9人で準備すると、あっという間に広々とした庭がバーベキューセットで埋め尽くされた。
流石に普段は朝から肉を食べることはないけれど、豪快に大皿に盛り付けられた牛肉を見ていたら、お腹が空いてきた。
しかも、メニューは肉だけではない。ホタテに車海老などの海鮮、串焼きに鶏肉と豚肉。家庭でやるバーベキューにしては、豪華で豊富な品揃えだ。
💙「そろそろ焼こう!」
❤️「そっちは昨日買ったスーパーの安い肉だけど、こっちは業者から直接取り寄せた松阪牛だよ」
🧡「朝から松阪牛とか最高やん!」
🤍「贅沢だね~」
💚「おーいしそぉー!!」
涼太兄さんが焼く牛肉を、兄弟たちは嬉々として見つめている。
🩷「もう食べていいかな!?!」
❤️「そっちはまだ生焼けかも。あ、こっちはもう食べれるよ。熱いけど」
と言いながら涼太兄さんが大介兄ちゃんの口に焼き肉を運んだ。大介兄ちゃんは、それを幸せそうな満面の笑顔で受け入れる。
🩷「あーん♡って、熱っつ!!」
❤️「焼きたてだからね、笑」
💚🤍「あははははっ!」
口の中を火傷したらしい大介兄ちゃんが、声にならない悲鳴を上げながら走り回る。
それをブラックな笑顔で爆笑しているのは亮平兄さんだ。横にいるラウールは超音波みたいな声で笑っている。
涼太兄さんは、そんな三人を呆れたように小さく鼻で笑った。
少し火力が強そうなコンロで肉を焼いている、麦わら帽子の二人が何やら騒いでいる。
💛「あっ!それ翔太が焦がした肉だぞ」
💙「ほーら蓮もいっぱい食え」
いつの間にか、翔太兄さんが十数枚もの焼き肉を、トングで俺の皿に盛り付けていた。アイスを齧る照兄さんの忠告も耳に入れず、俺の皿を真っ黒に埋め尽くした。
💛「こんなに焦げ肉食べたら病気になるって」
💙「だいじょーぶだいじょーぶ」
💛「お前が焼いたんだからお前が食べろよ」
💙「はいはーい」
かくいう翔太兄ちゃんの取り皿には、涼太兄さんが焼いたであろう綺麗な焼き目の高級牛が乗っている。
🖤「あ、ありがとう…」
🧡「ダークマターできとるやんwww」
翔太兄ちゃんは焼くのが下手なのか、ほとんどが丸焦げになってしまっている。俺があまりの黒さに引きつった笑顔になっていると、今度は康二が爆笑し始めた。
🧡「まっず…ゥェ」
🖤「めっちゃ苦いね」
怒った翔太兄ちゃんに、お前が食べろと言われて明らかに顔をしかめた康二が、焦げた肉を半分食べてくれた。でもやっぱり焦げた肉は、お世辞にも旨いとは言えない。
🧡「どんな火力で焼いたらあんなんできるんや?」
🖤「もう焼き肉とは言えないレベルだね」
🧡「せやなwよし、蓮が可哀想やから、俺が焼き鳥焼いたるで!」
🖤「ほんと!!やった!」
🧡「期待しといてな!」
康二は鼻歌交じりにコンロの前に立った。その向こうでは、照兄さんが翔太兄ちゃんに説教してくれてるみたいだ。ちゃんと反省してくれるといいな。
焼き鳥が焼けるまで、飲み物で発がん性物質の苦味を薄めようと頑張っていると、日陰の椅子に座った紫音が視界に入った。
俺は炭酸飲料を飲みながら、少し離れた所から弟たちを見守る紫音にそーっと近づいてみた。
近くで見ていると、眼鏡のレンズから覗く眼差しは辰哉兄さんと別人なんだと腑に落ちた。
紫音は俺の姿を物珍しそうに見つめると、警戒心は解かずに訊いてきた。
🎵「お前、名前なんて言ったっけ」
🖤「蓮です。一昨日ここに来ました」
🎵「ふーん。辰哉になんもしてねぇだろうな?悪いが、お前はまだ信用できない。この体を傷つけられると困るからな」
紫音は自らの腕をそっと撫でながら、冷淡にそう言い放った。それでも俺は懲りずに笑顔を浮かべて話を続けようと試みる。
🖤「辰哉兄さんが大切なんですね」
🎵「そうだ。俺は辰哉を守るために生まれてきたからな」
🖤「俺も、辰哉兄さんが大好きです」
