~5年前~ 亮平13歳
僕は、兄弟が世界一大好きで大切。でも、父さんは世界一大嫌い。
そんな思想が僕の中で当たり前として確立した頃、ある朝突然兄さんが、見た目は変わらないのに別人のようになってしまった。
珍しく強い口調で嫌がる兄さんを近所の病院へ連れていくと、こんな診断をされた。
👩⚕️「亮平くん、よく聞いて。辰哉くんは、解離性同一性障害という病気です。それに、辰哉くんの体には性被害を受けたような傷が複数あったわ」
💚「え…?兄さんが?」
聞き馴染みの無い言葉に胸がざわつく。先生は、ひとりで兄さんの付き添いとして通院していた僕に、言い聞かせるように言葉を発した。
👩⚕️「おそらく、お父さんに性被害を受けていたんだと思う。この病気は、性被害者がなりやすいと言われているから、きっと辰哉くんも…」
💚「そんな…嘘だ…!」
俺は頭を抱えてその場で踞った。兄さんがくれた、首から提げたペンダントが視界に入り、涙が溢れる。
いつも優しい兄さんは、僕たちよりもずっと酷いことをされてきたのか。
そう思うと涙と後悔が止められなくなった。
いつも明るくて元気な目黒先生が、悔しそうに唇を噛んだ。
👩⚕️「ごめんね、亮平くん。これ以上君たちが傷つくのは私、見ていられない。私にひとつ案があるんだけど聞いてくれるかな?」
目黒先生は、自身が父と結婚することで僕たちから父を引き離すことを提案してきた。
💚「それじゃ先生が!」
👩⚕️「大丈夫。決して体の関係は持たないわ。あくまでも形だけの結婚。そしてお父さんにはなるべく遠い所に転勤することを勧めてみる」
💚「そんなこと、できるんですか?」
👩⚕️「わからない。でも、できる限りのことはしたいの。私の意思とはいえ利害が一致するように、君たち兄弟に受けてほしい提案があるんだけど…」
先生はこれ以上無いほど真剣な表情をしていた。そこからは、必死さと僕達を救いたいという願いが見えた。
兄さんを、弟達を守れるならどうなったっていい。僕の思いはそのひとつだけだった。
💚「僕たちにできることなら」
👩⚕️「ありがとう。私の要求はただひとつ。私の息子を、預かってくれないかな」
💚「お子さんがいるんですね」
👩⚕️「ええ。うちは夫が病気で数年前に他界しちゃったから、息子はいつも独りになっちゃってさ」
先生は悲しそうに笑った。
先生に家族がいることは知っていたけど、目黒家がそんな窮地にいるとは分からなかった。
👩⚕️「君たちと息子は年が近いから、気があうかなって思って。私の代わりとは言わないけど、私が君たちのお父さんを海外に留めている間に、面倒を見ていてほしいの」
💚「…わかりました」
👩⚕️「ま!まずはラウール君の病気と、君たちに残る傷を完治させてからだけどね!」
先生は手を鳴らして立ち上がると、いつもの明るい笑顔を見せた。
その数ヵ月後、目黒先生と父さんは本当に結婚式を挙げた。父さんは先生の提案も喜んで受け、無事海外転勤が決まった。
僕たちはついに自由の身となった。
先生は経営している病院が一段落つかないから、という理由で今は父さんと別居している。
この前、足をケガしたらしい先生の息子さんを、病院の待合室で見かけた。
先生によく似た整った顔立ちに、幼さの残る瞳。そこには、孤独が滲んでいた。
僕たちと同じだ。
警戒されてしまうだろうから話はできなかったけれど、きっと優しい子なんだろうな。
この子と暮らせるのはもう少し先になるけど、僕たちがこの子にとっての安心できる場所になれたら、と僕はまだ見ぬ弟との日々に思いを馳せるのだった。
次回も番外編です!
~主からのお知らせ~
随分時間をかけて構想を練ってきたこのシリーズも、あと数話で完結しそうです。
ここまで追ってきてくださった皆さまには、感謝の気持ちしかありません!本当にありがとうございます✨
あともう少しだけ、この兄弟の物語にお付き合いください!次回もお楽しみに!!
⛄🍏より
コメント
3件
続き楽しみ🎵
続き楽しみに待ってます♪。