の毛ちぎったけど脱落されるよりマシであるため勘弁してほしい。
ボールは壁に当たって反射し、元の持ち主のところへ戻って行った。
「あっぶな…大丈夫か?」
「…痛い……なんで俺を助けんの?お前も当たりそうだったんじゃないの?」
「それは…」
なんで助けるか。
そんなこと言われても、理由はいつでもおんなじなんやけどな。
「お前とは、いい仲になれそうやからや」
少しぼかした言い方になったが昔との接触を晒した台詞に影汰ほ目を丸めながらふはっと小さく笑った。
「なにそれ、アガる」
足を畳み始めた影汰は素早い動きを見せ、俺の肩を掴み飛び上がる。
そして正面に来ていたボールを幼少と変わらないフォームでトラップした。
「だったら、脱落しないで」
残り時間は十秒と少し。
鬼へと役を変えた影汰はバラついた単独行動者を狙い鋭いシュートを見舞うが相手も中々動体視力が良いらしく寸のところで回避していた。
「やっば…」
当の本人は脱落の可能性が出てきて少々焦っているようだ。
すかさず周りを見渡し当てやすい奴を捜すがやはり厳選されたFWの集まりの一部だ全く隙が無い。残り一単位の秒数になり、これで完全にボール持ちは警戒された。
「手貸したろか?え…乙夜」
名前呼びは流石に記憶ないから気持ち悪いやろ。苗字で呼ぶ。
影汰への助力に他の奴らは驚いているらしいが、俺は他の奴が脱落しても構わないが、こいつが脱落するのはまっぴらごめんや。
「…マジ?心強いよ正直」
ヒールパスをかます影汰のパスに協調し、フェイントかけながら集団の方めがけてシュートを打つ。
それは壁に当たり、跳ね返る。
残り、三秒。
流れ落ちるルーズボールを、こぼれ落ちるチャンスを、影汰は絶対見逃せへん。
「ナイボ、烏」 「行けや、乙夜」
強烈なシュートは棒立ちしていた人間に衝突して、鬼ごっこ終了のブザーが鳴る。
画面を見ると俺と影汰でもない奴が最終の鬼となっていた。
「…ほんま、ヒヤヒヤするわ」
お前とおると、偶にエグい程肝が冷える。
こんなに冷えるのはあの時ぶりやな。
「……ありがと、烏」
汗を拭う影汰は俺へと手を伸ばしていた。
「別に構へん、お前とプレイしたかっただけや」
その手を思いっきり叩いてやると影汰は静かに笑った。
鬼だった奴は何故自分が脱落しなあかんのかとか俺と影汰が協力するのは卑怯やとか喚き散らかす。
正直な感想言うと全部言い訳にしかならん。
「協力すんのは勝手やったんやろ。
あっちの運営側も。
でも、それなりのリスクもあるしそもそも初対面の奴助ける義理もほんまは無いずや。
協力っちゅうカードを切るには裏切られる可能性を持ってもいい奴か自分がそれなりの実力があると自信を持ってる奴の最終手段ちゃうか?」
「そんなの運ゲーじゃねぇか!」
俺の解説に納得がいかんのか、まだ反抗するそいつに影汰は、目を閉じながら
「…それにこの部屋、何となくあのスペースと似てるよね。広さが」
と言う。
珍しく頭が冴えているらしく口角が上がってしまう。
「ほら、えっと…そうそう。
ペナルティエリア」
閃いたとでも言うように明るく言う影汰の一言に皆が部屋を見渡す。
そうだ。
この部屋はP.Aと同じ構造となっている。
分析した時も気付いたが影汰も気付くとは思わなかった。
「だから、ここでシュートできない奴はストライカーじゃないってことでしょ」
「お前…!こいつがいなきゃシュートできてなかった癖に言われても納得できないだろ!!」
影汰を責めるかのような台詞に頭の血管ちぎれそうになったけどモニターから絵心が出現し、このゲームの説明と部屋の説明をするなりLockOffと言い去った。
