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「えっ? ゆうくん、大きくなったら、ぷろれすらーになるの?」
「うん! でね、世界チャンピオンになるんだ」
「ちゃんぴおん? いいなぁ~、なんかカッコいい!」
「かぐちゃんも、一緒にぷろれすらーになる?」
「えっ? でもわたし女の子だよ? ぷろれすらーになれるの?」
「うん! 女の子には、女子ぷろれすっていうのがあるんだ。かぐちゃん、カワイイからアイドルれすらーになれるよ」
「アイドルれすらー? ぷろれすらーなのにお歌とか唄うの?」
「うん! それでね、人気が出たりチャンピオンになるとしーでぃーとか写真集っていうのも出るんだって」
「すごーいすごーい! わたしもぷろれすらーになりたいっ!! それでね、ちゃんぴおんにもなる!」
「よ~しっ! じゃあ、どっちが先にチャンピオンになるか競争だ!」
「うんっ!!」
「それじゃあ、さっそくトレーニングだ!」
「えっ!?」
「まずは、あしよんのじ(*01)から――」
「えっ? ちょっ、待って! あたしスカー卜でっ!? って、いやゃぁぁぁーーっ!!」
第二次プロレスブーム――プロレス二大団体が互いにゴールデンタイムで一時間枠の放送時間を持ち、高視聴を収めていた時代があった。そして女子プロレス団体の選手はアイドル顔負けの人気を博し、リング以外にもコンサート、CDデビュー、写真集などと活躍の場を広めていった時代。
しかし、そんな時代はたった数年で終わりを告げた……
テレビでは放送時間が短縮され、深夜帯へと移動。そして興行回数の減少に会場の縮小と、プロレスは一般の人達の目に段々と触れる事がなくなって行った。
しかし、それでも彼等、そして彼女達は、一部の熱狂的なファンに支えられ日々熱い戦いを繰り広げているのだ。
そしてオレ、|佐野優人《さのゆうと》が初めてプロレスを目にしたのは、そんなプロレスブームの過ぎ去った小学校一年生の夏休み。新聞屋から貰ったというタダ券を持ち、オヤジに連れられて行った地元の小さな市営体育館。
その日、オレの人生が大きく変わった……
衝撃だった――激しくぶつかり合う大きな身体。極限状態で繰り出される派手な大技。もしこんな技を自分が受けたら、どうなってしまうだろう……?
そんな事を思いながらも、目はリングの上に釘付けになっていた。
その中でも一番衝撃を受けたのが、虎のマスクを被ったレスラーの試合。小柄な身体で誰よりも高く翔び、誰よりも激しい大技を繰り出す虎のマスクマン。
その華麗にして繊細、そして激しいファイトスタイルにオレは完全に魅了されていた。
試合が終わり、オヤジの運転する車の中でオレの将来の目標が決まった。
『オレはプロレスラーになる! そして、いつかあの人と試合したい!』
早速その翌日からプロレスラーになる第一歩として、空手教室に通い始めたオレ。その後、中学高校と空手を続けながら更に柔道教室に通い、部活では跳躍力とバランス感覚を身に着けるために体操部へと入部した。更に大学ではプロレス部へ所属。
そして、丁度その頃だった。『歴史は繰り返す』とは良く言ったもので、満を持したように第三次プロレスブームが到来。プロレス界は、再び大いなる盛り上がりを見せる。
そんなプロレスブームの真っ只中、いよいよ迎えた大学の卒業式の日――
その日、オレの長年の夢が終わった……
入団テストの応募要項にあった、たった一行の記述でオレの十数年の夢が幕を閉じたのだ。
『入団資格、身長170センチ以上』
只今年齢二十二歳。身長160センチ――
さて、とりあえず明日からバイトでも探すか。
(*01)足4の字固め
仰向けの相手に仕掛ける足への関節技。
相手の足が数字の4の字になる事から、足4の字固めと呼ばれている。