少し驚いた表情を見せた紫音の目を、真っ直ぐに見つめる。俺はゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
🖤「兄さんたちは、ずっとひとりぼっちだった俺を、優しく家族として迎え入れてくれた。だから、俺は家族を傷つけることなんて絶対にしません」
🖤「この家の事情はわかっているつもりです。でも、まだ俺のことは信用はできないと思います。それでも少し、紫音さんも俺に聞かせてくれませんか?あなたの話を」
訝しげに耳を傾けていた紫音は、わかったというように頷いた。
それから紫音は、兄弟の黒歴史から、腹を抱えて笑い転げる程の面白い話まで、色々な話を聞かせてくれた。
たまに兄弟たちが心配そうにこちらを覗いていたらしいが、後で聞くまで気がつかなかったほど、紫音と話すのに夢中だった。
紫音が辰哉兄さんの話をしている時のことだった。
🎵「俺は優しすぎる辰哉を、父親から守るためだけに生まれてきたんだ。それだけのためだったのに」
紫音の低い声が詰まった。俺が彼の顔を覗き込むと、紫音は泣いていた。まるで別れを惜しむかのように、辛そうに涙を流した。
🎵「いつの間にか、兄弟たちのことも大好きになっていたんだ。でも父親は遠くに行って、辰哉たちを傷つけることは無くなった。だから、俺の役目はもう無いし、俺はここにいる必要はない」
🖤「それって…」
🎵「知ってるか?この病気は、人格がひとつに統合されることで完治するんだ。辰哉はだんだん自分を取り戻そうとしていて、今その時が来た」
辰哉兄さんの病気が治ることはとても喜ばしいのだと思う。でも、紫音が消えてしまうのは違う。俺はどうにか引き留めようと彼の手を握った。
🖤「そんな!俺は、まだ…」
🎵「最期に、お前と話せて楽しかったよ。お前がいるなら、きっと辰哉もこの家も大丈夫だ」
安堵したような、柔らかな笑顔で言う紫音に、俺は何も言えなくなってしまった。
🖤「わかり、ました。辰哉兄さんとみんなとずっと一緒にいます。だから…!」
🎵「それでいい。蓮も、元気でな」
そう言い残して、紫音は満足そうな笑顔を浮かべて静かに瞼を閉じた。
地面に倒れこんだ辰哉兄さんの体を、何とか支える。遠くから見守っていたらしい兄弟達が駆け寄ってくる。
💙「え!?どうしたんだ!?」
💛「紫音!!」
🩷「兄ちゃん!大丈夫か」
💚「まさか、人格がひとつになった…?」
🖤「…兄さん。辰哉兄さん」
俺が兄さんの体を揺り動かすと、紫音のものではない、優しさを灯した瞳が開いた。
💜「ん…あれ、みんな…」
🤍「た、たつ兄…!?」
🧡「紫音は、どうなったんや?」
💚「きっと兄さんの病気が治ったんだ。人格が統合されて、紫音は消えてしまった」
まだ意識がはっきりしない辰哉兄さんを囲んで、兄弟たちは俯いて静まりかえった。
🖤「辰哉兄さんの、病気が治ったんだよ。紫音は確かにそれを望んでた。だから、喜ぼうよ」
💛「そうだな。それがいいよ」
🤍「紫音はきっと、幸せだったよね」
寂しげに、それでも嬉しそうに俺の言葉を聞いた兄弟たちは笑った。
💙「じゃ!辰哉の完全回復を祝ってバーベキューに戻りますか!」
💚「いや、兄さんの介抱が先だよ」
❤️「高級な肉を台無しにしたやつは黙って」
亮平兄さんと涼太兄さんに突っ込まれた翔太兄ちゃんは肩を落としたが、兄弟たちはどっと笑いに包まれた。
💜「バーベキューしてたんだ。俺も混ざっていい?」
⛄「もちろん!!」
辰哉兄さんが嬉しそうに、はにかむ。
俺は今度こそ美味しい肉が食べれられるように、コンロに火を点け直した。
更新止まってたり、今回長かったりでごめんなさい!次回は番外編です
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