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「はい、恵ちゃんもいってきます」


涼さんが彼女を抱き寄せてキスしようとすると、恵は「ぎゃっ」と叫んで必死に抵抗しようとする。さながら、お風呂に入れられる前の猫だ。


私は尊さんの腕の中でニヤニヤしつつその様子を見守っていたけれど、チラッと涼さんに視線をよこされ、尊さんともども背を向けた。


「恵ちゃん、誰も見てないよ」


「いるっ、そこにいるっ」


私は背後霊じゃない。


「はい、ちゅー……」


涼さんの声がしたあと、小さくリップ音が聞こえ、私は心の中でガッツポーズをとる。


「尊、行こうか」


「ん」


そのあと、尊さんは私の頭をクシャッと撫で、恵にも「朱里をよろしく」と言って、涼さんと共に家を出て行った。


恵は壁と同化し、肩を落として消沈している。


「……どんまい」


声を掛けてポンと肩を叩くと、彼女は大きな溜め息をついた。


「昔のアメリカのホームドラマじゃあるまいし……」


「まぁまぁ」


私は彼女に声を掛け、ワクワクして漫画部屋に向かった。






家政婦さんが来たのは十時前だ。


玄関から物音がしたので、私たちは漫画部屋から出てコソコソとそちらを窺う。


すると五十代前半のショートヘアの女性が現れ、「あら、こんにちは」とにこやかに挨拶をしてきた。


「三日月さんから窺っております。私、家政婦の|北原《きたはら》|瑞穂《みずほ》と申します」


彼女は名刺を出して私たちにくれ、私たちは渡すべき物がなくてワタワタする。


「大丈夫ですよ。存じ上げていますから」


北原さんはそう言ったあと、荷物を持ってリビングに向かう。


「お掃除をしたあとに買い物に行く予定ですが、何か入り用の物はありますか?」


尋ねられたけれど、特に思い浮かばない私たちは、フルフルと首を横に振る。


「承知いたしました。何かありましたら、名刺に書いてあります仕事用アカウントにメッセージをくださいませ」


そう言ったあと、北原さんは広いマンション内にあちこちあるお掃除ロボットをオンにし、水回りの掃除を始めた。


私たちは何か手伝わないと……という気持ちになるものの、涼さんに『ホテルのルームキーパーみたいなもの』と言っていたのを思い出す。


確かにドライな事を考えると、親戚のおばさんが手伝いに来たわけじゃないし、仕事を奪ったら駄目なのかもしれない。


町田さんも言っていたけれど、所属している会社によっては雇い主との不必要な接触を避けているところもあるらしい。


私は町田さんとたまたまうまくいっているだけで、彼女も別の家では無駄口を叩かずにプロフェッショナルを貫いている可能性もある。


それに、下手に素人が手を出して、プロの仕事の邪魔をしてしまったらいけない。


そう思い、私は恵の服の袖をつんと引っ張り、「行こう」と漫画部屋に引っ込んだ。






お昼が近くなると、北原さんが漫画部屋に現れた。


「そろそろお腹すいてませんか?」


「すいてます!」


私は漫画本に栞を挟み、テーブルに置くとスックと立ちあがる。


「お二人とも、何か食べたい物はあるでしょうか? 定食系に丼もの、麺類も色々ありますし、カフェっぽい物も作れます」


恵と顔を見合わせると、「朱里は麺がいいんでしょ?」と言われる。


「恵は? この家の女主人になるんでしょ?」


「やめい。……私は別にそんなに好き嫌いないし、なんでも食べるから大丈夫」


私たちはリビングダイニングに向かいながらそんな会話をし、最終的にパスタに決めた。


先ほどの掃除と違って北原さんに話しかけても大丈夫な雰囲気だったので、私たちはキッチンにある椅子に腰かけ、働いている彼女に話しかけた。


「涼さんって、本当にこの家に女性を上げた事ありませんか?」


私が尋ねると、北原さんはニコリと笑う。

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