久しぶりに会ったアレシオは少し太っていた。
太陽の沈んだあとのベニスビーチは人影がまばらだった。俺達は砂浜にある吊り輪や鉄棒で遊んだあと、石段に座って安ビールを酌み交わした。
ローマの女性から、来年結婚するというエアメールが先週届いたという。
「イタリアに戻ること、これまで何度も、何度も考えた。でも、俺は今ここにいる」
空の色、海の色、空気、気温、全てが変化していく。俺は風で解けたマフラーを、しっかりと首に巻いた。
「ナツミには、絶対深入りするな。友達として忠告しておく」
紫色の雲のトーンが消え始め、月が光りだした。
「あのバンドには、俺から詫びを入れれば済むかも知れない」アレシオは言った「でも、そうしたらお前の夢も終わる」
ウエストウッドのジャズコンサートに出演したバンドに、俺を推薦してくれたのはアレシオだった。彼だって、どんなにかこのチャンスをモノにしたかったことだろう。
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