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※嘔吐表現あり。
仁人「僕と友達になって欲しい。」
勇斗「…え?」
正直、浮いている仁人と真反対にクラスの中心である勇斗には、
あれ…友達じゃなかったの…?
という考えしか無い。
対に仁人は、
まだ少し喋っただけだけど友達になれるかな。
と思っている筈。
勇斗「いや…良いけど…。聞く必要あった?」
仁人「え…本当?…じゃあ、もう一つお願い聞いて欲しい。」
勇斗「あぁ、別に良いよ。」
仁人は少しハッとした表情のまま、息を呑んだ。
それ程大事なのか、それとも単に緊張するのか。
仁人「…明日、暇だったら…あ、遊ばない?」
勇斗「え?」
あまり栄えない街の駅、勇斗は走って急いだ。
朝に急いで整えた髪の毛、昨日から用意していた黒のTシャツにジーンズ、おまけ程度に着けた家にあったネックレス。
不潔感やスカしている感じを出さないよう、ラフに考えた勇斗なりのコーデ。
カバンも無駄に大きいショルダーバッグ。
その中にはスマホや財布、その他諸々。
駅の中で午前10時に待ち合わせ…のはずが今は10時10分。
夢を見ず、目覚めが遅くなったよう。
勇斗「はぁっ、じっ、仁人君っ、遅れた〜!」
仁人「…大丈夫だよ。」
勇斗「えっ!ちょっと待ってよ…お揃いみたいじゃん…。」
仁人「…あ。ほんとだ。」
仁人も落ち着いた雰囲気で、黒のポロシャツに勇斗と同じようなジーンズ。
全体的にスッキリ見えて好印象。
仁人「…そういえば、昨日は夢見なかったでしょ。」
勇斗「え?なんで分かったの?」
仁人「僕…昨日楽しみで仕方なくて。…佐野君とまたすぐに会えるから、夢で呼ばなかった。」
勇斗「えっと…どういう事?」
さっぱり何を言っているのか分からず、きょとんとした顔で仁人を見つめる。
でも、それ以上に引っかかるのは「楽しみで仕方なくて」、「佐野君とまたすぐに会えるから」という言葉。
もしかして…両思い!?
などのシチュエーションを想像させるような言葉。
正直…めっちゃ嬉しい。
仁人「…まあ良いよ。じゃあ、行こっか。」
勇斗「あ、うん。」
電車に乗って50分程、そこそこ栄えている街へと移った。
人通りも多く、木々も人工の物が殆ど。
ビルもちょこちょこ建ち始めており、住民は浮かれ気分。
この街には一つ、大きなデパートがある。
勇斗もたまに友達と来て遊んでいたので親しみのあるデパートになる。
「次は〜…駅〜…駅〜。」
ウィーン。
勇斗「…ふぅ。仁人君、ここ来た事ある?」
仁人「いや…正直あんまり。」
勇斗「じゃあ俺が案内したげる!」
電車の車両からゾロゾロと人が出てき、人で詰まる中で勇斗は仁人の腕を引っ張ってデパートへと行く道を辿って行った。
たまに仁人に気を遣いながら人を掻き分け、商店街も通り、工事現場も通り…。
勇斗にはもう仁人の声しか聞こえない。
勇斗「もうちょいで着く…!」
仁人「ねっ、あの…佐野君、これどこ行くの?」
勇斗「まあまあ。」
少々仁人を困らせながらも無事デパートに着く事が出来た。
このデパートは意外と古くはなく、新しいかと言えばそうである。
それに加え、他店と比べても大きいので勇斗的に良いかなと思ったらしい。
仁人「あ、こんな所に出来てたんだ。」
勇斗「…きょ、今日は仁人君になんか買ってあげる!なんでも…良いよ!」
普通友達にも舜太にもそんな事は無論言わない。
今日遊んでいる相手は仁人。張り切らない訳が無い。
仁人「えっ…ほんと?」
勇斗「あぁ…まあね!」
「ありがとうございました〜。」
仁人「…あ、ありがとう。」
仁人が買ったのはただのイルカのキーホルダー。
デパートなだけでなんでイルカなのかは分からないが、どうしてもお揃いにしたいと頼み、勇斗も同じ物を買った。
勇斗「ふぁーっ。なんか疲れたね…もう5時半か。」
仁人「そうだね。今日はありがとう。」
勇斗「いや良いんだよ。別に。」
