ひとりぼっちの青鬼様

「らーっだぁっ！」

「うわぁっ!?」

「うるせー…声のデカさは健在だね」

こいつらまじ気配消して背後に立つなよ。そのイカ足噛みちぎってやろうか。

「わぁ顔怖い。どうせ俺のイカ足ちぎろうとしてるんでしょ」

「あバレた？ならしょうがない、一本くらいいいでしょ寄越せ」

「やだよ。…んで？みどりくんと仲良く喋ってたね。和解したの？」

「…どうだと思う？」

「してないと思う！だってみどりくんが背中を見せた瞬間顔強ばってた。大方あの人間の子供がいるから険悪ムードを作りたくないとかでしょ」

「ヒュウ、大正解。気持ち悪いくらい俺の考えわかるねお前は」

「俺のらっだぁへの愛ゆえ…かな♡」

よし殴ろうこいつは。話を聞いているだけのきょーさんだってこいつ殴りてぇみたいな顔してる。許されるだろ殴っても。どうせ殴れないんだけど。このイカ足に掴まれて返り討ちにあうのが目に見えてる。

「きょーさぁん、盗み聞きしてないで会話に混ざったら？今はらっだぁも邪険にしないよ。ね？」

「俺がこいつに邪険にされるのが怖いみたいな言い方やめろぉ、こいつと話すことなんか何もあらへん」

この空気に似合わない仏頂面をした男にこんちゃんが話しかけるが、会話には応じず叩き落とす。全く、今の一瞬くらい和んだっていいのに。頑固なのは相変わらずだ。

そういえば、この空気のせいで緊張が緩みお腹が空いてきた。丁度夕飯の時間だし、何か適当に作ろうか。ぺいんとは…まぁ、うちにいることをラタミを通してともさんに伝えてもらえば良いだろう。

さて、と冷蔵庫を漁ったはいいがろくな食材がない。買ってくるか…？いや、ラタミやぐちつぼ達がいるとはいえこいつらとぺいんとを放置したくない。

「……はぁ、仕方ない。こんちゃんイカ足」

「夕食に自分の足出るとか最悪なんだけど。絶対いや」

「じゃあ金豚。豚足ちょうだい」

「ぶっ殺す」

「冗談ですやん。…はぁ〜…くっそ…おいげんぴょん？ちょっと夕飯になりそうなもの市場で買ってきて」

「はぁ〜？何で俺が」

「本当にお仕置き受けたいならいいけど」

「行ってきマース」

「ラタミ連れてっていいからさ」

やったァ！と仲の良かったラタミを連れて窓からげんぴょんが飛び出して行った。ドアから行け。…まぁいいか、あいつらを常識に当てはめる方が馬鹿だ。ラタミも久々に会えて嬉しそうだし。ぐちつぼの周りに飛んでいるラタミ達も目を細めてずっと何かを話している。ぐちつぼの話と、使魔じゃなくなってからの俺の話。独立してからのことはよく知らないから今度俺も聞こう。

「…ﾋﾟｨ」

「なぁに、心配してくれてるの？大丈夫だよ、今はね。お前も遊んできなよ、仲良かったでしょ？」

「…」

「…んふふ、ここにいるの？ありがとね」

昔からいる、それこそ俺が一番初めに生み出したラタミは俺を気遣ってくれるらしい。俺から生み出したとは思えないイケメンぶりだな。まぁそんな丸々ボディで言われてもって感じではあるけど…

「…ねぇ、どうしようね、これ」

「…」

「おれ、どうするのが正解？お前は俺よりずっと賢いからわかる？それともやっぱり自分で考えないとだめって言う？」

「…ﾋﾟｨ、ﾋﾟ、ﾋﾟﾋﾟ」

「『何があってもそばにいるよ』？…ふは、答えになってねぇよ」

涙腺なんてとっくに枯れた。それでも優しいこいつの、こいつらの為に涙のひとつでも流してやりたいとは思う。優しい、こいつらの為に、俺はどうするのが正解なんだろう。

「…お前らのことは、俺が守るからねぇ」

まんまるボディをなぞるように触れる。すべすべで、でも俺の手を離れさせるようなツルツルは無くて。俺の低い体温を心地よいと言うこいつらがいつからか俺の生きる理由になっていて。俺の、俺だけの使魔がいつまでも楽しく生活できるようにと願い続けた。

「ﾗﾀﾞｵｸﾝ、ﾃﾞｷﾀﾖｰ」

「はぁい、見して」

「ﾝ!」

「……えっ、待って最上級ポーション作りやがったなお前ぇ!!」

「ﾝ？ｳﾝ」

「俺は上級ポーションが欲しかったのに…こんな良い物売りに出せねぇよ国王に献上するレベルだわ」

ポーションやら武器やらをともさんの名義を借りて売りに出して収入を得ているのに。城下町の平民が来るような店にこんなもん置いといたら検閲待ったナシだ。

「ﾍｰ、人間めんどくさいﾈｰ」

「そう、めんどくさいのよ。全部作り直しね」

「ﾊ?ﾀﾞｯﾙ」

「別にやらなくてもいいけど」

「ﾔﾙﾖ、返して」

俺に貢献できるのが嬉しいのか作り直しと言われても嬉々としてまた椅子に座りポーションを作る。みどりは純粋だから、喧嘩早いきょーさん達と過ごしていると悪気なく人を害してしまう。今回は誰も傷を負っていないしぺいんとが優しかったから謝れば許されたけど、本当に人を殺しでもしたらどうするんだろう。…どうもしないんだろうけど。人間は弱い、それを刷り込まれてしまったから。

「はぁぁ〜〜…」