獏速通信で京都の様子を聞いた鳴海は、その足ですぐに現地へと向かった。
船と電車を乗り継ぐこと数時間…彼が久しぶりに京都の地を踏んだのは、辺りがすっかり暗くなり、人通りもまばらになるような時間だった。
第11話 ヤバい奴
地下にある京都支部へと続く階段をダッシュで降り、バンッと勢いよく扉を開ける。
その音に反応して出てきた練馬配属医療部隊は、懐かしい顔に喜びの表情を見せた。
「鳴海隊長ぉぉぉ!来てくれたんっすね!」
「待ってました隊長!すぐ輸血パック取って来ます!」
「いつもより多めで!」
「京夜先生ー!鳴海隊長来てくれましたよー!」
1人の看護師が奥の方へ向かって大きな声で呼びかければ、”先生”と呼ばれた人物が部屋から飛び出してくる。
そして鳴海の顔を見るや否や、ものすごい勢いで走ってきてガバッと抱きついた。
「なるちゃん!」
「久しぶり!京夜くん!」
「久しぶり!元気にしてた?ダノッチにいじめられてない?」
「してないよ〜!」
この白衣を着た一見チャラそうな人物…花魁坂京夜だ。
彼はこの京都支部の援護部隊総隊長であり、また同時に鳴海の同期でもある。
学生時代からの付き合いでズッ友である2人
「こんなに早く来てくれると思わなかった!ありがと。すごく助かるよ。」
「すぐ行けって言われちゃったからね〜。万が一、桃関隊長クラスが来ても安心して俺が守るから」
「なるちゃんいるなら大丈夫っしょ〜」
「先生、いつまで鳴海ちゃんにくっついてるんですか!早く治療に戻ってください!」
「そうすっよ!隊長、これ!前回の残りの輸血パック」
「取っといてくれたの…!ありがと!メメちゃん」
そうして受け取ったパックをポケットというポケット全てに押し込み鳴海は花魁坂の後を追って負傷者が横たわる部屋へと向かうのだった。
その途中、現状を報告するため、無陀野への連絡も忘れないのが鳴海のすごいところである。
翌日。
鬼ヶ島から出ている船に乗り込んだ一ノ瀬達は、無陀野の引率の元、本土へと向かっていた。
訓練もそこそこに突然課外授業へと駆り出され、生徒達は聞きたいことが山ほどある様子。
「先生!桃太郎機関と交戦中の所に僕らが行って大丈夫なんですか?」
「仕方がない。教師を含めて他のクラスも実習でいないし、それに行くといってもお前らは雑務の手伝いだ。戦場には行かない。」
「(何!?)」
「はぁ!?戦わないのかよ!?」
「俺ら鬼ごっこの実習もやらず、その上パシリかよ?」
戦場に駆り出されるからには、当然自分達も戦うものだと思っていた一ノ瀬や皇后崎、そして矢颪は納得がいかない。
皆早く戦線に出て、自分の目的を果たしたくてしょうがないのだ。
だがまだまだ未熟な彼らを、無陀野が戦線に出すはずもなく…
“死体を増やすつもりはない”とキッパリと言い切った。
次に生徒達から出てきた疑問は、では自分達は何をするのか?というものだった。
「そもそも鬼機関は全国市区町村にそれぞれ何隊か配属されている。そこで任務をこなすが、主に2つの任務がある。1つは”戦闘部隊”…桃太郎が攻めて来た時に前線で戦う。もう1つは”援護部隊”だ。」
「鳴海がいるとこは戦闘部隊って言ってたな」
「あいつの部隊は少し特殊だから本人から聞け。昨日も少し説明したが、援護部隊は救護専門の鬼がいるところだ。時には身寄りのない鬼を保護したりもする。今回行くのは援護部隊の方だ。それと屏風ヶ浦は学園で休みだ。数日は動けないだろう。」
「(強くなれるチャンスなのに納得いかねぇ…それに…あいつがいるかもしんねぇのに…!)」
「お前が捜している桃太郎は京都にはいないぞ。」
「え?」
「桃太郎機関も鬼機関同様に管轄がある。」
「京都にいる桃太郎はどんな奴なんですか。」
「一言で言うと…ヤバい奴。」
遊摺部の質問にそう答えると、無陀野は本土の方へと視線を向ける。
その目には、今まさに戦場で踏ん張っている鳴海や京都支部の面々を心配する気持ちが見え隠れしていた。
そんな彼に、一ノ瀬が昨日からずっと気になっていたことを問いかける。
「先生、何で鳴海って先に行ったの?」
「あいつの血は汎用性が高くてな救護にも使える。こういう状況の場合、援護部隊の力が勝敗を左右することも多いからな。だがそれだけじゃない。京都はあいつ部下の管轄区域だ。」
「えっ、そうなの!?」
「あいつの部隊は全国各地から集めたよりすぐりの精鋭部隊だからな。各支部に一個分隊送り込んでる」
「鳴海ってすげぇ」
「戦闘部隊でも鳴海の部隊に入れることは名誉なことで生徒の間でも人気の部隊だ」
「俺も卒業したらそこに行こうかな…」
「お前、どうしてそんなに鳴海を気にかけるんだ?まだ会って間もないだろ。」
「だって鳴海が俺のこと気にかけてくれるから。親父のこともそうだけど、なる先ってめちゃくちゃ優しいじゃん。傍にいると安心すんだよね。」
「だから天使なのか?」
「そっ!鬼の国の天使って感じかな!」
“鬼の国の天使”…その言葉を、無陀野は不思議な程すんなりと受け入れることができた。
事実、無陀野から見ても鳴海は天使で目に入れても痛くないと本人は言う