デパート、商店街、カフェ、色んな所を巡ってから、駅へ向かう途中。
いつも見ている質素な景色よりも少し華やかな場所で一番美しい君とデート。
心臓が朝から夕方の今まで強く鳴りっぱなしだ。
今だって…そう…。
前を歩く君が不思議で愛しい。
仁人「…あ。」
勇斗「…ん?えっ?」
まただ。
空気がガラッと変わり、空模様は全くの別物、マーブル模様に変わり果てていた。
車、人、信号、木々、生命、空気。その他の沢山の音や生気も耳には邪魔なノイズになってしまった。
仁人「耳、うるさいでしょ。」
勇斗「…あ、うん…。」
ノイズがうるさくて頭が痛くなる程。
冷や汗が止まらずに血が引き始める。
今まではノイズなんか無かったのに。
勇斗「…うぅっ!」
喉から不安と恐怖が飛び出しそうになった所、仁人はそれを止めようとした。
勇斗「…ゔっ」
が、そう上手くは行かなかった様だ。
勇斗「お”ぇっ」
勇斗は床にしゃがみ込み、わざわざ寄ってくれた仁人の腕の中で吐いてしまう。
多少仁人の服にかかってしまったものの、仁人は嫌な顔一つ見せなかった。
仁人が近づいて背中と頭を優しく包んでくれた事。
その嬉しさと吐き気でどうしようも無い。
勇斗「ごめっ…じんっ…お”え”ぇっ…。」
仁人「…大丈夫。誰も見てないから。」
…俺、仁人に嫌われたかなぁ。
仁人の方を頑張って見上げてもまた吐く。
仁人「…佐野君、今日の事は吐いて忘れないでね。」
勇斗にはよく意味が分からないなぁとしか思えなかったが、どこか、仁人は大切な事を伝えたかったのかもしれないと思える。
逆光で仁人の顔はよく見えないがただ、仁人の体温だけを感じ取れた。
後日、勇斗は朝早くに学校に着いた。
電柱や木々、その向こうまでも蜃気楼が蠢く。
朝から汗をかきながらも自転車は軽々と校門を通る。
その時、校門を通った、その瞬間的に勇斗の肌に冷たく寂しい風が触れた。
寒い。夏に。
吐く息も白く染まり、手も悴む。
勇斗「……え?」
ガラガラガラッ…。
冬に染まった硬いドアの音もまた、勇斗の脳を混乱状態にさせる。
…空もだ。
ふと窓の外を見ると、空はいつもと違って曇っている。
が、何か、雲の間から誰かが覗いている気がしてくる。
瞳孔が見える。
自分が監視されている様で、見守られている様な。
また、土曜日と同じ。
気持ち悪くなってきた…。
勇斗「な…に…これ。」
「……おはよう。佐野君。」
勇斗「あっ、仁人…君…?あれ…。」
確かに後ろから仁人の声がした。
したのに、そこには居ない。
自分の影だけが二つに増えているような、そんな感覚。
外を見ても廊下を見ても何処を見ても仁人は居ない。
「えー、それなー!お!勇斗じゃんおはよ!」
「勇斗今日早くね?(笑)」
教室の電気が着き、大勢が入ってきた様だ。
たちまち一室はザワザワし始め、不穏な空気は
無くならない。
舜太「勇ちゃんおはよう!なぁなぁ昨日さー……勇ちゃん大丈夫?」
勇斗「…か、影…っえ、ちょっ、」
舜太の方を見てみると、顔が歪んでいるではないか。
真ん中から、螺旋状にグルグルに、グチャグチャに歪んでいる。
他の人達もそうだ。
舜太「ちょ、いや、勇ちゃん?ほんまに大丈夫?顔真っ青やで…。」
勇斗「…だ、大丈夫だけど…じっ、仁人君は…。」
舜太は「仁人君」と勇斗が言った瞬間、眉を潜めた。
舜太も仁人に関してはあまり良いイメージを持っていないみたいだ。
舜太「…まだ関わりよん?まあ…勇ちゃんがええなら別に…えっ、勇ちゃん?大丈夫?吐かんといてや?」
…もう、駄目だ。
勇斗「ゔっ、」
…お”え”っ
「きゃあぁぁぁっ!!!」
「うわっ、勇斗が吐いた!」
「ちょ、誰かゲロのやつ!」
舜太「皆あんま騒がんといたってー!…勇ちゃん、保健室行こか。」
勇斗「…うっ、ごめんっ、お”えぇっ…。」
教室から出る時、二つに分かれた影の内、自分ではないもう一つが
「また、放課後。」
と言っている様な気がした。
第三章、完。