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傍で鳴海が見守る中、生徒2人は無陀野へと攻撃を仕掛ける
背後の皇后崎を難なく避けた無陀野だったが、直後彼の体には縄が巻かれていた。
無陀野を縛る縄の先を握り締め、手を組んだ一ノ瀬と皇后崎は全力で引っ張る。
疲れ果てている体を奮い立たせ、2人は無陀野との持久戦に臨んだ。
「たぐりよせろぉぉ!」
「(根比べか…)」
「(無人くん細く見えるけど、ちょっとやそっとじゃ動かないぞ…!頑張れ!)」
「皇后崎!もっと引っ張れオラぁ!もっともっと!」
「お前本当…うるさい…!」
「うおおぉ!」
「(体力がMAXなら希望はあったな。)」
その時、無陀野に向かって血の歯車が飛んでくる。
皇后崎が最後の力を振り絞って出した攻撃によって、無陀野は一瞬体勢を崩した。
その隙を突いて、一ノ瀬は彼の手に握られているボールに向かって走り、手を伸ばす。
だがボールに手が触れそうになる寸前、無陀野は不意にそれを皇后崎の方へと転がした。
「(うわっ!すごい展開…!このままボール取られたら負けちゃうぞ、四季ちゃん!)」
「(残り3分弱…全力で走ればゴールに間に合う可能性がある。俺からボールが離れてる最後のチャンスだ…皇后崎がボールを持って走ったら、恐らく四季も奪おうと追いかける。その奪い合いの隙に奪い返す!)」
「よっしゃあぁ!早く取ってゴールしちまえぇ!」
「「!?」」
「あれ…もしかして四季ちゃん、ルール分かってない…?」
「はっはー!どうよ!?先生からボール取れたぜ!」
「あのままゴールしたら、皇后崎だけ勝ちだぞ。」
やはりというか何というか、一ノ瀬はルールを理解していなかった。
無陀野の言葉に愕然とし、走り去った皇后崎を叫びながら見つめる彼の姿に、鳴海は笑みを漏らす。
そしてスルスルと縄を解いていた無陀野の元へと駆け寄るのだった。
「無人くん、大丈夫?」
「あぁ。にしても、あいつの馬鹿さは計算外だった。」
「ふふっ。まさかの展開でビックリしたね。でも嫌いじゃないよ、四季ちゃんのあの性格。」
「そうだな。まぁ言い方を変えれば、損得を考えない…目の前のことに真っ直ぐな奴ってところか。」
「そんなとこだろうね〜」
「…鳴海、お前随分濡れてるが寒くないか?」
「別に寒くないけど…なんで?」
「昨日つけた痕が全部見えてる」
「えっ…そんなにつけたの!?」
「足の付け根にも付けたし3箇所噛んだ。すまん」
「独占欲の鬼…」
昨夜も普通に楽しんだ2人。
無陀野の独占欲の強さには毎度驚かされる鳴海であった
一方、ボールを手に入れた皇后崎は、ゴールを目指してひた走る。
時間的にはギリギリだが、まだ可能性は残っていた。
だが足を速める彼の脳内には、2人の人物の声が聞こえていた。
“助けてやるから協力しろ!”
“縄ほどくね。”
“するよ。だから早く行って!”
“ゴールしちまえぇ!”
今自分がこうしてボールを持ってゴールへ走っているのは、鳴海と一ノ瀬の行動があったればこそだ。
そう思うのと、皇后崎の足が来た道を戻るのは、ほぼ同時だった。
突然戻って来た彼の姿に、鳴海と一ノ瀬は目を疑う。
「戻ってきたぞ!?究極の方向音痴ですか!?」
「わお。まさかの爆裂方向音痴!?」
「勘違いするな!二度もお前らに借りを作るのが嫌なだけだ!俺は退学になろうが!1人で目的を成し遂げる!だから!お前が!ゴールしろ!」
「(くーっ!迅ちゃん、やるじゃん!男同士の友情って最高!)」
勝手に盛り上がっている鳴海を他所に、皇后崎は更にスピードを上げてこちらへ向かって来る。
と、そんな彼と一ノ瀬の間に突如小さな生き物が割り込んでくる。
それに気づいた鳴海は、皇后崎を止めるため慌てて彼の前に飛び出した。
「迅ちゃん、ストップー!」
「! 馬鹿…!どけ!」
「ちょ…!」
皇后崎も小さい生き物には気づいていた。
だがそれよりも前に飛び出してきた鳴海のことは、避けることも止まることもできなくて…
多少勢いは衰えていたものの、皇后崎は走ってきたスピードのまま鳴海にぶつかった。
しかし体格差もあるのでぶつかった皇后崎は、後ろに吹っ飛ばされ鳴海は後ろ向きに倒れかけている皇后崎の手を掴み引き寄せる。
「あっ……ぶなぁい…」
「こっちのセリフだ。急に出てくんな!」
「それはそうだわ。ごめんね」
「はぁ…」
「怪我してない?」
「してない」
「おい、皇后崎!いつまでそうしてんだよ!早く離れろって!」
いつまでも鳴海と近距離で会話を続ける皇后崎に痺れを切らし、一ノ瀬はそう叫びながら自分の天使を彼から引き剝がす。
どこも汚れていないのに、無駄に自分の制服をパンパンと払ってくれる一ノ瀬に、鳴海は楽しそうな笑みを見せた。
そうして鳴海の服を払いながら、一ノ瀬はようやく足元にいる小さい生き物に目を向ける。
「つーか、なんだこの丸っこいの!」
「あれこの子…」
「待て!この子は獏速通信の獏。名前は夢喰むく…通称むっくんだ。通信履歴を残さず素早く情報を運ぶ。」
「何かあったのかな…」
「(この子が来るってことは緊急か…?)そうかもしれない。失礼する。」
一気に不安そうな表情を見せる鳴海に少し目を向けてから、無陀野は片膝をついてむっくんが背負うスピーカーに集中する。
鳴海達3人も、同じように耳を傾けた。
《こちら鬼機関京都隊!鬼機関京都隊!》
「京都…!」
《桃太郎機関による襲撃を受けている!至急応援を頼む!》
「鳴海、お前は先に京都に向かえ。」
「んー、OK」
「他の隊員は連れてこられないのか?」
「全員出払ってるから無理かなー。ま、大丈夫っしょ。メメちゃんたち生きてっかなー」
軽く柔軟体操をしながら鳴海は仕事モードへと気持ちを切り替えた。
雰囲気がガラッと変わった鳴海を見て唖然とする一ノ瀬と皇后崎。
その場を後にした鳴海の姿を呆然と見つめていた