奴は渋々出て行き残った俺らは生き残りのチームメイトとしていくようにとの伝言だ。
どうやら試合もしていくらしくポイント戦であると、そして、敗北を続けると最も多く点をとった奴以外は強制的に退場だと。
つまり、負けた場合は一人しか生き残れない。
その逆で勝ち続ければ上位二チームは全員次の選考に参加できる。
ふと思考の先には、影汰がいた。
勝ちを取るなら俺にとっては影汰が必要だ。
これは、約束を果たすためだけやない。
俺の、エゴや。
後にトレーニングルームに全員で基礎身体能力を測る作業へと移った。
俺は突飛した才能は分析業やから特にこれといった異常な能力は出なかった。
影汰も、結局は俊敏性やから特に目立つような所はなかった。
シャワーを浴びようだとか風呂に入ろうと言う声をスルーし、影汰に話しかけようとすると。
「烏、お前本当に俺と知り合いなの?」
痛いところを突かれた。
あれは時限式だったからまだ誤魔化しが効いたが、今回はそうといかない。
真実を言うべきなのか、嘘をつくべきなのか。
「…お前は、俺が親友や言うたら信じるんか?」
「んー……でもね…烏といると、なんか懐かしい感じする」
手元から水の入ったらボトルを落としてしまって、影汰の目を見つめてしまう。
「あ、ボトルが…烏?」
俺だけなんか?なんかもう、アホらしくなってきた。
覚えても無い約束を自分だけ律儀に守っているのがアホみたいに思えてくる。
こいつが、なんで覚えてない?
離れていったのも、約束したのも、全て、こいつが、影汰が……乙夜が。
俺はもう耐えるのも面倒になっていた。
なんや、俺は結局、こいつと会いたかっただけなんか。
なにが俺を忘れへんやねん忘れとるやないか。
チームのメンバーとも粗方話せるようになった頃試合の総当たり戦も近づいてくる。
個人的に融通の効く相手と共に練習をするものなのかグループですることも多く、個人練をする時間帯は深夜となっていた。
「…なんでおんねん、乙夜」「ちゅーす」
目が飛び出る程の案件に近いこと間違いなしな事件だ。
乙夜が一人で練習をするなんて。
あの時であっても先走ってプレイすることは無かったと言うのに。
単純に離れてる間に一人でプレイすることに慣れただけなんやろうけど。
「する?1on1」
俺が持っていたボールを壁へ放り投げて乙夜が持っていたであろうもので合図も無く勝負が始まる。
先行でフェイントをかけてみるがそれをモロともせずに冷静にボールにだけ集中しているらしい。
そんな乙夜の股を正確に抜いてやる。
呆気に取られたらしく慌てた様子で後ろから追いかけてくるが時既に遅し。
ゴールキーパーのいない的にシュートは簡単に入り込む。
肩を叩かれ、ネットに引っかかったボールを取り、もう一回と言わんばかりに無言で元の位置へ戻って行く。
負けず嫌いな所も相変わらずか。
乙夜が先行でいきなりバックへと引き返させる。
そっからのライトルーレットして俺を無理矢理抜きよった。しかもそのスピードは異様や。
まぁでもそうやろうな、確かにお前も俺もあの時より歳もとったし経験の差もついてる。
お前がどんだけサッカーしたか知らんけど、お前も、成長しとるんやな、乙夜。
こいつ、クイックネスだけやなくて、アジリティも鍛えてきとる。
俊敏と敏捷。
こいつの素早い動きと柔軟な動きは昔より磨きがかかっとる。
なんなら昔は俊敏性しか目立ったの無かったから更に厄介な能力つけてきとるやないか。
これは負けたくないな。一回振り切ってもゴールまで距離はある。
でも勝負仕掛けられるのはこれがラストや。
カットしようと右足を伸ばす。
あと数センチで届くっちゅう所で、乙夜はドリブルする足を止めた。
