テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「そういえばさぁ」と言って話を切り出したのは、甘夏の方だった。
「ハルって、人と話すのが怖い…んだった?女将さんと話す時も、怯えてたもんね。私は、そういうことを考えずに、ガシガシ行っちゃったから、困ったよね。ごめん。」
「え!あ、いや、私はむしろ、甘夏がそうしてくれたからその、えっと、今は甘夏と話すの、楽しいよ。」
…本当に、その通りだった。甘夏はこうして積極的に話しかけてくれるし、時々言葉に詰まってしまう私のことも、待っていてくれる。
玉雨と甘夏は、ハルが硬直せずに話せる『条件』と言うものがあるのだろうか。
玉雨も、不思議な人だ。やっぱり、隠り世に住んでいるから、次元というものが違うのだろうか。狐面を被っているからか。
__守ってやれる。
「ッ//!」
「え!はっちゃん、どうかした⁉︎赤くなって!熱⁉︎」
…甘夏がそう言ってくれるのは多分、熱がありそうに見えるほど、紅潮しているからだろう。
(全く、情けない…)
着物と浴衣、あの言葉のことで、妙に玉雨のことを意識してしまっている。
(初対面のはずなんだけどなぁ…。玉雨様も、どうして私の身につけ物を選んでくれたのかな)
トタ、トタ、トタ、、
静かで長い廊下を、甘夏と共に歩いてゆく。
またあの模様が気になってしまい、戻りたくなる。と、突然、
「あ!忘れてた!お風呂!」
と、甘夏が声を上げた。
「えっ、お風呂!?」
「うん!温泉だよ!隠湯堂にはね、おおっきなお風呂があるんだよ!自分なんてちっぽけに思えるくらい。ひょえーって言っちゃたの、まだ覚えてるなぁ。」
「ふふ、本当に大きいんだね。」
楽しそうに、懐かしそうに話す、甘夏の姿が、なんだか、妹のように思えてくる。
『初対面』なのに。__では初対面とは何か。
「さ、はっちゃん!早速行ってみよ!あ、温泉に行く前には必ず、着替えように浴衣があるか確認するんだ!だけど、どうしようかな。はっちゃんには今、専用の浴衣ないから…。あそうだ!玉雨様が選んでくれた浴衣着てみる⁉︎」
「え⁉︎⁈」
心を読み当てられたかようにさらりと言われ、内心本当にびっくりする。だが。
「…うん。着てみたい、な…。」
「あははっ!はっちゃん、すっごく真剣に見てたもんね!そりゃあ嫌でも着たくなっちゃうか!なんか羨ましいなぁ」
「ちょっと、甘夏!もういいから、早く浴衣持って温泉行こ//‼︎」
「あ〜‼︎ま〜た赤くなった〜‼︎」
あはははっ、と、静かだった廊下には、いつの間にか楽しそうな笑い声で彩られていた。
_桜滝。
「…?はっちゃん?どうしたの?」
「………」
あの名を呼ばれた気がした。それは、ハルがあの部屋で目覚めてから、初めて思い出したことだった。……どうして…?
「…はっちゃん…?」
突然立ち止まり、顔を蒼白させていくハルが心配になり、
甘夏の声はますます焦りに染まってゆく。
「その奥には、誰もいないよ?…ねぇ、はっちゃん、はっちゃん!」
何回か揺さぶって、ようやくハッとした表情に戻る。
「あっ、甘夏。ごめんね、なんかぼーっとしちゃってたみたいで。」
「ほんとに?もしかして、、まだ疲れてるの?それなら言ってくれればっ…」
甘夏の声は震えていて、今にもすこし、涙をこぼしてしまいそうだった。その目からは不安と、ハルを心配していることが読み取れた。
「本当に大丈夫だよ。心配させちゃってごめんね。」
まだ心がざわついているのを、ハルは甘夏に感づかれないように、必死に抑えた_。
コメント
1件
甘夏ちゃぁん、…ハルちゃんのこと大切にしてくれるのぉ、… いい子ぉ、…いい子ほんとにぃ、…、 んでもってハルちゃんに似合いそうな浴衣選んでるの好きですぅ、… 想像しただけでちょいと鼻血出るわ。