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第五話 『約束』
レオンハルトを助けた日から、数日。
王城では、相変わらずリュシアンの噂が広がっていた。
「また涙を流したそうだ。」
「やはり魔力の代償だろう。」
「感情を奪われた子だという話だ。」
誰も悪意で言っているわけではない。
むしろ、同情だった。
だがそれが、余計に息苦しかった。
(違うんだけどな……)
リュシアンは心の中でだけ、小さく呟く。
◇◇◇
その日も、王城の庭園は穏やかだった。
風が花を揺らし、光が水面に落ちている。
リュシアンは東屋で本を読んでいた。
静かな時間。
誰にも気を遣わなくていい時間。
――のはずだった。
「リュシアン。」
声がした。
顔を上げると、アルフレッドが駆けてくるところだった。
その後ろに、レオンハルト。
さらに少し離れて、白金の髪を揺らす少年。
セシル。
(……揃ってる。)
この時点ではまだ「ただの偶然」だった。
だがリュシアンにとっては、少しだけ胸がざわつく光景だった。
「こんにちは。」
リュシアンが本を閉じると、レオンハルトが軽く会釈する。
「この前は……助かった。」
「けが、しなかった。」
短い言葉。
それでも真剣だった。
「ぼく、もっと強くなる。」
レオンハルトはそう言って、小さく拳を握る。
「今度は守る側になる。」
アルフレッドがすぐに頷く。
「ぼくも!」
「王子さまになったら、絶対守る!」
二人ともまだ三歳。
それなのに、言葉だけはやけに重い。
(やめてほしいな……)
そう思うのに、胸の奥が少しだけ温かい。
そのときだった。
「……無理をしている顔ですね。」
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#恋愛
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#微糖
静かな声。
セシルだった。
ゆっくりと歩いてきて、リュシアンの隣に立つ。
「リュシアン。」
「……?」
「あなたは、優しすぎます。」
淡々とした口調。
しかし視線は逃がさない。
「助けたあと、必ずそうなる。」
「少しだけ、苦しそうな顔をする。」
リュシアンは固まる。
(……見てるの?)
そんな細かいところまで。
セシルは、ほんのわずかに目を細めた。
「一つだけ、訂正してください。」
「……?」
静かに。
はっきりと。
「大丈夫な人は。」
「そんな顔をしません。」
リュシアンの呼吸が止まる。
(……あ。)
言葉が刺さる。
否定ではない。
責めでもない。
ただ事実のように言われた。
だからこそ、逃げ場がなかった。
セシルはそれ以上何も言わず、視線を逸らす。
「それだけです。」
そして静かに立ち去ろうとする。
その背中を見て、アルフレッドが慌てる。
「え、セシルもう行くの?」
「少し用があります。」
短く答えたまま、彼は去っていった。
残された空気は、少しだけ重かった。
◇◇◇
「……セシルって、変だね。」
アルフレッドが首をかしげる。
「でも。」
レオンハルトは小さく言う。
「間違ってない気がする。」
リュシアンは何も言えなかった。
◇◇◇
その後も三人は東屋に残った。
アルフレッドは無邪気に話し続ける。
レオンハルトは静かにそれを聞く。
そしてリュシアンは――
いつものように、あまり表情を出さないまま座っていた。
けれど。
ほんの一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
口元がゆるんだ。
それを、アルフレッドは見逃さない。
「今、また!」
「笑った!」
「え?」
リュシアンは慌てて顔を戻す。
「笑ってない。」
「うそだ!」
「笑った!」
騒ぐアルフレッド。
少しだけ困ったようにレオンハルトがため息をつく。
そんな空気の中で。
リュシアンは、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
(……バレるなよ。)
そう思いながらも。
悪くない、とも思ってしまった。
そのとき。
東屋の柱の影から、セシルが一瞬だけこちらを見ていた。
そして小さく目を伏せる。
(やはり……)
誰にも聞こえない声で、そう呟いて。
静かに歩き去った。
◇◇◇
三人の小さな約束は、その日のうちに交わされた。
アルフレッドの「守る」。
レオンハルトの「強くなる」。
そしてまだ言葉にされない、セシルの「見抜く」。
リュシアンはそれを知らない。
ただ一つだけ。
この世界に、自分を見てくれる存在が少しずつ増えていることだけを、ぼんやりと感じていた。
そしてそれが。
後に一番厄介な事実になることも、まだ知らなかった。
第五話 『約束』 終
コメント
3件
みぅだよ🤍🥀 第5話、読んだよ…。 セシル、すごいね。リュシアンの“大丈夫そうな顔”の裏側まで見抜いてる。あの「大丈夫な人はそんな顔をしません」って台詞、重くて温かくて、一発でやられた。 アルフレッドとレオンハルトが「守る」って約束してくれたのに、リュシアンはまだ一人で抱え込んでる感じが切なかった。 でも、最後に口元緩むシーン、ちょっと泣きそうになった。ちゃんと見てる人がいるんだって、リュシアンが少しずつ気づいていくのが…好き。 続き、気になるよ🌙