そのアクションで標準は明らかにズレた。俺が滑り込んで体勢崩し、地面へと向かった瞬間にシュートは放たれる。
ネットを揺らして地面にはボールが転がる。
あとほんの少しやった。
しょうもないことで湧き立つ悔しさを拳で膝にぶつけながら立つ。
「惜しかった。でも今のマジで焦った」
「うるさいねん、もう一回や」
「火着いてきた?バチバチは好きだよ」
その台詞に昔の影汰が重なる。
『ナイスシュート。いいね、こういうバチバチしたのも』
幼い影汰と今の乙夜を重ね、もう、違うのだと諭されているような気がした。
「……あぁ、即行で終わらしたるわ」
もうあの時とは年も思考も何もかも違うのだ。
結局引き分けで勝負が着いたものの俺達の身体は疲れ切っていた。
ものの数十分後には試合が始まってしまうにも関わらず餓鬼みたいにはしゃいで無駄にオーバーヒートしてもうた。
周りからみたらほんまただの阿保やで。
「…し、死ぬ……マジ疲れた」
「はっ、ほんまお前…負けず嫌いやな」
「うるさい…烏もめっちゃ手使ってたじゃん。
マジになってんじゃねぇよ。
試合でもないのに」
ハンドワークか、確かに小さい頃はただ純粋にボールを蹴ることしか頭に無かったからそんな戦術すら思いつかんかったけど今は勝つためのサッカーをしなあかん。
そのために覚えたのはハンドワーク。
ある程度の距離感を保てて尚且つディフェンスもできる一石二鳥な戦法は俺の強さを劇的に変えた。
元々は乙夜の…影汰の考えやってんけども。
「試合、始まるね」「…せやな」
壁に掛かっているモニターには残り三十分で試合が始まるとのことだ。
体を温めるの域を超えたトレーニングに苦笑いをするが起き上がって使用していた用具を片付けようとするが乙夜は地面に転がったままであった。
「おい、寝んなよ?乙夜」
「んー無理。眠い…、最近寝てなくてさ」
瞼を降ろしながら右手を顔の上に置き、整った呼吸音を発生させる乙夜を見やる。
「……ほんまに、なんで覚えてないんや。
なぁ、影汰」
肌に張り付いた髪を掻き分け、汗ともう一つの液体で顔面を濡らされたが不思議と腹は立たなかった。
総当たり戦、第一回目を俺と乙夜のコンビで勝利をもぎ取った。
最初はごった返しになったプレイが目立っていたが乙夜の気の利いたシャドウプレイでルーズボールを拾い、俺との連携で一点をあげた。
その事がきっかけで、チームメイト達は俺と乙夜にパスをするようになった。
敵達が結託した頃にはもう点差がついていて取り返しのつかない状況であった。
初戦から俺達のコンビネーションを見せつけたため主戦力として重視されポジションも俺と乙夜のツートップで貫かれた。
このチームは全戦全勝を重ね、一次選考を突破した。
「ひゅー、さっきのシュートカッコよかったね」
乙夜は両腕を伸ばしながら先程スーパーシュートを披露した糸師凛のことを評価していた。
「んじゃあ俺も行くかな」
とチームメイトや俺を置き去りにして扉を潜る乙夜を誰も止められずあいつは先走って行ってしまった。
二次選考。
1stステージは己の課題を限られた時間内に実行するというものであった。
それは自分の苦手分野を強制的に修正、改善するもので俺も得意分野であるハンドワークを封じられ非常に点を決めにくい状況であった。
だが俺も世界一を目指す人間だ。
何とか制限時間内に終わらせ、次のステップへと進む。
そこには大量の人間がおり、ちらほら対戦相手も混ざっていた。
不思議な光景だがモニターを見ると三人で一チームを作れとのこと。
三人…俺と乙夜ともう一人をどうしようか。
いや、そもそも乙夜はいるんか?
