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「ふうぅぅー!」
コユキが一息ついた、そのタイミングで、幸福夫妻専用テーブルの中央、全ての料理の王様的に鎮座していたミートパイの中央が盛り上がって爆ぜた、のである。
全身、とは言っても、僅(わず)か十数センチの小さい体を肉塗(まみ)れにして、ギトギトした油に濡らしたちっちゃい奴が大きな声、片言で告げたのであった。
「キ、キタヨッ! シェ、シェムハザ、ダアァーッ! ミハリ、ノ、テンシ、キタヨォッ!」
答えたのは善悪和尚だ。
「シェ、シェムハザって観察者のぉ? オルクス君! ヤバイでござるか?」
オルクスに代わって答えたのは、専用テーブルの端に置かれた、シーザーサラダから頭を覗かせたモラクスである。
「はいっ! 彼の堕天使どもは百九十三柱…… 揃って兄者オルクスや私と同様、グリゴリを冠する強大な存在でございますぅっ!」
「ヤ、ヤバイッ! ゾッ! シェムハザ、ダケジャナイ…… コカビエル、アラキバ、サンダルフォン、ソレト、メタトロン…… ソロッテキタヨッ! ドウスル? チ、チカイヨッ! サンセンチ、オウコクノツルギィ?」
善悪が慌てながらも冷静沈着な感じでコユキに問う。
「なるほど、オルクス君やモラクス君と同じく『グリゴリ』を冠する、見張りの天使が顕現したのでござるな! 百九十三柱、全グリゴリって言うと、結構ピンチでござるよ? どうするのでござるぅっ、こ、コユキ殿ぉっ!」
コユキはいつもと変わらないゆったりとした風情で言う。
「どうするも何も行って説得してさっ、仲間にするしかないでしょう? 結城さん、子供達を頼むわね、ちょっと行ってくるわん! ほらほら皆っ! 戦える者はアタシに続くのよぉおぅ! さあ善悪ぅ、出陣よぉ!」
「ござるっ!」
『応っ!』
六十人程居た招待客の殆(ほとん)どが返事を返し、お洒落なドレスやスーツを脱ぎ去ったのである。
コユキ自身も黒留袖の帯を解くと、窮屈だった着物を脱ぎ去り、あの毛糸製のピンクのビキニ、いいや、勝負下着に身を包んで周囲で覚悟を決めた面々に言ったのである。
「んじゃあ、行くわよ! 生を惜しむな名をこそ惜しめぇ! 突撃ぃぃぃ! よぉぅっ!」
子供達を託された以上、留まるしかない…… 少し悔しそうに仲間達を見送る結城昭の前を、次々と通り過ぎて戦場へと向かう仲間達……
その先頭には彼が愛する妻、悠亜と、尊敬するハッピーグッドイーブルたる善悪和尚、同い年ながら兄貴分的でクレバーな光影が、ユニフォームのように揃った、コユキお手製のピンクビキニのニット上下に身を包み、店外の路上に踊りだして行く姿が映ったのであった。
男性もトップスを隠さないと男女差別だわ! そんなコユキの提言を入れたビキニ集団が今、花の都に躍り出た瞬間である。
『おまわりさんが来たらどうしよう』、そんな気持ちで仲間たちの出陣を見送る結城昭の胃腸は、キリキリと痛み始めて来るのであった。