もう先に行ってしもうとるんちゃうか。
あいつのことや、俺と別れて他の奴とかと組む可能性は十分ある。
俺も割と遅い方にクリアした人間やから。
「かーらーす、遅いよ?」
キョロキョロと見回していた俺の背後から乙夜の声が聞こえ、思わず勢いよく振り向く。
「おっ、まっ!」
「びっくりした?でも遅いんだもん」
「……はようクリアした割には、大分と売れ残ってたんやな」
驚かしてきた代わりに皮肉を返してやると乙夜はちぇと口を尖らせて横を向く。
「……待ってたって言ったら、どうする?」
少し赤くなった耳が目に入り口角を上げる俺は腕を肩に回し、お利口さんと褒めてやった。
「…で、あと一人どうしよ……俺的にはあの有名人かな」
指を向けた先は一人の眼鏡をかけた一見好印象は人間が立っていた。
「…誰や?」
俺の記憶には全く無く、有名なプレイヤーではないのだろうが乙夜の記憶に残っているということは何かしらの関係があるのだろうか。
「あの人、モデルだよ?知らない?雪宮剣優っていう人」
いやモデルかいな!!わかるかんなもん!!!誰が男のモデルに興味あんねん!!!
「…はぁ、組みたいんか?あいつと…っておい乙夜!」
「ちゅーす、アンタ雪宮剣優だよね」
「ん?知ってるの?俺のこと」
「うん、雑誌で何回か見たことあるから。ずっと誰とも組んで無いでしょ?俺達と組まない?」
駆け寄られる雪宮という男は考える素振りを見せるなりいいよと返信一つで承諾した。
「これでチーム作れたね。烏、勧誘成功」
グッドサインを見せる乙夜の頭をしばきながらよろしくと名前だけ伝えてさっさと奥の部屋に進むことにした。
ここからは強奪戦となるらしく、三vs三をして相手チームから一人を指名し仲間に加えてから次のステージの四vs四からまた一人を選ぶ勝ち上がり式の選考であった。
取り敢えず俺と乙夜の動き、コンビネーションは完璧に近いがこの雪宮という男のことは全くの未知であるため、今日は情報交換や共同練習といった連携の確認と戦術の共有をメインとした充実な一日となった。
あの男、かなり温厚な容姿だがプレイや行動もかなりのエゴイストで1on1での自称日本最強戦法や強力なジャイロシュートと言った武器が目立ったり風呂に入る時は基本単独行動をし、いち早くベッドを静かに強奪する中々のモノだ。
ベッドを取られたのは俺達も悔しいが早い者勝ちと笑う雪宮にぐうの音も出なかった。
相対して俺達は風呂と晩飯を共に各々のペースで行う。
最後に二段ベッドの論争になると思ったが乙夜は下でいいと言い張るので遠慮なく上で寝返りを打ちながら戦略やこれからの手順を頭に構図を並べる。
各々の寝息が響く暗室でずずっと鼻を啜る音が聞こえた。
その音に俺の身体は阿保みたいに飛び跳ね、思わず周りを見渡す。
心臓がバクバクと鼓動を早めるがまたもやその音は部屋に響く。
階段をゆっくりと下り、雪宮を確認するが何の変哲もない顔が暗く見えるだけであった。
乙夜の方を見てやると、背中をこちらに向け布団を抱きしめながら時折震えていた。
こんなことは共同で就寝していた頃には無かったので顔を見てやろうと手を伸ばす。
「たびと」
その一言に浮いていた手は動揺し動きを止める。
脳内は文字通り真っ白になり視界も何も写さない。
しかしそれは一瞬の出来事で。
頭が思考の処理を停止する理由にはならなかった。
息を止めて慌ててベッドの上へと避難する。
騒ぐ心臓を黙らせて眠りにつこうと羊を数えて眠りについた。
三次選考。
適正試験というトライアウトは、ツートップに対してどう共存するかを確かめられるものでありu20で戦うメンバーを篩にかけるといったところだろうか。
選出されたメンバーのうち三人が同チームにいたことがかなり驚いた。
「おっ、ユッキー五位じゃん。俺より下〜」
「すぐに追い越す。乙夜は下ばっかり見ない方がいいよ」
「言うね。俺も烏蹴落としてさっさと一位になりたいな」
「そんな簡単に行かすか」
部屋を出るなり雑談を始めた俺達に対して他三人の視線が刺さる。
主にトップ層の所からのような気がするが。
「でもユッキーと離れるのか…寂しくなっちゃうな」
「大丈夫。その内戦えるから」
「……楽しみにしてる」
ハイタッチを交わす二人に胃がヒリつく。
乙夜の首元を掴み、俺達の部屋へと戻る。
先に帰ろうとも部屋は同じなのだが、乙夜と話すことに意味がある。
風呂もあがり、明日から始まる試験に胸を高鳴る瞬間を味わいたいが俺はそれよりも重大な案件が一つ気がかりになっていた。
「……乙夜」
「ん?どーした烏」
ベッドに大の字に広がる乙夜は声だけの返答をする。
「お前、忍者の末裔ってホンマなんか?」
いつか、乙夜が自己紹介した際に聞こえた台詞に忍者と末裔というワードが聞こえたため、ダメ元で確認してみようとしたが案外簡単に受け入れられたようだ。
「……忍者?うん。そーだよ。
いいよね〜こういうのあると女の子にいい印象付けれそうで結構話とか盛り上がるんだよ?」
「そーか」
「それでね、女の子達が聞いてくるの。
なんかできるの〜?って、まぁ血族はそうでも使えるかなんて言われたらそんなん無理に決まってんのにね。
偶にサガってその子は好きになれないんだけど」
「…乙夜?」
話のテンポがあがり、早口になっている乙夜を覗き込むと両腕で顔を覆っていた。
「皆、俺の忍者っていうところすごいとか言ってくれるけど、認められるのも今のレベルまで到達すんのも結構大変でさ、昔は良く訓練場から逃げ出してて、でも姉ちゃんとか妹によく引き摺られて家に強制送還だったし、俺…何気に落ちこぼれだったから、よく親に怒られてて」
「乙夜、もうええ」
ベッドから降り、口を左手で塞いでやる。
顔が小さくて簡単に端から端まで手で覆えるサイズであった。
地雷を踏んでしまったような気はしていたがここまで重症だとは想わなかった。
目元は乙夜自らが塞いでいるためよく見えないが昔のようなあの濁った瞳を隠しているのだろう。
あの時、捉え方を間違えてしまったが今ならよく理解できる。
あれは寂しいとか悲しいとかいう生易しい感性のものではない。
絶望や挫折と言った、人生の折り目の付け方を乙夜なりに考えていたのだろう。
そこから何故サッカーに辿り着いたのかはわからない。
が、今はいいだろう。
「……俺は、忍者やなくても、優れてなくても、乙夜は乙夜やと想っとる。
これからも頼むで、相棒」
乙夜は影汰で、影汰は乙夜。
昔と今で時は過ぎて歳が変わり容姿も少しずつ大人帯びる頃であろうとも、中身は全く変わっていない。
逃げ出したと言った時、思わず心臓がどきりと跳ねた。
恐らくその日に俺と出会っているはずであったのに記憶違いが起こっているらしい。
「…烏、俺、ちょっと元気出てきた。
やっぱお前といると落ち着くなぁ。
本当……親友だったら良かったのに…」
「………そうか」
コメント
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なんでもっと早く出会わなかったんだこんな神様に……。 実際、こうやって烏と乙夜が会ってたら泣く自信しかない。てか泣く。 前半切なかったけど、後半は 温かみのある話でした。 烏の関西弁と優しさのある言葉 まじ聞いてる乙夜泣いてるんじゃ?
ありがとうございます(泣泣)
めっっっっっっっっっちゃ好きです(泣)